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Links / Revolutionized Warfare  作者: やたか
第一章「Unreal」
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 アヴァロンとワールドオーダーの戦いの場は、"ナイトビルディング"。その名が示すように、夜間のオフィスビルをモデルとするマップだ。


 パスティックは、マップ中央に連なるように聳える二棟一対のビル、その東側B棟の屋上で、夜空を仰ぎながら、追手を待ち構えていた。


 交戦を前提とするなら、スナイパーが迎え撃つべきポジションは、アンテナ棟の裏。遮蔽物を盾にしつつ、屋上の入り口を監視するのが定石である。


「足音がした。近い」


 音が失われる。パスティックは、集中する。


 屋上と階段を繋ぐ踊り場、その翳りの中に、銃身の輪郭が覗いた。


 パスティックは、ただ凝視する。定石に従っていれば、既にトリガは引かれ、アンチマテリアルライフルから放たれた弾丸は、灰色の機動装甲歩兵に少なからぬダメージを与えていただろう。


 今からでも、遅くはない。まだ、気づかれてはいない。先制できる。だが、パスティックは、動かない。スコープさえも覗いていない。ただ、それを握りしめていた。


 突如、後方で炸裂音が響き、わずかに視界が揺れた。だが、パスティックに動揺はない。何が起きたのか確かめるまでもなく、解っている。


 グレネードの遠投によるスナイピングポジションの制圧。定石への対応。それもまた定石。互いの手を読み合い、動きを殺し合う。


「そう、これだ」


 パスティックは、知らず昂揚を覚えていた。


 パスティックは、反応だの、精度だの、飽きもせず、エイミングについての議論をループさせるプレイヤーに対して、憎しみにも似た感情を抱いていた。レティクルを合わせる技術など、それなりのレベルで持ち合わせていればいいというだけのものであり、それこそが最も重要な要素であるわけではない。


 スポーツ競技においては、筋肉は必要だが、筋肉があるだけでは、役には立たない。それと同じことだ。


 戦術を知り、そこから如何にして戦うか、戦略について考え始めることこそがはじまりであり、そのはじまりにさえ立っていないような人間が大きな声を上げている。そんな、後進国の現実を心の底から嘆いていた。


 読み合いこそ、駆け引きこそ、ファーストパーソンシューターの真髄に他ならない。それがパスティックの哲学であり、圧倒的なまでの反応と精度を以て、個としての強さを証明してきたスナイパーの矛盾だった。


「まだだ」


 銃身が揺れる。それは挑発しているかのようにさえ視えた。だが、それでも、パスティックは、動かない。


 やがて、仄かな暗がりから、つま先が現れ、そして、全身の輪郭が顕になる。ワールドオーダーの灰色の機動装甲歩兵が光と影の境界を踏み越えようとした、その瞬間だった。パスティックは、抑えていたレバーから力を抜くように、それを放った。


 細い円筒形のそれは、パスティックの足元でわずかに跳ね、乾いた音を立てて転がり、そして、灰色の機動装甲歩兵のつま先に触れた。


 灰色の機動装甲歩兵は、痙攣を起こしたかのように反射した。一瞬の惑いも、一欠片の容赦もない。恐るべき反応だった。


 だが、それでも、間に合わない。パスティックは既に、アンチマテリアルライフルを構えていた。トリガに指はかかっていない。スコープを覗いてもいない。撃てない。撃つつもりなどない。


 ただ、殴りかかろうとしていた。パスティックは、扉の脇に張り付き、その時を待っていた。そして、その時は訪れた。


 鈍く重い音が響いた。灰色の機動装甲歩兵は、後方へと弾き飛ばされ、道を譲る。逃亡路が拓け、パスティックは、身を低くして、駆け出した。


 灰色の機動装甲歩兵は、アサルトライフルを構え直し、パスティックを追う。黒い機動装甲歩兵の背が遮蔽物に隠れる一瞬前、レティクルが同期する。


 トリガは引かれようとした。だが、次の瞬間、灰色の機動装甲歩兵が視る世界は白く灼けた。最初に投げられたフラッシュグレネードが時間差で起爆していた。


 パスティックは、閃光を後方に残し、屋上と階段を繋ぐ踊り場へと飛び込んだ。光度の差に、一瞬、視界が眩むが意に介さない。シミュレーションした行動を再現する。フラッシュグレネードのピンを抜き、階下に放り、それから、踊り場から踊り場へ、そして、踊り場から、階下へと跳んだ。


 瞬間、衝撃に視界が激しく揺れた。着地の衝撃ではない。キャンセルされたシールド、剥き出しとなったアーマー。壁面を抉った放射円状に拡散する弾痕。


 階下には、後詰めの1機が待ち構えていた。


 灰色の機動装甲歩兵は、フォアグリップをスライドさせ、次弾を装填する。排出された赤い薬莢が微かな光がにじむ闇の中を舞う。


 出会い頭での交戦が多発する狭く視界の悪い空間と圧倒的な瞬間火力を誇るショットガン。それは、正に最高の組み合わせであり、最悪だった。


 想定していなかったわけではない。だが、想定していたからといって、脅威ではなくなるといった類のものではない。


 死ななかった。ただ、それだけが全てだった。死ななければいい。ただ、それだけが全てだった。


 上から投げ込んでおいた、フラッシュグレネードが起爆し、光が闇を一掃する。パスティックは願い、さらに階段から下へと跳んだ。


 灰色の機動装甲歩兵は、トリガを引いた。だが、散弾は、虚しく壁を削るだけだった。どれだけ、反応が速くても、精度が高くても、標的が視えなければ合わせられない。


 視えてはいない。だが、それでも、灰色の機動装甲歩兵は狂ったように撃ち続けた。白く眩い闇の中に、断続的に銃声が響き、散弾が撒かれる。


 かすりでもすれば終わる。シールドはキャンセルされ、アーマーの耐久値は、交戦の前から既に限界だった。だが、パスティックのアーマーが砕かれることはなかった。


 運も実力。


 パスティックは、着地と同時に、扉を抜け、階段室から廊下へと走り込み、そして、走り抜ける。


「パスティックは、5階東廊下に到達。アサルト2機を連れて、A棟に向かう」

「了解、よくやった」


 まだ、終わったわけではない。それでも、ネームドの言葉にパスティックの胸は高鳴るしかなかった。

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