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桐生  作者: 深月桂
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8.消した思い

僕は望まれて生まれなかった。

母は大学前に僕を産んだ。そのころ父は三十代。二人の出会いも、それからも何も聞いたことないけれど。

年齢的に望まれなかったことくらい分かる。まあ、僕を生んですぐ死んだみたいだけど。

最後まで僕を子供と認めてくれなかったらしい。

父は対照的に優しく、親らしかった。

時に厳しく、時に男らしく。

寂しい思いをさせまいと必死だったのだろう。

だが、何回忌かのとき、親戚の陰口を聞いてしまった。

「望まれなかった男の子……」

「あの子が生まれたから母親は死んじゃったのよ。まだ若かったのに。おろしていればね……」

元より人間不信だったので、こんなことを言われて親戚に裏切られたなんて思わなかった。


父は朝早くから夜遅くまで働いていて、帰ってこないことも多かった。

一人の間、僕はよく本を読んでいた。

古典。外国人筆者。

悲劇。

現実逃避は楽しい。

友達がいなくても、楽しい時間はすごせるものなのだ。

そんなことを思っていた。

高校では友達ができた。

いや、中学で友達ができなかったわけではない。ただ、全く話さなかった。

僕に対するイメージはきっと根暗だっただろう。

だが高校ではよく話すようになった。

図書館で話しかけたり、チャットでも発言したり。変化した僕を見て父も喜んでくれるだろう。

僕はマクベスを読みながら通りかかった蜘蛛を手近なチラシを丸めて潰した。


高校二年の春。

学校が始まり進路を考えるようになった頃、明らかに宗の様子が変わった。

原因も大体分かっている。かといって僕が何かをしたわけではなかった。ただ彼にシェイクスピアの悲劇を教えてあげた。人生思うとおりにいかないことのほうが多いんだ。そんなかんじで遠まわしに慰めるつもりだった。

彼は気に入ったようだし、まあいいかななんて思ったけど。

彼は死んでしまった。

僕の行動がプラスに働いたのかマイナスに働いたのかは分からないが、結局感想は聞けなかった。


絶望とはなんだ。最後まで生き残った僕のことか?

僕は絶望してない。かといって希望していないが。


どうせこんなもん。

僕は小さくつぶやいて高校の制服を川に投げ捨てた。

桐生番外編は本編のネタバレを含みます。ぜひ本編からお読みください。さて、次回はついに最終回を予定しています。謎が解けます。犯人は誰なのでしょうか!ではまた。

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