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「陸、海、空、そして、宇宙。有史以来、人類は技術の革新と共に、その戦場を広げていきました。人類の歴史が終わらなければ、戦争の歴史が終わることはない。戦いを続けた人類は、遂に、世界の果てへと至ってしまった。だが、それでも、戦いは終わらなかった。人類は、立ち止まらなかった。振り返らなかった。虚空の彼方へと歩みを続けるように戦いを続けた。そして、人類は、遂に世界の境界を越えた。境界の果てに、新たな世界を創造した。創りだされた世界は理想郷ではなかった。人類が理想郷にはしなかった。人類は、創造した世界を戦いの領域とし、そして、新たな戦争を始めた」
透んだ声で謳われる幻想世界の物語に、一同は言葉を失うしかなった。ただ、魅せられていた。映画のオープニングに時間を奪われるように、ただ眼を耳を心を澄ませた。
ナイフ、フォーク、スプーン、磨きぬかれたシルバー、優しく折られたナプキン、金に縁取られた真円の陶の皿、曇りなく透んだグラス、真白いクロスを纏う円卓に、告げられた言葉は整然と配されていった。そして、ネームプレートが置かれ、現実が完成されようとした、その瞬間、
「というのは嘘です」
白いクロスは乱暴に引かれ、全ては崩壊した。
「真に受けないで下さい。困ります」
宙を舞い、落ち、砕け、跳ね、散った。
「眼を覚ませ。仮想世界などありはしない世界は此処にしかない。現実は此処にしかない」
ジェーンの口調が強いものに変わる。蔑むように微笑みながら、全てを一蹴した。
「何を信じたらいいのか、解らない。何を信じて欲しいのか、解らない」
「ただ、ありのままの現実を、ありのままの現在を」
そう、ネームドに告げると、ジェーンは壁の男に視線をやった。
「千の言葉をつくすより、一瞬視たほうが理解が早い」
その言葉から、間もなく、部屋の前方にある扉が開き、憶えのある男が室内へと入ってきた。黒いスーツ、黒いサングラス、黒い靴。そこには、絵に描いたような追跡者の姿があった。
ふと、ネームドの指先は、撃たれた右脇腹に触れていた。
「憶えがありますよね?」
ネームドだけではなく、ノーマッドも、ベルも、スリープも、頷いていた。
「ご活躍だったようだな」
「誰も抵抗しなかったので、助かったと話していました」
ベルが、男に掛けた言葉に、ジェーンが代わりに答えた。
男は応えない。微動だにしない。完全に静止していた。
違和感があった。追われていた時は、気づけなかった。だが、こうして対峙していると、何かが引っかかる。気持ち悪い。
追跡者は、ゆっくりとジェーンに近づき、それから、正面に向き直ると、ネームドを凝視した。男の動きは、重く、そして、どこかぎこちなかった。
「脱がせなさい」
ジェーンが告げると、追跡者は、躊躇なく、上着をはだけ、シャツを剥いだ。
ネームドは、何も言わなかった。ただ、ため息をついた。そうするしかなかった。




