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Links / Revolutionized Warfare  作者: やたか
第一章「Unreal」
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 おもしろいわけではない。つまらないわけでもない。だが、虚しい。


 ネームドは、ルーチンワークの如き、調整に没頭する。


 ワンショットワンキルを繰り返す。一方的に倒していく。誰よりも速く反応し、レティクルを標的に同期させ、アンチマテリアルライフルのトリガを引く。


 現在、ネームドが参加しているゲームに設定されているルールは、"ライセンス"。特徴は、ウェーブ制ではなく復帰が撃破から5秒後であること、復帰が地上からであること、マップが比較的狭いこと、そして、常にシールドがキャンセルされていることにある。


 一般的なルール、例えば、オフィシャルでは、ワンショットワンキルはできない。最も威力の高い兵装をもってしても、シールドをキャンセルするために一発。アーマーを貫くために一発。一機倒すためには、最低でも二発が中てることが必要となる。


 だが、ライセンスにおいては、ワンショットワンキルを妨げるシールドが存在しない。アンチマテリアルライフルを身体の軸に命中させれば、一発で相手を沈められる。


 ライセンスには、"ExFrame Tactical"らしさはない。ただ正面から撃ち合うことに特化したルールであり、だからこそ、調整には適している。


 ネームドは、一瞬の交錯を繰り返す。視界に捉えた瞬間に終わる。捉えられた瞬間に終わらされる。その境界の中で、意識は、磨かれ、研がれ、澄んでいく。加速していく。


 おもしろいわけではない。つまらないわけではない。ただ、同期する。何も考えない。ただ、反射する。人型を制御する自動的なシステムとなり、感覚を調整していく。


 ネームドは、オフィシャルで競われるクラン対抗戦、そして、ライセンスが設定されたオープンルーム以外のゲームには、基本的に参加しない。例えば、オフィシャルが設定されたオープンルームに参加することなどは、絶対にない。


 知らぬ誰か、意思の疎通を図れない誰か、信頼できない誰か、誰かと誰かと誰かと誰かと誰かで組んだ、その場限りのチームで、戦略と連携を競い合うオフィシャルの試合に望むことに、ネームドは意義を見出せない。


 ネームドが現在進行形で暴力を振るっているライセンスにも、チームの概念は存在する。自機以外の全てが敵機というわけではない。勝敗を決めるのは、自機と僚機の総撃破数だ。


 だが、そこに連携らしい連携はない。連携がなくてもどうにかなる。だからこそ、ネームドは、オープンルームのライセンスをプレイできる。


 自機以外は、全て囮であり、敵を感知するソナーである。そう考えて、ネームドは立ちまわる。そこに信頼関係はない。


 ネームドは、ワンショットワンキルが許されるのであれば、一機でも、戦線を維持できることを知っていた。そして、それはうぬぼれではなく、事実だった。戦績が証明していた。


 撃破数は35を数え、一方で被撃破数は3。その3にしても、要衝にいたはずの僚機が敵機を素通ししてくれたがために予知できなかった不意打ちと、出会い頭のグレネードがもたらす不運によってもたらされたもので、撃ち負けて倒された回数は0であった。


 圧倒的な戦績だった。だが、ネームドに感慨はない。


 嬉しい。愉しい。そういう気持ちはない。寧ろ、逆である。ネームドは、追い詰められていた。圧力を感じていた。


 強者であるが故に、いや強者であるために、結果を出さなければならないという強迫観念に苛まれていた。誰が求めているわけでもなく、ネームドが求めていた。強くなければ、自身を許せない。


 ネームドは、オープンルームに入室する前には、必ず深く息を吸って、怯える心を鎮める。


 想像を絶する技量のプレイヤーが現れ、絶望的なまでの敗北を喫するのではないか?

 平凡な技量のプレイヤーに解らされてしまうくらいに、自身が弱くなってはいないだろうか?


 ネームドは、そんな空想に、常に怯えていた。


 試合が終盤に差し掛かろうとした時だった。


「そこにいても意味がないから、前に出ろよ」


 ヘッドアップディスプレイの下方に文字列が表示された。


「クレイマーか」


 ネームドは、ため息をつくように呟いた。


 試合中のオープンチャットこそ意味がない。いや、意味がないどころではなく、有害だ。心理的に追い詰められれば、動きは悪くなる。気持ちは結果を左右する。チームの空気を悪くすることは自滅行為でしかない。


 ネームドは、心の中で反論しながら、戦績一覧を表示し、発言者が同じチームのプレイヤーでないことを確かめ、ほっとした。戦況が優勢であっても、身方に文句を言う者はいる。よくはいないが、稀にはいる。何れにせよ、今回はそうではなかった。


