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Links / Revolutionized Warfare  作者: やたか
第一章「Unreal」
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10

 ヘッドアップディスプレイを外すと、そこには月があった。赤みがかった真円の月。窓の外、区切られた狭い夜空の彼方。美しくも妖しい輝きを放つ月を仰ぎ、ネームドは深くため息をついた。


 蒼い空も、霧の森も、そして、軍事施設も、どこにもありはしない。


 都心のベッドタウン、閑静な住宅街の一角にある特徴のない戸建て、その二階北に位置する一室。モニターの光だけが灯る薄暗い部屋。冷房装置の駆動音が響き、キーボードの音だけが鳴る部屋。整然と配置された家具。床に散らばる衣類。机の上に並ぶ抜け殻のペットボトル。積み重なる塵芥で許容量を超えたダストボックス。汚れてはいない。ただ中途半端に散らかった、広くもなく狭くもない領域。ここが現実だ。


 ネームドは、手のひらに視線をやる。黒い装甲を纏った機械の腕はそこにはない。青く白く細い手首があった。これが現実だ。


 どうしようもないくらいにリアルだった。どうしようもない現実がそこにはあった。


 虚しいものだ。ゲームの中で、最強の名をほしいままにしようが、それは仮想に過ぎない。現実はこんなものだ。"ネームド"は、誰も知らない誰かに過ぎない。


 名が知られている?


 笑わせるな。


 学級で最も成績が良い生徒。或いは、何らかの競技で全国大会に出場した学生。閉じたコミュニティで語られる有名人の知名度など、良くて、その位に過ぎない。コミュニティの住人にとっては有名人だが、コミュニティの一歩外に出れば誰も知らない。誰も気にかけてなどいない。いなくなったとしても誰も困らない。すぐに忘れ去られる。ただの"名無し"に過ぎない。


 貴重な時間を費やしても、ゲームの中で強くなろうとも、得られるものなど何もない。


 惨めだな。


「ああ、解っているさ」


 ネームドは、自問に自答し、オフィスチェアから立ち上がると、窓へと手を伸ばした。暑く粘りつくような空気が室内へと流れ込み、腕を、頬を、撫でた。夏だった。


 日本の夏らしい不快な風が快くもあった。だが、それも一瞬のことに過ぎない。身体が、じっとりとした汗に包まれ始めると、ネームドは月を見限り、自室を出た。


 廊下を歩く足取りに気負いはない。ネームドは、引き籠もりではないし、家族との間に不和があるわけでもない。ただ社会不適合者なだけだ。


 浴室で汗を流し、冷蔵庫から飲み物を補給し、自室へと戻る。そして、オフィスチェアに身体を預け、変わらぬ姿勢でディスプレイを覗く。


 ネット上に散乱する情報を眺めながら、ネームドは、ため息をつく。


 やることがない。やるべきことはあるのだろう。だが、やりたいことはない。現実はひたすらに退屈だった。


 ふと、気づけば、無意識のうちにネームドの指先は、ヘッドアップディスプレイに伸びていた。


 あと一戦。ネームドは蔑むように笑う。そして、自問自答する。


 もうやらないんじゃなかったのか?


「そんなこと言ったかな」


 寝るんじゃなかったのか?


「眠くないから」


 やれば眠れなくなる?


「そうかもな」


 何故、やる?


「言うまでもないだろ? 中毒だからだよ」


 何を言っても意味がない。無意味だと解っていても、それでも、やってしまう。


 指先を震わせながら、煙草を吸いつづける者。血を吐きながら、酒を飲みつづける者。痩せほそり壊れながら、薬物に依存し続ける者。彼らと何も変わりはしない。


 狂っている。


「ああ、そうだ」


 自覚している。


「何が悪い」

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