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Links / Revolutionized Warfare  作者: やたか
第七章「Enemy Territory」
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 正義とは何か?


 答えはない。


 だが、ネームドは、知っている。


 正義のために戦おうとしているわけではないことを、自身が正義の者ではないことを知っている。


 反政府組織が正義と称されるべき存在か、その真偽は定かではない。興味さえない。何れも、ネームドにとって、アヴァロンにとって、どうでもいいことだ。


 独裁者、虐殺者に対する反旗を掲げる存在が正義であるかは解らない。世界はそれほど単純ではない。この国を統べる軍事政権が倒れても、この国は何も変わらないかもしれない。或いは、さらなる混沌の中に沈むだけかもしれない。独裁からの解放が必ずしも平和の訪れを意味するわけではない。そも、独裁から解放されるか、それさえも解らない。反政府組織が独裁者に取って代わるだけかもしれない。


 それをネームドは解っている。


 アヴァロンは、それでも、戦おうとしている。


 だが、矛盾はない。この国の未来など、どうでもいいと、そうやって逃げている。だから、矛盾はない。


 悪を倒すために戦ってはいない。だが、殺す相手が悪であると思えることには意味があった。


 独裁者だから悪か?


 いや、そうではない。


 だが、虐殺者は悪である。それが救いだった。


 ただ、戦った。ただ、殺した。それだけだった。それが事実だった。だが、それだけであっては、ならなかった。


 正義ではない。


 救うために戦ってはいない。そうであったとしても、そう解っていても、諦めていても、それでも、自身を責め苛む倫理から、逃れるための理が必要だった。


 正義ではない。だが、悪と戦った。


 救うために戦ってはいない。それでも、救った。


 どれだけ、稚拙であろうと、一方的であろうと構いはしない。ただ、あればいい。


 肯定する視点。


 それこそが、なくてはならないものであり、ネームドが、求めたものだった。


 それさえあれば、きっと、


「ネームド」


 微かな声が、ベルの声が、縋るように、囁くように、名を呼び、そして、言葉を接ぐ。


「命じなくていい。いや、命じるな」


 ネームドは、応えなかった。答えなどなかった。


「傍観さえしなくていい。此処に、ネームドはいなかった。それでいい。いや、そうでなくてはならない」


 静寂の中に声だけが響く。銃声も、爆音も、叫びも、何もありはしない。


 ない。


 ただ、闇だけがある。


 戦いは、まだ始まっていない。始まろうとはしている。だが、それは、戦いではなかった。


「この戦いは命じられたものではない」

「だが、必要だった」

「そうだ。必要だった。そう考え、そして、求めた。この戦いはアヴァロンが望んだ。命じられたものではない。だから、」


 ベルは、ため息をつくように言葉を接いだ。


「だからこそ、アヴァロンがアヴァロンであるために、」


 ベルの機体が、揺らめき、そして、這うように跳ねた。ネームドは反応していた。だが対応できない。ベルの機動は、あまりに、尖すぎた。


 ベルが抜き放ったナイフは、ネームドの機体の左脚靭帯、装甲の隙間を撫でた。


「何を!?」


 視界が縦に揺れる。膝が笑い、崩れる。ヘッドアップディスプレイに現れたアラートは、左脚の制御が失われたことを報せていた。


「アヴァロンのネームドがその手を穢してはならない」


 膝をつくネームドのストラティクスを瞰視しながら、ベルは告げた。


「終わらせてくる」


 言葉を返す間もなく、ベルは闇の中へと去っていった。やがて、一方的に告げられた言葉の残滓さえも失われ、そこにあった静寂が現れる。


 ネームドは、天を仰ぎ、そして、ため息をついた。光のない世界には、ただ彼方まで続いていく星の空があり、そして、少女の幻があった。

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