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Links / Revolutionized Warfare  作者: やたか
第三章「Call of Duty」
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「起きていますね?」


 声が響いた。強くはっきりした女性の声だった。


「ああ」


 ネームドは、答えた。眠るふりをした所で、何が変わるでもない。答える他に選択肢はない。何も視えない。動けない。


 ふと、花の香りがした。頭の後ろをくすぐるような指先の感触があり、やがて、視界を覆っていた布が外された。世界が現在が象られる。


 閉ざされた暗がりの中にネームドはいた。巨大な倉庫、或いは、いや、例えられる言葉がない。そんな、高く広い空間の中央に、ぽつんと置かれた椅子にネームドは座っていた。座らされていた。


 昼か夜かは解らない。時間の感覚がない。今日なのか、明日なのか、或いは、まだ昨日なのか、解らない。何も解らない。ただ、此処にいて、拘束されていることだけは、逃避しようのない現実だった。


「ようこそ、いらっしゃいました。我々は貴方を、貴方がたを歓迎致します」


 響いた声。それは、まるで草原を吹き抜ける夏の風のような、颯爽として透んだ声だった。


 ネームドは、暗闇の中を凝視する。眼の前にいる輪郭を凝視する。


 マネキンの如く整った身体のライン。それを顕わにするタイトな制服。白金の髪。琥珀の瞳。白い肌。深く美しく彫り込まれた輪郭。そこには白人女性の姿があった。


 微笑んでいた。美しくはある。だが、可愛らしさは感じられない。感情のない微笑の仮面から、深く深い瞳が覗いていた。


 手を伸ばせば触れられる。そんな距離で、女性は暗く微笑んでいた。身体を前にかがめ、胸をつき出し、覗き込むように、或いは、挑発するように、ネームドを俯瞰していた。


 ネームドは、冷静だった。ただ、時が来たことを悟っていた。こうなることを知っていた。ただ、それでも、ここまで突然、蜜月の終わりが訪れるとは、考えていなかった。


 少女の横顔を想い、ため息をついた。交わされた時間、交わされた言葉。触れた心、触れた掌。出会い、そして、別れ。全てが幻のように感じられた。


「どうされましたか?」

「どうもしてはいないし、どうにもできない」

「そうですね」


 ネームドの声が、女性の声が、交互に響く。耳をすませても、他に音はない。気配はない。


 女性しかいない。それは、憶測ではあるが、状況分析によって導かれた結論ではあった。眼の前にいる1人をどうにかすれば、この状況を打開できる。憶測に過ぎないが、それでも、可能性はあった。


 だが、ネームドは、何もしなかった。何をする気もなかった。


「単刀直入に話をしてくれると助かる」


 何をしても、何を考えても、どうにもならないと解っていた。


「解りました。では、ご質問をどうぞ」


 女性は頷くと、言葉を返した。逆に、ネームドからの言葉を求めた。


「目的は?」

「世界に安定と秩序を齎すこと、新たな時代の創造」

「何故、私は、此処にいる?」

「貴方の価値を、貴方がこのプロジェクトを実現するための要となる人材であることを、知っているからです」


 要領を得ない。だが、ふざけているようには、感じられなかった。言葉には揺るぎのない強さ、それ故の、危うさがあった。


「私に何ができる? 何をさせたい?」


 悟られないように、動揺を隠しているかのように、言葉を接いだ。


「端的に言えば、武力になって頂きます」

「武力?」

「ええ」


 女性の言葉は、一々、大袈裟だった。誇大妄想狂の誇大な妄想。そう一蹴してしまいたい。一笑に付してしまいたい。だが、状況が許さない。


「戦えと?」

「はい」

「何と?」

「我々が斃すべきものであると認めた存在」


 響いた言葉は、静かの海を穿ち、波紋を創りだした。深い湖の底に沈んでいた心を、眠っていた心をざわめかせた。戦慄させた。


 正義と悪の二元論。解りやすい倫理によって構築された、解りやすい論理を展開してくれた方が、まだマシであったかもしれない。だが、答えは、そうではなかった。理想を嘯くことなく、ただ、現実を告げていた。


 我々の敵を殺せ。


 そう、告げていた。言葉には、迷いも、疑いも、感じられなかった。怜悧に狂っていた。


 ふと、暗がりから、足音が響き、茫とした輪郭が揺れ、そして、合っていく。制服を着た男性の姿が結ばれる。


 一言か二言か、女性に近づいて、何かを話した。


「解りました。すぐに行きます」


 女性が頷き、答えると、男性は暗がりへと消えていった。言葉遣い、振る舞いは、何れも、凛として強く、謙る様子はなかった。それは、女性が、それなりに高い地位にいることを暗に示していた。


「お待たせ致しまた。行きましょう」


 女性は、ネームドの後ろに回り込み膝をつくと、椅子と手を縛る枷に手を伸ばした。


「私は、一人ではありません」

「そのようだな」

「逃げられません」

「そうなんだろうな」

「試さないのですか? 私は構いませんが?」


 腕を縛っていた、枷が外れ、床で鳴リ響いた。ネームドは、鈍い痛みに喘いでいた手首をさすり、それから、指を組んで腕を前に伸ばした。


「逃げられないのだろう?」

「ええ、ですが、何もかもが嘘かもしれません。これから貴方は殺されるだけかもしれません。抗ってみようとは考えないのですか?」

「殺したいのか?」

「いいえ」

「なら、私の頭から銃口を退けてくれ」

「素晴らしいですね。どうして、解ったのですか? 音には気を遣っていたんですが」


 ネームドは、ため息をつくしかなかった。


「言ってみただけだ」


 茶番であった。銃がつきつけられている。それが真実か、嘘か、振り返らなければ解らないが、振り返るつもりはなかった。従順を装う。それがネームドの答えだった。


「行きましょうか」


 女性は、ネームドの前方へと周り、ついてくるように促した。だが、ネームドは、椅子に掛けたまま動かなかった。


 女性は、苦く笑う。だが、その眼は笑っていない。


「ささやかな抵抗ということですか?」


 ネームドには、そんなつもりはない。


「まだ、聞きたいことがある」

「なんでしょうか?」


 振り返り、首を傾げた女性に、ネームドは、ため息をつくようにして、


「名前は?」


 名を求めた。


「名前? 私の名前ですか?」


 女性は微かに笑うと、考えるように、視線を上にやった。そして、ふと告げた。


「パスティックです」

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