影の正体 <1/4>
竈の前で、先程まで泣いていた女の子はフライパンを握りしめウサギ肉を焼いている。
そんな彼女の後ろ姿を洞窟内から見ながら、何でこうなった……と先程までの一連の流れを思い出していた。
水を掻き分けるような音が聞こえてきた。
その音を聞き、呆然としてしまった意識を影に戻す。
ダミ声の主であろう影が、川を渡って来たのだろう。
その動きは至って緩慢で遅い。
火の光が届く範囲に近づいて来たからか、少しすつ全貌が見えてくる。
足元から見ていくと、足には大きな葉っぱが巻いてある。
恐らくは俺が着ている物と同じであろう、黒い上下の服を着ている。
俺と大きく違うとすれば、その胸回りだろう。
男性には存在しない膨らみがあり、女性であると判断できた。
顔を見れば一目瞭然で、少女という言葉が似合うだろう顔立ちだ。
黒目、黒髪でセミロング。身長は150前後程だろうか。小さく見えた。
目元からは涙が流れ、少し赤く腫れているようだ。
「う、ぅ……、ひぐ、こごは何処でずぅか?
何で私こんな所にいるんでずか……」
此方岸に来るなり、唐突に少女が口を開いた。
やはり、先程のダミ声はこの少女なのだろう。
『泣きすぎで喉でも痛めてるの……?』と思わず言いそうになるが、何とか口にせずに済んだ。
「えーと……、まずここが何処かは俺にも分からない。
あと君が何で此処にいるのかと言うのも、ちょっと分からないな……。
そもそも俺も何でこんな所にいるか分からないんだけどさ……。」
一応返答した方が良いだろうと口に出すが、正直答えにはなっていない。
そもそも、俺が知りたい位だ。
「……う、ぅぅう」
目の前の少女が更に泣き出した。
どうしたらいいんだこれ。
「あー、とりあえず、川渡ったから濡れて冷たいだろう。
火の近くで暖まるといいよ?」
とりあえず、彼女が泣き止むのを待つことにする。
とはいえ流石に立たせたまま放置するわけにもいかず、火に当たるように言ってみる。
すると彼女は、泣きながら何も言わずに竈近くまで歩き地面に体育座りをする。
膝に頭を乗せ、泣いているようだ。
俺はそんな彼女が泣き止むのを待つ間に、ウサギ肉を川から取り出した。
まぁ、食事でも取れば泣き止むだろうという軽い考えでの行動なのだが。
ウサギ肉を少女がいる横に置き、洞窟内まで串を取りに行った。
串は地面に直接置いていたせいか、土で汚れていた。
仕方ないので、川原に洗いに行くために川に戻ろうとする。
川原側に振り向くと、少女が膝から頭をあげて此方に顔を向けていた。
顔を見ると、ポロポロと涙が出ている。まだ泣き止んだ訳ではないが此方が気になるのだろう。
「ご飯にしようかと思ってるんだけど、君も食べる?」
一応聞いてみたのだが、少女の反応が想像以上に凄かった。
目を大きく見開いて、首を縦に何度も振りだした。
よほどお腹が空いてるのだろうか。
早く用意しないとなっと、早足で串を洗いに行った。
竈に戻り、平らな石の上でウサギ肉を包んでいる草と蔓を外していく。
肉はどうなっているかなと見てみるが、問題なさそうだ。
食べたら水っぽい可能性はあるが。
「出ろ」
二人分だし、半分に切るかと思い包丁を取り出す。
「その包丁、今どごから出したんですか!?」
いざ肉を切ろうとしたときに少女から声が掛けられた。
何か恐ろしい物でも見たかのような声色だ。
「どこって言われると、分からないんだけど……。
とりあえず、目が覚めた時に側に落ちてたから使ってるんだよ。
言うだけで出てくれるし」
「……?
