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青年は視ていた。
破壊されていく車両、殺されていく兵士。ただ一方的に行使される暴力。その光景には憶えがあった。それは、かつて、青年を襲った虐殺の光景に他ならない。
侵攻する政府軍部隊の車列を眼にし、青年は拳を握った。奥歯を噛んた。
青年には、間もなくはじまるであろう、この国で繰り返され続ける救いのない光景が視えていた。そして、その殺戮をただ傍観することしかできない、臆病な自身の姿が視えていた。
青年は銃を携えている。だが、何もできない。いや、何もしない。まだ、死ぬことはできない。だから、青年は忌むべき者たちの姿を睨み、呪う。ただ、その時の訪れを望みながら、それを直視する。誓いを深く刻むために。
間もなく、静寂を裂くように銃声が響き、虐殺がはじまった。
青年は惑うしかなかった。
違っていた。
虐殺は、はじまっている。ただ、違っていた。
殺されているのは、力を持たないものではなかった。力を持ち、行使してきた者たちだった。虐殺する者が虐殺されていた。
信じられなかった。青年は、ただ茫然と、その光景を眺めるしかなかった。視線を外すことができない。
恐怖の存在であった者たちが、絶対の存在であった者たちが、戦うことは愚か、逃げることさえもできず、殺されていく。
まるで、青年の家族のように、まるで、青年の恋人のように、まるで、青年の友人のように、殺されていく。
それは、ありえるはずのない現実だった。
青年は知らず涙を流していた。跪き、手を合わせていた。瞳に映るのは絵画ではない。耳に聞こえるのは交響楽ではない。そこにあるのは、人の心に触れ、感動させるために創られる芸術などではない。だが、その光は、その音は、如何なる聖画より、如何なる聖歌より、神々しく青年の心に響いていた。
人の命を喰らう純粋な力。まじりけのない暴力だけが、そこにはあった。それは、青年が望んでいた現実だった。
禍々しい漆黒の人型。死を撒くモノ、それは、青年が望んでいた救世に他ならなかった。
悪魔であろうともかまいはしない。遣わされた殺戮の使徒に、青年は静かに祈りを捧げ続けた。




