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Links / Revolutionized Warfare  作者: やたか
第二章「Payday」
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「貴方は、私の想像した通りの人でした。冷静で、丁寧で、賢明。想像力があり、行動力がある。それに、」


 少女は、少し恥ずかしそうにして、


「容姿も悪くない」


 言葉を接いだ。


 ネームドは、何から話しをするべきか考えていた。だから、自分からは、何も言わず、聞かず少女に話をさせる。


「日本語が解らないふりをしたのは、貴方を視たかったからです」

「視たかった?」

「はい、現実の貴方がどのような人か、私は知りたかった。ありのまま、つくっていない貴方を視たかった」


 ネームドは、首を傾げるしかない。少女が何を言っているか理解できない。流麗な言葉、凛と響く声。それは日本語であるはずなのに、どこか他の国の言葉のように聞こえた。


「貴方が私を置いて立ち去ろうとした時には、焦りました」

「それは、すまなかった」

「お気になさらず、気にしていませんから」

「社交辞令だ」

「優しくありませんね。私は綺麗ではありませんか?」


 私は美しい。私は可愛い。少女の言葉は、そう告げているのと同義だった。


「いや、綺麗だ」


 褒めたわけではない。事実を告げただけだ。


「いいですね。言葉に気持ちはありませんが、それでも心に響きます」


 この少女は、何なのだろうか?


 少女らしい輪郭と大人びた言葉遣い。美しく整った知性的な相貌と妖しい光を放つ濡れた瞳。噛み合っていない。ずれている。


 このままでは、埒が明かない。こちらから、言葉を求めるべきかもしれない。ネームドは考え、言葉を選ぼうとした時だった。


「何故、私と貴方がこうしているのか、解りますか?」


 少女は、質した。


「これか?」


 ネームドは、少女の言葉に答えるように、胸のジャケットから封筒を取り出し、机の上に放った。


「それは何ですか? 意味するところが判然としません」

「札束を封筒に入れているところを視て、追ってきわけではないということか」

「なるほど、私を、強盗か、詐欺師か、そう考えたわけですか、悪くない判断です。ですが、違います」

「インディアンは嘘をつかない」


 少女は涼しげに告げ、ネームドもまた端然と答えた。


「相手の姿に惑わされない。他人をすぐには信じない。いいことです」

「ありがとう」


 少女の言葉を躱し、微笑みを躱し、そして、ネームドは考える。少女の言葉が事実ならば、金が全てではないのならば、より望ましくない状況に立っていることになる。


「迷子か?」

「否定するまでもありません」


 解りきったことではあったが、それでも、ネームドは、確かめておきたかった。


「解っている。でも、否定したい。そうですね」

「何のことだ?」

「貴方は賢い。だから、既に、危機感を覚えている。そして、それは正しい」


 そして、少女は告げた。


「ワールドオーダー」


 ネームドは、その言葉が紡がれた瞬間、逃れられないと悟った。


「そんなに睨まないでください」

「何をさせたい?」

「一つ断っておきますが、貴方の口座に3万ドルを振り込んだのは、私ではありません。何かをさせたいのも私ではありません」

「なら、君は何だ?」

「私は"エイダ"。貴女の身方であり、貴方が身方となってくれることを望む存在です」


 少女は名を告げ、そして、ネームドに微笑みかけた。愛おしむような、悔いるような、憐れむような微笑みだった。


「アヴァロンが負けていれば、話は違っていました。でも、こうなってしまった以上、状況は覆せない。全てが決してしまった」

「覆せない? 契約金には手を付けていないんだが」

「振り込めと言われたから、振り込んだ。それだけのことに過ぎません。はじめからお金に意味はありません。振り込まれた額の倍を返すと言っても、どうにもなりはしません」


 そもそも、何がどうなっているか、解らない。だが、とにかく、どうにもならないらしい。


「なら、好きに使わせてもらおう」


 ネームドは、封筒を懐にしまった。


「ええ、そうなされるのがよろしいかと存じます」


 ネームドは、深くため息をついた。


 金ですむなら、話はそれで終わりだった。惜しくないわけではないが、最悪を考えれば捨てられる額だった。だが、そうはならなかった。


「私としても、意外ではありました。前金はともかく、残金についても、律儀に振り込むとは考えていませんでした。ですが、仮に、振り込みがなかったなら、私が振込みをしていたでしょう。そういう意味では、手間は省けました。些細な手間ではありますが」

「意図が解らない」

「貴方に現実を直視させられます。何かが起きていると、そう解らせられる」


 福沢諭吉の威光の賜物ではないが、確かに、この紙の束は論理を無視して人を納得させる威力の塊だった。有無を言わせない。


「それに、逃げるためには、それなりの資金が必要になりますから、」

「逃げる?」 


 少女は、珈琲が入ったタンブラーに、白く細い指先をそっと伸ばし、


「ええ、貴方は、私と一緒に逃げるのです」


 そう告げた。


 ネームドは、首を傾げ、そして、気づかされた。はっとして、少女を覗くと、悪戯に成功したかのように、愉しそうに微笑んでいた。

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