12
「抜かれた! 地下通路から北階段!」
左右で鳴ったノーマッドの声が、ネームドの頭の中央で反響した。
「アーマーの耐久がない! シールドが回復するまで動けない!」
状況は緊迫していた。
「パスティック、狙えないか?」
「間に合わない。射線が取れる位置に移動する前にA棟に入られる」
スリープの問いに、パスティックが答えた。指揮はスリープが執っているようだ。
「後退するしかないか、やりづらい」
スリープが、忌々しそうに呟く。ベルの声はない。いるはずだが、声は聞こえてこない。
ネームドは、首を傾げるしかなかった。いつものアヴァロンではなかったからだ。
数瞬の沈黙があり、そして、パスティックが叫んだ。
「グレネードに引っかかった。シールドダウン、アーマーの耐久もごっそり」
「跳ばなかっただけ、マシだ」
スリープは、つぶやくように答え、そして、微かにため息をついた。
スリープは、指揮を執ることを好んではいないし、自身には、適性がないことを自覚していた。
一人ならば、意識せずとも、理論的に立ちまわることができる。感覚が、習性が、身についている。だが、自身が自動的に実践している無意識の理論を言葉にして伝えることは得意ではない。
伝えようとすればどうなるか?
完璧な立ち回り、理想の連携を求め、考えすぎ、結果、現実の時間に処理が追いつけなくなる。考えることにリソースを裂かれ、圧倒的な性能を誇る立ち回りまでもが錆びつく。そして、それが現状であった。
こんなはずではない。こんなものではない。
スリープは、意のままにならない戦況に、そして、実力を発揮できない自身に、苛ついていた。
「ま、そうだね。でも時間の問題かも、B棟の中に入られた」
「数は?」
沈黙を守っていたベルが問う。パスティックの言葉は、聞き捨てることのできない情報に他ならなかった。
「アサルトが2機」
「カバーに行く」
ベルの機体が走りだす。だが、間に合うかどうかは微妙だ。
アヴァロンの戦域残機数は4機、待機機数は6機。対するワールドオーダーの戦域残機数は5機、待機機数は10機。パスティックとノーマッドの機体は、アーマーが健全な状態ではなく、正面からの交戦には耐えられない。追い詰められつつあるパスティックが撃破されれば、攻守の要であるスナイパーを失う。かなりの劣勢だった。
諦めてはいない。だが、スリープも、ベルも、ノーマッドも、パスティックも、有効な打開策を講じることができない。
アヴァロンは負ける。そうなるはずだった。
「状況を報告しろ」
ネームドの声が静かに響いた。




