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Links / Revolutionized Warfare  作者: やたか
第四章「BlackSite」
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 まだ、猿だった。


 思い上がっていた。人に進化したなどと、嘯くには早いことを思い知らされていた。


 転ぶことなく、歩けるようになった。転んだとしても、立ち上がれるようになった。人より早く、人より高く、走り、跳べるようになった。


 世界を構成する自身以外との距離を正確に把握できるようになった。殴り合い、投げ合い、関節を決めることができるようになっていた。だが、それだけでは、まだ人ではない。


 人と動物の最も大きな違い。それは、道具を扱うことに他ならない。


 白いテーブルの上には、刃物が置かれていた。だが、それらは武器ではなかった。


 四機の機動装甲歩兵は、各々、鋏、或いは、カッターを手にし、切り紙に勤しんでいた。紙との戦いは、未だかつてない集中と忍耐を要求されるものだった。何も持たず、何も触れず、ただ視覚からの情報を頼りに紙に印刷された線をなぞり、切っていく。


 空の手を動かすだけなら、危惧することは何もない。自身の手を動かせば、分身の手がその通りに動く。ただ、それだけだ。


 だが、手に何かを持てば話は変わる。何かを持つ分身の指先に合わせて、何も持たない自身の指先を操作しなければならなくなる。まるで主従が逆転したかのような錯覚。自由にならない擾わしさが心身を摩耗させていく。


「全く気が滅入るな」


 紙に印刷された波線を鋏でなぞりながらベルが呟いた。


「小学生の頃を思い出す。鋏が上手く使えなくて、紙を真っ直ぐに切ることができなかった」


 ネームドは、紙を二つに折っては、カッターで裂いていく。


「ああ、正にそんな感じだ」


 結果に精度は出てきた。だが、まだ指先の動きはぎこちない。それはともかくとして、動かしていて気持ちが悪いことこそが、最も大きな問題だった。


「この違和感はどうにかならないんですかね?」

「慣れるしかないんだろうな」


 ベルの答えに、スリープはため息をつくしかなかった。


 訓練を続ける中で、最も早くに、手先の感覚を掌握したのはノーマッドだった。器用さには自信があると豪語していたが、果たして言葉通りの結果を示してみせた。酔いの克服では遅れを取ったベルが、全身の制御においては、最終的に他を引き離したのと同様である。つまり、オペーレーター各々の素養が、状況、条件における機体操縦の得手不得手に強く反映されるという結果となっていた。


 理想的なデータ、自身の想定を証明するデータにフェブラリーは歓喜し、一方で、アヴァロンの四人は、互いのの差を狭めようと訓練を続けた。


 自身と分身とが完全に同期する上半身の操縦は易しく、姿勢が同期しない下半身は難しい。


 それが、初めて機体を動かした時に覚えた感覚だった。だが、その考えは、道具を扱う段階へと至った時、逆転した。


 下半身の操縦よりも、上半身の操縦のほうが、繊細さを要求されるため難しい。


 現実に、迫られ、そう書き換わった。


 だが、その言い訳のように現れた考えもまた、一面的なものに過ぎないと気付かされる。易しい。難しい。そんな中身の無い話ではないという結論に至り、アヴァロンは考えるのをやめた。


 異なる方向を向いたインタフェースで、それぞれ制御される上半身と下半身。何れも、その深奥は遠く、感覚を掴めば掴むほど、実現できるであろう理想に気付き、できていない現実に気付かされ、迷宮は広がっていく。


 操られる分身が求める領域は遥か高みにあり、そして、操る自身は、それに応えられていない。それだけが、確かなことだった。


 そして、アヴァロンが機動装甲歩兵の操縦訓練を始めてから、一年が経過した。


 ベルは、"リ・ジョンソン"を跳べるようになっていた。ノーマッドは、片手で鶴が折れるようになっていた。ネームド、スリープについては、特筆すべきことはない。だが、射撃体勢への以降、リロード、銃の持ち換えの速さ、射撃の正確さにおいては、ベル、ノーマッドを凌駕していた。


 そう、既に、四機の機動装甲歩兵は、トリガを引いていた。ハンドガン、ライフル、或いは、グレネードランチャー、自身のその手に教え込まれた人を殺すための道具の扱い方を、四人のオペレーターは、何も知らぬ真っ白な分身に伝えていた。


 既に、同体と化した機械の身体は、その暴力装置を巧みに操り、そして、撃った。銃爪は、あまりに軽かった。銃声は、あまりに遠かった。あまりに、易しく、標的を撃ち抜いた。


 高々度からの降下訓練を終え、それに続き、装備される全ての兵装の試験運用を終え、それから間もなく、四人は邂逅を果たした。

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