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Links / Revolutionized Warfare  作者: やたか
第七章「Enemy Territory」
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10

「ノーマッドより、ジェーンへ、ノーマッドとスリープは南西から森に入った」

「機体に損傷は?」

「流れ弾を幾つか貰ったけど、行動に支障はないかな。それより、問題は弾薬だね。敵の足が速かったせいか、少し撒き過ぎた。トラップで牽制しながら、川沿いを南下して、補給ポイントで敵を迎え撃つ。そっちは?」

「ガンシップが二機離陸。一機は墜としたわ。でも、」


 言いながら、ジェーンは、トリガを引く。スコープの中央、遠方のライトアーマーのフロントガラスが砕けると同時に赤く染まる。


「でも?」

「もう一機は逃した。位置も大まかにばれてる」


 こちらへと侵攻してくる主力戦車を視界に捉え、ジェーンは、ため息をつくように答えた。


「補給ポイントでの合流は難しいか?」

「何を言っているのかしら? 補給ポイントまで、引っ張っていくから、歓迎の支度をしておきなさい」

「了解した。健闘を」


 憂うような声に、ジェーンは、何も応えなかった。ただ、淑やかに口元を歪め、交信を終わらせた。


「何をカンチガイしているのかしら?」


 ジェーンは、失笑するしかなかった。そうでなければ、いや、そうであっても、不快感から逃れることはできなかった。


 まるで、犠牲になってくれたことを感謝しているような、そんなノーマッドの言葉が、声が、口調が、障る。心を軋ませる。


 気に入らなかった。ジェーンは哀れまれることが赦せなかった。


 その必要はない。賢明さが諌める。適当に殺し、適当に倒れればいい。何をしても、結末は変わらない。数時間を待つことなく、この地から去り、数日後には、この国のことを忘れている。


 何をする必要もない。


「イヤになるわ」


 だが、どうしても、うずきを、ざわめきを抑えられない。


「うるさいわね」


 吹き荒れる風が空気を裂き、木々を揺らし、葉を舞い上げる。


 ジェーンが忌々しげに仰いだ先、夜空と樹冠の間には、一機のガンシップの姿があった。


 前後左右、微かに揺れながらも、そこにとどまり、俯瞰していた。機体の前方下部にある眼は、闇の中にジェーンの輪郭を暗視していた。


 "TADS 目標捕捉指示照準装置"と"PNVS 操縦士用暗視装置"を中心に構成された高度先進的な"FCS 火器管制システム"は、夜の闇に紛れることを許さない。


 だが、それだけだった。操縦士は、人型の影を捉えていた。それは機動装甲歩兵の存在が捉えられたことを意味しない。その輪郭が、機動装甲歩兵であると、人型の戦術兵器であるなどと、操縦士に理解できるわけがなかった。


 存在を知らない存在に対応できるわけがない。


 だから、なめるように、なぶるように、操縦士はチェーンガンの砲身を、ゆっくりと動かした。人を殺してきたように、そうした。それは、竦み怯え逃れようとする背を撃つための威嚇に他ならない。そうすれば、そうなってきた。だが、そうはならなかった。


 輪郭は、竦むことなく、怯えることなく、逃れることなく、ゆっくりと倒れていった。操縦士は惑い、そして、気づき、戦慄した。


 人型の左腕に携えられた何かが、こちらに向けられていた。


 人型が銃を携えていることは、解っていた。


 だが、それが問題にならないことを操縦士は知っていた。コックピットは、ボロンカーバイトとファインセラミックスによる装甲によって、保護されている。キャノピーの強度は機体下部には劣るが、人が片手で撃てるような銃で抜けるようなものではない。


 操縦士は、識っていた。間違ってはいない。状況を冷静に判断している。だが、何故か、戦慄が抑えられない。


 地に倒れながら、空に腕を掲げる人型の姿、その機動はあまりに美しかった。暗視装置に映される白い人型。それが笑っているように幻視された。


 一瞬の忘我。


 操縦士は、はっとし、我に返ると同時に、反応していた。輪郭を凝視し、トリガを引こうとした。だが、遅い。


 ジェーンが、トリガを引いた。


 瞬間、予感は現実となった。対物ライフルから撃ち出された装甲貫徹弾はキャノピーを捩じり抜き、操縦士は絶命した。


 残された操縦士の身体と共に、操縦桿が傾き、ガンシップはバランスを崩す。


 高度が失われ、テールローターが木々と接触する。切り刻みながら、摩耗していく。数瞬は耐えた。だが、テールが折れた瞬間に、全てが崩壊した。機体は躓くように倒れ、メインローターは樹の幹に、刺さり、砕けた。機体は一瞬で歪み、ひしゃげ、狂ったように踊りながら、墜ちた。


 静寂があり、そして、赤く黒い爆炎が鋼鉄の骸を撒いた。


 それを見届けるものはいない。それを成した人型の姿は既にない。炎の赤に背を灼かれながら、機動装甲歩兵は走りだしていた。


「そうね、少しだけ」


 ジェーンはそっと呟く。


 ここで戦うことによって、得られるものはない。少なくとも、ジェーンにはない。端的に言ってしまえば、やる気がなかった。適当に手伝って、適当に終わらせる。そのつもりだった。


 だが、知らず、その気はなくなっていた。そして、知らず、その気になっていた。


 解らせたくあった。そして、中に秘めたモノを解放したいという暗い欲望があった。だが、それだけではなかった。


 アヴァロンの戦いが終わるまで、共に、この国にありたい。そんな気持ちが、感情が、心の中に灯っていた。


 だから、名前のない彼女は、決めた。


 あと少しだけ、朝が訪れるまで、この国にあるために、狩ることを決めた。


 暗い森の中に響く、歩調は狂いなく、迷いはない。

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