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「かなりまずい状況だ」
スリープは、ほっと息をつくように言った。
「詳しいことは後で話してもらう。とにかく、相手について知りたい。構成は?」
ネームドは、クライアントを起動してはいるが、まだルームに参加してはいない。試合の様子をその眼で観てはいない。
「構成は、アサルト4機、スナイパー1機。連携は悪くない。ただ立ち回りは荒い。警戒すべきは、撃ち合いの異常な強さだ。スリープとパスティックは対抗できているが、ノーマッドは安定して撃ち負けてる」
ベルが事実に即して報告する。
「全員か?」
「ああ」
ネームドが確かめると、ベルはあっさりと答えた。
「反応がとにかくいいんだ。おまけに精度も高い」
ノーマッドの声は、重く暗い。いつもの軽さは失われていた。現状の劣勢は、ノーマッド一人の責任ではない。だが、ノーマッドが撃ち負け続けたことが、その一因であることは覆しがたい事実だった。
ノーマッドは、撃ち合いが苦手というわけではない。一部の例外を除けば、他の上位クランを構成するメンバーと撃ち合っても、互角以上の戦績を残す。つまり、相手は全員、上位クランのエースクラスの実力者であるということに他ならない。
「投げモノの使い方は?」
「適当に投げてる感じ」
ネームドは、頷き。
そして、告げた。
「解った。なら問題ない。撃ち合いが強いだけなら、相手にならない」
「ああ、同数ならな」
言うまでもない。そう示すように、つまらなさそうにベルが応えた。
「全機、位置と状況を報告しろ」
ネームドは、瞳を瞑り、そっと息を吐いた。
ネームドは飛翔する。声から拾い集めた情報を基に戦況を構築し俯瞰する。戦略を確立し、考査し、試行し、そして、打ち砕く未来を創造した。
瞳を開き、そして、告げる。
「パスティックは、囮になれ。廊下を走り抜けて、A棟とB棟を繋ぐ連絡通路に敵を引いてこい」
「了解」
その要求に応えることは容易ではない。だが、不安はなかった。パスティックは信じていた。ネームドが、命じているのならば、それはできることであると。
「スリープは、パスティックを追ってきたアサルトを連絡通路中央で足止めしろ。中に入れてから撃ち合え。抜かれるな、下がらせるな」
「了解」
ようやく戦うことだけに集中できる。スリープは、ため息を吐き出し、背筋を伸ばした。
「ノーマッドは、パスティックとスリープが後ろを取られないように、A棟のロビーを監視」
「了解」
このままでは終われない。だが、借りを返さなければならないなどとは考えていない。ただ、すべきことをすればいい。そうすれば、仲間が返してくれる。ノーマッドは手のひらを強く握りしめた。
「ベルは、好きにしろ」
「ああ」
ベルは、やれやれと微笑んだ。
「パスティックは、階段を降りて三階の廊下に出たら合図を。ネームドは、合図と同時に参戦。直後に、最速で降下する」
「足音がした。近い」
パスティックの言葉に、ネームドは言葉を殺した。もう何も言わない。雑音は要らない。集中させる。
数瞬の静寂は、前触れもなく、引き裂かれる。
高い炸裂音が響き、硬い無機質な音が、それを追うように撒かれた。




