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Links / Revolutionized Warfare  作者: やたか
第一章「Unreal」
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「上から足音。着地音が3つ」


 闇の中に人型の影が静かに佇んでいた。倒すべき者の姿も、声に応える仲間の姿も此処にはない。ベルは1機、地下搬入路と称されるポイントでキャンプしていた。


 貨物運搬トロッコのレールに沿って続いていく、薄く暗く長い空間。ロングと称される遮蔽物のない直線構造がそこにはあった。交戦状態に入れば、引くことも、耐えることも叶わない。一対多になることを想定すれば、ここでキャンプすることは合理的ではない。だが、ベルには、ここですべきことがあった。その一つが、音を聞くことに他ならない。


「了解」


 ベルの言葉に、地上のノーマッドが応えた。


 ノーマッドが操る機動装甲歩兵は、すぐさま、腰のウェポンベイから銀色の球体を一つ抓み出す。


 軽く放り、握り直す。


 ノーマッドがしているわけではない。ただそうなるようになっている。ゲームの仕様だ。だが、ノーマッドは、その意味のない動作を気に入っていた。


 安全装置が外されると、銀色の球体が青く仄かに灯り、機械の腕が視界に現れる。かざされた親指と人差指で狙いを定める。視線の先、そこには何もない。ただ、白い雲が流れていく、青く高い空があった。


 機械の腕が、その膂力を示すように風を払った。


 投擲。


<<ファイアー・イン・ザ・ホール>>


 瞬間、システムが告げる。


 プラズマグレネードは彗星のごとく舞い上がり、放物線を描き、ゆらと落ち始める。制御センターを越え、間もなく、視えなくなる。


「グレネードアウト、5秒」


 ノーマッドは、起爆のタイミングを、スリープに伝える。投擲から7秒で、ポイントの上で起爆する。それは曖昧な推測ではない。絶対の法則である。


 ノーマッドは、フィールドの構造を誰よりも正確に把握している。視えていなくても、その向こうに何があるのかを識っている。


 正確無比な空間認識。それによる、的確自在の"爆撃"。それこそがノーマッドがアヴァロンの一員たり得る資格だった。


「了解、合わせて流す」


 テラスでキャンプしていた、スリープが応じる。


 数瞬の静寂。


 そして、


「ヒット」


 ノーマッドの声が告げる。スリープは何も言わない。ただ行動で応えた。


 スリープはテラスから飛び出しながら撒いた。シールドを失った深紅の機動装甲歩兵の姿をスリープが認めた時、既に強装弾は放たれていた。狙うより前に、トリガは引かれていた。


 快い音が刻まれる。敵の装甲を削っていると、ヒットサウンドが告げていた。


「先制した」


 スリープは、告げながら撃ち続ける。繊細な指先が、暴れ狂う銃身を抑えつける。


 狙ってはいない。ただ、レティクルを標的の中心に保持する。ずれていく着弾点を収束させる。それだけを意識する。


 深紅の機動装甲歩兵の傍には、射線から逃れられる死角があった。微妙な距離。縋りつきたくなるような距離だった。


 スリープは、敵がそこへと逃げ込むことを期待していた。背中を撃たせてくれれば、すぐに片が付く。仮に、撃ち倒すことができず、死角に逃げ込まれたとしても、問題はない。


 だが、ハックザワールドは、そこまで愚かではなかった。逃げることなく、撃ち返してきた。


「正解。いい判断だ」


 もし、死角へと逃げ込んでいたら、それで終わっていた。スリープが伝え、ノーマッドがグレネードを投げ込み、そして、深紅の機動装甲歩兵は、反撃さえ許されず、戦域を去っていた。


 ハックザワールドの動きには、迷いはなかった。判断は速かった。だが、それでも状況は覆らない。


 1機が3機を圧倒することなど、ありえない。だが、この状況は、ありえない状況ではなかった。ただ、そう視えるだけの状況でしかない。


 此処に至るまでは過程があった。ベルが地下で音を聞き、ノーマッドがプラズマグレネードを投げ込み、スリープが強襲する。


 スリープは1人ではなかった。これは紛れもなく、同数の戦いだった。数が同じならば、先制したほうが優位に立つ。必然の結果だった。


<<ワン・ダウン>>


 システムは告げる。まず、1機。そして、


<<ダブル・キル>>


 システムは告げる。追うように砕けた。


<<トリプル・キル>>


 システムは告げ、そして、銃声は止んだ。


 最後に舞った薬莢が、地面に跳ね、高く響いた。視界の左上に表示されたキルログは、間もなく、流れ、失われる。


 シールドが復元される。深紅の機動装甲歩兵が死力を尽くして削った傷痕は呆気なく癒える。残骸となった装甲だけが存在を、ここで戦いがあったことを証明していた。


「ナイスキル」

「ナイスグレネード」


 ノーマッドがスリープを、スリープがノーマッドを称えた。

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