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オフィスビルの内部を駆け抜けていく黒い狙撃手。それを追う、灰色の追撃者。断続的に繰り返される数瞬の攻防。追撃者が撃ち、狙撃手は回避する。互いにミスはない。だから、近づくこともなく、離れることもない。
パスティックに焦りはない。ただ、すべきことをする。ただ、走り抜ける。
フェイントで照準を外し、デスク、コピー機、パテーション、オフィスに設置されたオブジェクトを盾にし、被弾を抑える。屋上階段でキャンセルされたシールドは既にリチャージされている。わずかな被弾は問題にならない。問題はない。
問題は、
前方に描写されていた構造は、瞬きをする間に後方へと流れ視えなくなる。視界に映る景色は、数フレーム毎に、解放され、そして、読み込まれる。そして、目指すべき場所が、ついに視界に描かれた。
A棟とB棟を繋ぐ連絡通路。そして、そこへと至る最後の直線。遮蔽物は何もない。ただ走り抜けるしかない。この空間こそが、唯一の問題だった。
迷いはない。選択肢は他にない。
「パスティックは、間もなく、連絡通路に到達」
パスティックは告げると、機体を屈め、そこへと踏み込ませる。
数瞬の間をおいて、追撃してきた2機のアサルトが追いつき、射線が繋がる。遮蔽物は何もない。逃げていく、狙撃手の背中が通路の中央に曝け出されていた。
トリガが引かれ、一方的な攻撃が始まる。
シールドが削られていく。だが、撃ち返すという選択肢はない。走ることが唯一の選択肢だった。
パスティックは、ただ走った。ただ走るだけでは、耐えられないことは、解っていた。それでも、信じて走った。
あと、数歩。数歩で連絡通路を抜けられる。だが、足りない。シールドがキャンセルされた瞬間、パスティックの機体は残骸へと変わる。その瞬間は、間もなく訪れるはずだった。だが、終わらなかった。パスティックは、走り続けていた。
シールドエネルギーの減衰は、12%で止まっていた。
銃撃は終わってはいない。銃声は、断続的に鳴り、反響し続けている。ただ、銃弾はパスティックには届かない。
遮蔽物はない。ならば、遮蔽物をつくればいい。
パスティックの後方、流れていった光景の中に、盾となり銃弾を受ける黒い機動装甲歩兵の姿があった。
「パスティックは生還。間もなく連絡通路を抜ける。スリープは交戦を継続。オーダーに従い、敵機を足止めする」
スリープが応戦しながら告げた。