 発言者は敵チームのアサルトだった。一方的な状況を打破できず、癇癪を起こしたのであろう。


 熱くなることは、悪いことではない。ネームドは、それを否定しない。だが、一方で、ネームドは、発言者を肯定しない。


 オープンサーバーのオープンルームは、プレイヤーが好きなようにプレイする自由の場だ。初心者、或いは、上級者。練習、或いは、実践。遊び、或いは、真剣。それぞれのレベル、それぞれのスタンスでプレイすることが許されている。


 どのようにプレイするのも自由だ。熱くなるものいいだろう。だが、それを他人に押しつけてはならない。


 チームの勝敗に拘りたいのなら、オープンサーバーのオープンルームで試合などすべきではない。


 真に勝敗に拘る競技をやりたいのならば、そういう者たちが集まる場でプレイすればいい。クランサーバーでプレイすればいい。


 これがネームドの持論だった。


 そも、誰かに責任を負わせ、自身を正当化することは、あまり、格好の良いことではないし、それを喚き散らすことは、自身の幼さを喧伝するようなものだ。どれだけ、怒り狂おうと、自己完結しておくべきだ。せいぜい、壁を殴るくらいにして置きたい。


 そも、冷静に考えれば、怒り狂うまでにはならない。


 オープンルームにおいては、試合の結果は運が多くを左右する。チームに恵まれれば勝ち、チームに恵まれなければ負ける。試合は、はじまる前に決まっていると言っても、あながち間違いではない。


 個人競技ではなく、団体競技である以上、一人だけでは、どうしようもないところがある。ネームドであっても、例外ではない。アヴァロンは無敗だが、ネームドは無敗ではない。オープンルームでは、それなりに負けている。


 マルチプレイは、シングルプレイとは違う。主人公などいない。約束された勝利などない。人と人との競技に絶対はない。


 相対する者が人であるという概念が欠落していなければ、相対する者と自身が常に対等であると錯覚していなければ、そして、相対する者の強さを認められる真摯さがあれば、覚えた怒りを自身に向けることはあっても、他者に向けることはない。


 自身の強さを知らない。自身よりも強い者を知らない。知らないから、知ろうとしないから、自身ではなく、敵ではなく、身方に対して怒りをぶつけたくなる。


 ネームドは、論破できた。だが、何も言わない。視線に入った者に、射線を導き、機械的に処理していく。


 誰かに教えられるべきことではなく、自身で気付くべきことだと考えていた。それに誰とでも解り合うことができるなど、幻想であることも知っていた。


「やる気あるの?」

「チームのために貢献しろよ」

「死んで覚えろ」


 クレイマーの言葉は続く。ネームドは、一つ一つ、心の中で、それに反論していく。


 ネームドの論理は、ことごとく、クレイマーの論理と対立する。クレイマーの理論は、ことごとく、ネームドの理論と対立する。言葉で解り合うことはできない。


 ならば、どうすればいいのか?


 言うまでもない。


 ネームドは、アンチマテリアルライフルを投げ捨て、誰かが遺したアサルトライフルを拾う。先ほどまで、維持していたラインを踏み越えて、侵攻する。戦略的に意義のあるな行為ではない。ライセンスのような殲滅戦は、有利なポイントを確保し、安定したラインを構築できるか否かが勝利の鍵となる。


 優勢な状況で、要衝を放棄してまで、敵陣を荒らしに行く必要はない。ネームドの行為は意味のない特攻に他ならない。勝利に拘るのならば、選択すべきではない行動だ。


 だが、ここは自由の場だ。だから、ただ自身のためだけに、自由に暴力を振るう。


 安定していた交戦ラインが崩れる。荒々しく、そして、精緻に自機を操り、ネームドは敵陣へと踏み込む。虚を衝かれ反応が遅れた者を、幾度となく倒され畏怖を刷り込まれ萎縮した者を、ことごとく葬りながら侵攻していく。


 そして、ネームドは、間もなく、敵陣の奥深くへと辿り着いた。拍子抜けするほどに脆かった。クレイマーの言葉に萎えていたのかもしれない。であれば、自業自得だ。


 瞳を細め、凝視する。そこには虚空を仰ぐように屹立する抜け殻の如き機動装甲歩兵の姿があった。


 数瞬の間、そして、


 漸く、啓蒙者は、ネームドの存在に気づいた。そして、うろたえるように、怯えるように、慌てるように、機体を揺らした。無様だった。情けなかった。


 ネームドは、戦場で演説を続ける役立たずの首をナイフで落とそうと、踏み込んだ。


 だが、


「おっと」


 ネームドが操る機動装甲歩兵は、衝撃に砕かれ、倒れた。


 そこに敵の姿があったから攻撃したのか、或いは、守ろうとしたのか、それは解らない。


「いいチームじゃないか、感謝するんだな」


 だが、ネームドは、後者であると、そう考えることにした。

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