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Links / Revolutionized Warfare  作者: やたか
第四章「BlackSite」
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 高機動多用途装輪車両に揺られて、数分。


 荒野の中に、忽然と人口施設の輪郭が現れた。


 長大な滑走路。窓のない四角い建物の群れ。


 乾いた湖に接するようにして佇む、その領域こそ、"アーク"と自称する組織が管理する軍事基地であり、ネームド、ベル、スリープ、ノーマッド、四人が暮らす場所であった。


 高機動多用途装輪車両は、三回の検問を抜け、基地の中でも特に厳重に管理される区域へと入った。それから、また数分走り、区域の中央に存在する格納庫の前へと辿りついた。


 高機動多用途装輪車両を降りると四人は、格納庫に併設される管理棟の中にあるシャワールームへと小走りで向かった。朝食の時間が迫っていたが、それでも、汗を流さないわけにはいかない。


 時間に自由はない。一日は完全に管理されていた。


 早朝のランニングを終えると、朝食、八時から正午までは座学、正午から昼食、集中力が最も低下するとされる一五時までが休憩時間となり、その後、一九時までは、主に身体を使った実践訓練が行われる。


 これらの予定が揺らぐことはない。組まれた予定に従って行動することが、基地での生活の絶対原則であり、四人はそれに従い日々を生きた。


 四人がまず求められたことは、戦うことではなく、学ぶことだった。


 午前中の座学には、様々な講義が行われた。講義は、絶対に必要とされる基礎的な知識を共有するために行われる共通講義、そして、専門家養成のための個別講義に大別される。


 共通講義においては、電気電子の基礎、通信技術の基礎、弾薬の規格、各国の軍隊の装備、ハンドシグナル、主要言語など、この世界における常識として求められる知識を学習し、それらを一定の周期で詰め込むことを繰り返す。忘却と刷り込みを繰り返し、記憶を補強していく。


 個別講義においては、アヴァロンが部隊として機能することを想定し、四人それぞれの適性に合わせた専門性の高い講義が個別に行われる。


 ネームドには、部隊の統括者に求められる素養を身につけるため、戦略、戦術にはじまり、倫理へと至る、多岐の軍事教育。


 ノーマッドには、後方支援を主とする工兵として、ハードウェア、ソフトウェア、通信機器、及び、爆発物などについての教育。


 ベルには、戦闘斥候として、偵察、監視、隠密行動、及び、トラップの制作、設置など、遊撃戦についての教育。


 スリープには、狙撃手として、相対距離、相対高度計測、重力補正、風力補正に基づく弾道計算、狙撃地点の選定、カムフラージュの方法など、狙撃技術と、それに伴って、求められる技能の教育。


 一人一人に特化した技術を身につけさせることで、一つの部隊としての完成度を高める。それは多様な任務、流動する状況に対応する特殊部隊の創設のために求められる合理的な教導だった。


 午後の実践訓練では、ヘリコプターからのロープ降下、空輸機からのパラシュート降下、装甲車を始めとする兵器の操縦、ハンドガン、アサルトライフルから、対戦車擲弾発射機に至る歩兵携行兵器の保守整備を含めた運用技術、近接格闘術などの訓練が行われる。


「オペレーターができないことは、オペレーターに操られる機動装甲歩兵もできない。まずは、できるようになれ、そして、どのように身体を動かせば、そうなるのか、それを理解しろ」


 何故、生身の身体でやるのか?

 何故、生身の身体を鍛えるのか?


 その問いに、アヴァロンの筆頭指導教官を務めるジョン上級兵曹長は、そう答えている。


 実践訓練の合間には、『ExFrame Tactical』をはじめとするシミュレーターを使った模擬戦闘訓練が実施される。模擬戦闘訓練も、訓練ではあったが、アヴァロンにとっては、息抜きでしかない。唯一、教官との立場が逆転する時間であったからだ。


 実践訓練後、一九時から夕食、二〇時からミーティングが行われ、その後、正子の消灯時刻までが、自由時間となる。


常に何かをしている。退屈な時間はない。それ故に、一日は長く、そして、短い。だが、日々は、つらいものではなかった。


 基地での生活を刑務所と喩えるのは、いささか、外れている。事実、そう感じている者は、アヴァロンの中にもいない。あえて、喩えるならば、全寮制の進学校、或いは、スポーツ名門校といったところだろう。


 気づけば、朝は過ぎ、昼を感じる間もなく、夜となっている。それが、日常だった。


それは、今日もまた、例外ではない。始まった一日は、そして、間もなく、終わろうとしていた。


 時刻は、二十一時。


 薄闇を纏う部屋の輪郭を、卓上灯の淡い光が照らしている。選ばれた者に対する敬意が感じられる空間、その一つで影が揺れていた。


 プライベートな領域として与えられた私室については、寮と喩えるのは、はなはだ、外れていた。ゲストルームと言うべきが相応しい。


 マンスリーマンション、或いは、それなりのビジネスホテルと比べても見劣りしない余裕のある白い空間。部屋には、シャワー、トイレ、ベッド、エアコン、テレビ、冷蔵庫が完備されている。


 生活必需品だけではない。最新のゲーム機、オーディオ機器、そして、デスクトップパソコンまでもが、備え付けられている。送信は遮断されるが、受信に限っては検閲されてはいても、禁止されてはいない。つまり、驚くべきことに、インターネットの閲覧が可能となっている。


 ネームドは、最新のニュースが集まる掲示板のチェックを終え、深く息を吐いた。既に、一日は終わっている。今日の終わり、明日の始まり、その境界。尊く自由な時間の中で、想いを馳せる。


 ネームドの表情が、ふと、綻ぶ。こうしている時間は、何も変わってはいない。それが、おかしくて、愉しかった。


 ここでの生活は充ちていた。だが、一方で、ネームドは、心を許してはいない。


 ネームドは、愚かではなかった。自身の存在、自身の状況、それらを忘れてはいない。


 ぬるま湯の中で、たゆたいながら、為すべきことを為しているが故に感じられる快い疲労に幸せを感じている。それでも、裸で水の中にいることを忘れてはいない。


 だが、それでも、どうしようもなく、日々が日常となっていることも事実だった。


 まだ半年、たった半年。張り詰めていなければならないと解っている。まだ、何者にもなれてはいない。学ぶべきことは、数えられないほどにあることも解っている。だが、それでも、否応なく慣れはじめていた。飽きはじめていた。そして、求めはじめていた。


 まだ、何もしてはない。何にも触れてはいない。それに耐えられない。


 拾ってきたばかりの者に、重要な機密を触らせることはできないという向こうの事情も解らなくはない。


 だが、何ができるというのか、探しても、現状できることは何もない。既に帰る場所はない。完全に鎖につながれている。基地が何処にあるのかも解らない。ただ飼われているだけの存在を過大評価している。ネームドは、自らの存在を卑下しながら、それを警戒する組織を嘲る。


「増長し始めているらしい。君の予言通りだ」


 ネームドは、ため息をつくように呟き、机の引き出しから、スマートグラスを取り出しレンズを静かに覗いた。


 ふと、幻が想起されようとした瞬間、ネームドは我に返った。


 部屋の扉を叩く音が微かに響いた。誰かは解っている。ノックの音で解る。彼女は解るように叩く。


 ネームドは、スマートグラスを引き出しの中に戻してから、入り口へと向かった。


「寝てた?」

「いや」


 そこには、金色の髪と狼の瞳を持つ、名のない女性がいた。


 ネームドは、ジェーンを部屋に迎え入れた。そう、いつものように、

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