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「で、どうするんだ?」
「どうもしない。決まっていることだ。覆せない。その提案をする気もない」
ベルの問いに、ネームドは、然と答えた。
瞳は、広がる密林を望んでいた。身体は、遥か彼方、漆黒の装甲に同期していた。一方で、唇に柔らかい感触を、頬に乾いた痛みを、まだ感じていた。それは、奇妙な乖離だった。
意識が同期しない。
私は何処にあるのか?
「七日後、反政府組織が首都へ攻め込む」
「そうだな」
ネームドは適当に言葉を返した。まだ、茫としている。はっきりしない。
「それだけか?」
「解っているさ。ただ」
ネームドは仰ぎ視る。操縦席の中には薄闇しかない。だが、遥かな蒼穹を視ていた。
「やり過ぎた。そう考えているのは、上だけじゃない。私も同じ考えだ。考えていることは違うだろう。だが、結論は同じだ。私たちは、この国の人間ではない。そもそも、此処にさえいない」
ネームドのストラティクスは、踏み締めるように、土を蹴った。
「反政府組織の勢力は、尚拡大を続けている。一方で、政府軍は、主要な戦力の多くを失っている。亡霊の影に怯え、士気も低い。だが、それでも、政府軍が負けることはないだろう」
「そうだな」
相槌を無視するようにベルは続ける。いつになく饒舌だった。
「かつてであれば、反政府組織を一方的に蹂躙できた。内戦は始まるまでもなく終わっていたはずだ。だが、現在はそうなっていない。そうできないくらいに、政府軍は弱っている。だが、それだけだ。それでも、戦力差は埋められがたい。革命など成功しない。反政府組織も解っている。だが、それでも、彼らは、戦おうとしている、何故か?」
アヴァロンがいるからではない。それは一因としてあるだろう。だが、それだけではない。そうではない。
「言うまでもない。次の機会などないからだ。戦闘は激化し、国際メディアも断片的な情報を取り上げるようにはなった。だが、国連、先進国、何れも、介入どころか、言及することさえしていない。助けなどない。戦う以外に道はない」
「この国には石油がないからな」
ネームドが、つまらなさそうに呟く。だが、それもベルは無視する。
「いいのか?」
ベルが問う。
何時からか、ベルのストラティクスは、ネームドのストラティクスに正対していた。
「いいも悪いもない。五日後、アヴァロンはこの国を去る。七日後にできることはない」
ネームドはため息をつくように答え、そして、言葉を接ぐ。
「責任を感じているのか?」
ネームドが、問いを返す。蔑むような声だった。
「気に病むことはない。そも、傲りが過ぎる。彼らを唆したわけじゃない。一度でも、彼らを救うために戦ったことはない」
「だが、」
「知ったことではない」
ネームドは、怜悧に放った。
「救国の英雄になりたかったのか? くだらないとは、言わない。だが、相応じゃない」
ネームドは唇を歪めながら、問う。
「我々とは何か?」
そして、戒めるように告げる。
「殺戮者だ」
紡がれ、響いた言葉は、それを放った自身の心さえも震わせた。
多くの人を殺した。殺してきた。そして、これからも殺していくだろう。
我々とは、殺戮者に他ならない。血に穢されている。
解っている。
「だからこそ、」
だが、そうであっても、いや、そうであるからこそ。
心を腐らせてはならない。瞳を濁らせてはならない。
「だから、なんだ?」
ベルが糾し、そして、
「だからこそ、最期の時まで、戦わなければならない」
言葉はひるがえり、厳かにはためいた。
ベルの影は、呆れるように首を傾け、そして、舞うように刃を捧げ敬意を表す。その言葉が謳われることは解っていた。だが、それでも、その言葉を待ち侘びていた。
「首都近郊に存在する政府軍基地を襲撃する。作戦目標は、基地機能の破壊。戦闘車両、航空兵器、脅威の無力化。反政府組織の侵攻に備え、集結している政府軍の戦力を、悉く、撃滅する。作戦予定時刻は、四日後の深夜から撤退の瞬間までとする」
正義の御旗を掲げようと、それを支える掌は血に染まっている。
ネームドは解っていた。だからこそ、心だけは守らなければならない。
我々とは、殺戮者である。だが、まだ人である。ただ、言われるがままに殺す機械ではない。
そのために、つまらない言い逃れに縋るために、アヴァロンは戦わなければない。




