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襲撃を予期している者はいなかった。
基地には、常時駐屯している首都防衛部隊に加えて、反政府組織の首都侵攻に対抗すべく、各地域から集められた部隊が集結していた。彼我の戦力差は圧倒的であり、反政府組織が全戦力を投入したとしても、攻略の実現性は現実的な数字ではなかった。
政府軍の戦力が集中する基地への襲撃など、言い換えれば、開けた平地での物量戦を仕掛けるなど自殺行為に他ならない。故に、戦闘は山林地帯での野戦になるであろうと、政府軍も、反政府組織も、共に認識を同じくしていた。
襲撃を予期する者はなく、襲撃を実行する者もいないはずであった。
だが、そうはならなかった。ありえない現実がそこにはあった。
政府軍の兵士たちは、揺らめく炎の中に霞む、ひしゃげた武装ヘリコプターの輪郭を茫と仰ぐしかなかった。
「命中」
ヘリコプター、ライトアーマー、トラック、ノーマッドはなぞるように照準を合わせ、トリガを引いていく。オートマチックショットガンAA12をベースにした大口径多目的投射兵器"XS-01 AA37 AS/AG"から、小気味良い音と共に、次々と投射されていく、榴弾は美しい弧を描き、着弾、標的を破砕し、激しい炎を舞い上げる。
「表に視えている主力兵器は、あらかたツブレタかな?」
ノーマッドは、グレネード弾が螺旋状に詰め込まれたドラムマガジンを交換しながら、答えを求めた。
「そうね。表はもういいわ。格納庫を」
狙撃地点から基地を俯瞰するジェーンが侵攻しているノーマッドとスリープに指示を出す。
政府軍の反応は鈍かった。言うまでもなく、それはアヴァロンにとって都合の良いことであった。ストラティクスの運動性能は人を凌駕している。だが、不死身なわけではない。主力戦車のような強靭な装甲があるわけではない。撃たれれば損傷する。一発の銃弾で行動不能に陥ることは、まず考えられないが、それも絶対ではない。
機動装甲歩兵は、高い機動性、高いステルス性を活かした、一方的な狩りを得意とする。戦車と殴り合いをするために開発された兵器ではない。言うまでもなく、ネームドも、ジェーンも、そして、ノーマッドも、スリープも、それを理解している。
正面から、基地を襲撃し、壊滅させることなど考えてはいない。基地が混乱している間に、脅威となる主力兵器を破壊し、山林へと逃れ、その後、追ってきた敵の部隊を各個撃破する。先制し、逃走する。それが、ジェーン、ノーマッド、スリープの任務に他ならない。
夜空の黒を穢すように炎は燃え盛り、赤い光の中で、人型の影は、揺らめくように、まぎれるように、舞うように、跳ぶ。輪郭は、光に象られ、また、闇にとける。光と闇、その間を躍る。
姿はなく、足音さえ響かない。ただ爆音だけが空気を揺らし、格納庫から火の手が上がる。たった二機の機動装甲歩兵が、数千を超える兵士が駐屯する広大な基地を蹂躙していく。
指揮系統の反応は鈍く、攻撃の開始から十分近くもの間、ノーマッドとスリープは破壊の限りをつくした。全く順調だった。だが、それだけだった。
与えた損害は小さくはない。だが、大きくもない。
アヴァロンは強い。だが、矮小だった。基地に駐屯する政府軍の主力部隊と比較するには、あまりに数が違いすぎた。
「主力戦車が格納庫から動き出した。引きなさい」
ジェーンが彼方に動く、鋼鉄の塊を目視し、感情なく呟いた。
言葉は、狩る側であったアヴァロンが狩られる側となったことを告げていた。