……出ろ!」
俺の発言を聞いて、目をパチパチと開閉していたが。
何を思ったのか、小声で真似をしやがった。
もちろん、何も起きない。
「あー、恐らくだけどさ。
アンケートで記入したものが側にあったりしなかったか?」
「アンケートって、無人島がどうのってやつですか?」
どうやら、彼女も俺と同じ状況のようだ。
「そう、それ。
俺は刃物って記入して、気づいたら砂浜にいて側にナイフが落ちてた。」
「……たしか、すぐ側に包丁がありました。
触ったら無くなってしまったので何処にあるのか分からないです……。」
どんよりとした雰囲気で小声になっていく。
包丁だと?
彼女も、刃物と書いた?
いや、ならなんでナイフじゃない。
……聞いてしまえばいいか。
「ちなみに、何て答えたの?」
「…………調理器具一式です。」
流石に予想外だった。
だが、よくよく考えれば有りだろう。
恐らく俺が持っているナイフのように、別の物に変われると考えれば汎用性がある。
無人島だと過程すれば、鉄の加工品などまず手に入らない。
問題があるとすれば、彼女に刃物を持たせる事だろうか……。
彼女を見てみる。
相変わらず、此方を向いてパチパチと目を開閉している。
じっと、見つめていると目線を外された。
先程のように膝に頭を乗せて俯いてしまった。
更に見ていると、彼女は頭を少しあげた。
その状態で此方を見ている為、上目遣いで見られているように感じる。
……うん、まぁ、大丈夫だろう。
何かに目覚めた気がするが、きっと気のせいだろう。
「それじゃあ、頭の中で包丁の事を考えて、言葉で『出ろ』って言えば出てくるよ。
難しければ、『包丁出ろ』って全部言えばいいし」
「包丁出てください!」
その言葉と同時に、彼女の右手に包丁が現れた。
「ほ、本当に出ました……!」
どうやら、疑われていたようだ。
まぁ、何故出るか説明出来ないしそんなものか。
そういえば、『出ろ』じゃなくてもいいんだよな……。
伝え忘れていたが、まぁ、問題無かったか。
さて、ここで1つ思い付く。
楽しい楽しい検証だ!
自分の時は気付くのが遅れてしまったが、彼女の包丁ならまだ何も切っていない。
これなら確認出来るだろう。
「お願いがあるんだけどさ。
調理器具一式の名前呼びながら変われって言ってくれないかな?
もしかしたら、何か変わると思うんだ」
「へっ、あ、はい」
訳が分からないといった感じだが、そのまま流れで色々と言わせてみた。
「……うん。なんかごめん。」
結果何にも変わらなかった。
しいて言えば、彼女が恥ずかしそうにしているくらいか。
まぁ、変われ変われ連呼して何も起きなければそうなるか。
川原で人もいないからいいが、これが街中なら地獄だろ。
「最後にこの肉を半分に切ってみてくれ。」
と彼女にウサギ肉が乗った石を指差す。
「きゃっ!」
肉を半分に切ってもらったのだが、いきなり彼女が声を荒らげた。
特に何もなかった筈なのだが。
彼女に聞いてみると、甲高い音が何度もしていたと言うのだ。
俺には聞こえなかったが、恐らく何か変化出来るようになったのだろう。
また、先程のように試して貰う。
俺の予測では、肉を切る為の包丁などに変わると思っていたのだ。
ところが、フライパンやフライ返しなど肉を切った事と関係なさそうな物にまで変える事が出来てしまった。
……今まで考えていた音とナイフの関係は意味なかったのだろうか。
流石に落ち込んでしまう。
いや、もしかしたら、彼女のが違うだけで俺の考えはあってるのかめ知れない。
落ち着いたら彼女に協力してもらおうと心に誓う。
そんな彼女はというと。
確認を終えたのか、フライパンを手にして此方に顔を向けていた。
「これで焼けるのか確認したいので、お肉焼きますね!
火使うのでそこ退いてください!」
などと元気な声色でいうのである。
気付けば、ダミ声も成りを潜めて高い声だった。泣いてたせいで鼻でも詰まっていたのだろう。
気づけば、座っていた場所から退かされ洞窟内に座っていた。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回話もよろしくお願いします。
(2014/11/22) タイトル修正




