30話
物語の話。
一章と二章は、登場人物からの読者への自己紹介の場です。物語に関係する組織や、世界観などを披露していく場なので、背景の組織が揃って様々に入り乱れる事件が起こるのは三章からだったり。
皆様のアドバイスを受けてタイトルを変更しました。様子見でつけたので反応が悪いようならまた弄るかもしれません。まぎらわしいですけど、見逃してください。
人気が出てたくさんの読者が読んでくれることを祈って二章が終わるまで試行錯誤頑張ってみます。
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事情聴取は、神殿内部ではなく、この場所の隅で一人ずつに別れて行われた。
まず最初にラーナ、セラフィマが短い時間で、次にリオネルが。
リオネルの時などは、神官兵が話している時間よりも、彼のどうでもいい話のほうが長かったように思う。
「で、もう一度確認するが、おまえは協力する気があるんだよな!?」
『是』
「先程の質問についてなんだが――だからなぜ身振りで教えようとする!?」
一人、異常に時間をとっている人間がいるのだが、あれは真面目に答えているのか、それともからかって遊んでいるのか。
転がった連中が回復するまで、まだ掛かりそうなのでちょうど良いのかもしれない。
先に終わった三人は、助祭の厚意で、部屋にある遺物を見学させてもらっている。
「一緒に発見した資料、目録によれば、これらの遺物は、遺跡に暮らしていた小人族が収集したり、作ったものらしいです」
「つまり、この遺跡自体が小人族のものだと?」
「そこまで詳しく書いているわけではないのでわかりません。ですが恐らく、彼らはこの遺跡に移住してきただけではないかと」
リオネルの質問に、マウリは首を横に振る。
その後にラーナへと視線を向けた。
「小人族は成人した男性でも身長は高くありません。それこそ、僕やラーナさんくらいの背の高さまでです。それにしては、遺跡内部にある階段や、椅子などの生活道具が大きすぎる。これは、もっと違う種族が――」
二人の話は興味のないラーナを残してどんどん進んでいく。
珍しい物があるからと、マウリから誘ってきたはずなのに。
旧文明の遺産といえば、それこそ物語にある聖剣、魔剣。
輝く宝石にを散りばめた豪奢な冠とか。
ラーナは金銭に対して、そこまで高い価値を持ってない。
それらが欲しいわけではない、だが見れるものなら興味がある。
ラーナとセラフィマは二人を無視し、置かれている遺物に勝手に手を伸ばした。
見張っている神官兵は人が良く、子供のすることだからと、見て見ぬ振りをしてくれていた。
「なあ、このへんな形の壺はなんなんじゃ。すごいものなのか?」
ラーナが持っているのは、口が細く長いのに、胴回りがでっぷりとした壺。
「あ、は、はい!? それは、ですね。とあった! 『浄化の口』という、力を秘めた壺で」
マウリは目録を片目に、説明を始める。
力を秘めているなど、それに浄化とは。
「中央にある宝石を撫でると、周りの空気を吸い込み、新鮮なものと取り替えることができるそうです」
「おおっ!? それはすご、い――のか?」
「中に貯めこまれた空気は数分過ぎると清浄なものに変わるとか――どうされました、ラーナさん?」
――少女はひどく期待を裏切られた気分になる。
「――それは、一体何の役に立つのじゃ?」
「そ、そうですね。臭いのきつい場所においておけば、役に立つのでは? 例えば便所と、か」
――確かに役に立つのかもしれないが、英雄譚などでは絶対に出番がなさそう。
渋い顔をするラーナに気づいたのか、慌て壺を置き、別の物を案内しようとする。
「この装飾の美しい杖は何でしょうか?」
セラフィマも、興味を持った物を差し出し、説明を求めた。
「おおっ、それはきっと、時の支配者の手にあったとされる王錫とかなんかじゃろう! 違うか?!」
壺から興味が移ったのか、ラーナも目を向ける。
これならばラーナを満足させられると、受け取り見せびらかすように、マウリが掲げてみせる。
「持ち主はわかりませんが、それは凄いですよ。なんと、太古にあったとされる凶悪な呪法を解除する力を持った聖なる杖なんです! 名は、『輝く人の小指』。力量を問わず、誰でも扱え、何度も使用できる。まさに遺産というにふさわしい代物です!」
「解呪の力があるのか。たしかにそれはすごい」
リオネルが物珍しそうに注目する。
その態度を見ると、よくわかっていないラーナにも、凄いものなのだと実感が湧いてきた。
ラーナは瞳を輝かせる。
「それはすごいのう。やってみせてくれ!」
「ラナさま、さすがにそれは――」
期待するラーナに、それは駄目だとセラフィマが窘める。
だが納得がいかない。
「別に構わんじゃろ。だって、代償無しで何度も使えると、さっきマウリが言っていたではないか!」
それはたしかにそうなので、セラフィマも下がり、マウリに目で良いのかと確認する。
ねだるように上目遣いのラーナに詰められ、マウリは照れ臭そうで嬉しそう。
「ラーナ、少し落ち着きたまえ。マウリ助祭どのが困っているぞ。それに、呪われた者がいないのでは、その杖も使いようがあるまい。――ところで助祭どの、その杖は一体何の呪法を解くことができるんだい?」
リオネルの質問に、マウリがまた困ったように頬をかいた。
「そ、それが目録の該当箇所はまだ解読が進んでなくて。い、いえ、それでもすごい力を秘めているのはたしかなんです。二柱の神の名が、装飾に刻み込まれているし、嵌めこまれた石も今では希少なもの」
「でも、ここでは使えないんじゃろ?」
「まあ、その――はい」
興味を失った少女と、それを見て勢いのなくなった少年。
ラーナとしてはそんな歴史的、美術的な価値には興味を見いだせない。
できればもっと、わかりやすく凄いものがほしい。
キョロキョロと辺りの遺物を眺める。
どれも見たことがないものだが、いまいち用途がわからず、その凄さも珍しさもわからない。
だからラーナは少し離れた場所にあった、大きなそれを発見した。
それは青白く輝く金属の塊。
「おお! これじゃ。こういったわかりやすく強そうなものがよい!」
刃渡り二百メディムはある大剣。
五角形の頭が陸亀に似ており、閉じられた瞳に、爬虫類の尾をつけた大きな石像。
その像を台座に、亀の肩から斬りこむように、地面と平行に大剣は収められていた。
他に比べると装飾も薄く、実用性重視なのだろうか。
無骨な柄は、刃の厚さに似合わず太くない。
輝かくラーナの瞳に対して、マウリはどこか浮かない顔。
もしや、大したものではないのだろうか。
「あ、いえ。そうじゃないんです。小人族が、骨喰鬼と呼ばれる者の争いに使った『尽きぬ怨嗟』と云う大剣なんです。その切れ味は比類なきもので、頑強な骨食鬼、その中でも特別な王と呼ばれる個体と戦うためだったとか」
鬼というからには、オーガに似た生き物なのだろうか。
そうすると、リオネルの倍は背丈があるやもしれない。
それと、文字通り小さな小人族が争ったなど、想像が難しい。
リオネルとラーナ以上の体格差など、一方的な虐殺になりかねない。
それを打開したのが、目の前の剣なのか。
「それは歴史的に見ても、貴重なものなのは間違いないんです。けど――抜けなくて」
別に少年には何の落ち度もないのだが、申し訳なさそうに言い訳をしてくる。
「いえ、神官兵が三人がかりで引っ張ってみたんですが、それでもびくともせず。それならば、刺さった像ごと神殿に移動させようとしたんですけど、人力で運ぶには重すぎて」
荷車をばらし、地下に持ち込むことを目下検討中だと。
お預けをくらった猫のように、ラーナは唸る。
楽しい遺跡探検の結果がこれでは、尻すぼみも良いところ。
「――ファン、やれ!」
指令を下してすぐ、面子に殺し屋がいないことを思い出し。
「リオネル、いけ!」
「そうか、彼がいないと、こっちにお鉢がまわってくるのか」
溜息を吐いているが、少女の小さな我儘に、別段文句があるわけでもないのだろうリオネルは、大剣の柄に片手を固定する。
「ですから、大人が三人がかかりでも――」
「なに、腕力には自信がある。マウリ助祭も少し下がってくれないか」
筋肉を解すように首や肩を回し、残った手を柄に伸ばした。
余裕のある男の顔に、少女は期待を寄せずにはいられない。
リオネルは呼気とともに、両腕に力を込めた。
『おお!』
湧き上がる驚きの声。
――石畳を引きずる音、そして像が動く。
リオネルが一歩下がれば一歩分、彼と一緒に移動する。
そして三歩移動し、リオネルの顔が赤から青になった。
――動くことは動くのだが、抜ける気配がまるでない。
それでも、驚嘆する膂力。
部屋にいた神官兵や、助祭の少年は異質なものを見る目で呆気にとられている。
「ふぅ。大口を叩いておいて不甲斐ない」
リオネルはバツが悪そうに、賞賛を惜しむことがない少女に謝罪する。
「そんなことはない。わらわの故郷にも、これほどの力の持ち主はおらぬ。のう、セラ?」
「はい。さすが私の夫です」
したり顔のセラフィマに、たしかまだ婚約者ではなかったのか、と首を傾げる。
「そうかい。がっかりさせてしまったかと思ったが。では、他の遺物を見せて――」
マウリに声をかけようとしたリオネルの袖が引っ張られた。
少女は拳を握りこみ、リオネルを鼓舞した。
「なにをいう。リオネルならば、次は行けるのじゃ!」
「――頑張ってください」
先程以上に期待の篭った瞳のラーナと、リオネルから目を逸らして応援してくれたセラフィマ。
そして、期待を一身に背負ったリオネルは余裕の笑みを崩さない――だが、その笑顔は引きつっていた。
――結局、少女の期待に負けて五回ほど試みさせられ、精も根も尽き果てたリオネル。
その有様を見たのに、少女は諦めることはなく。
今度は、ファンを我儘の犠牲者にするため、呼びに行こうと走りだす。
その無邪気な様を、リオネルを介抱しながら、セラフィマが困ったように見送った。




