6.君に届ける想い
僕は小学校の時から友達がたくさんいた。中学の最初のほうでは彼女もできた。
彼女は明るく活発で人気があった。僕はそんな彼女が誇らしかった。
だが、3年の春。
僕は彼女と別れた。原因は些細な喧嘩だった。お互い意地を張り合った結果、仲直りできずに終わってしまった。
それはべつに悪く無かった。でも怒った彼女はクラス中に僕の悪口を言いふらした。
「そんなことで怒るなんて最悪、◯◯、別れて良かったんじゃない?」
「男が小せえよな、佳魅って」
僕は友達が極端に減った。
進路はもちろん、誰も選ばないような高校にした。
高校に入り、僕は猫をかぶった。
簡単に言えば演技だ。
明るく優しい、当たり障りのない人間、自分の意見を言わない人間。
絶対に誰とも争わない人間。
だが高校一年の夏、悠子が僕のことを好きであるという噂を聴いた。
彼女は明るく活発で優しい。
勉強もスポーツもできる。
理想的であった。
彼女の想いがいよいよ本当だと気付いたとき、僕は彼女が告白してきたら了承しようと迷わず思った。
僕は彼女に特に何も特別な想いは無かった。
彼女は喜んだ。
僕は何も思わなかった。
「佳魅って何考えてるのか分からないよね」
「そうかな?」
「いつも当たり障りのないことしか言わないもん。ね、本当はどうおもってるの?」
冬の出来事。
「そうかな、思ってること言ってるだけだよ」
「雪が降ってきたね、どう思う?」
「綺麗だね」
本当は寒いから家に帰りたいとか思ってた。
「嘘つきだね」
僕は少しびっくりした。
「うちに来る?」
「いいよ」
悠子が手を握る。
「冷たい」
そう一言言った。
僕はいつか言わなければならない。
ずっと嘘をついていたこと。
謝らなければならない。
ずっと君と向かいあっていなかったこと。
今なら言える。
君が好きだ。
いつか僕は、本当の僕になって君の元へこよう。
春。
桜を見にきた。
「綺麗だね」
「うん」
「お弁当たべる?」
「そうだね」
悠子が作ってきたおにぎりと卵焼きと唐揚げ。ベタな品だけど美味しい。
蝶々が水筒のコップに止まる。
「春だね」
「もうこれでお茶飲めない……」
「虫ダメなのになんで酪農科に来たかなー。洗ってきなよ」
「いってくる」
彼女は笑ってた。
彼女の家で。
「これは月の光って曲、綺麗な旋律じゃない?」
「うん」
「革命よりもこっちの方が好きでしょ?」
「そうだね」
彼女は僕の好みまで理解してくれた。
僕だって彼女のことが分かる。
そして、なんでもできるように見えて不器用な所があったり、寂しがりやだったり。
そんな所もみんな大好きだ。
夏。
宗が死んだ。
その事件に皆が怯えた。
でも悠子は怖がらなかった。強い。
そんな彼女を見て僕も強くあろうとした。
彼女は紫苑の話をよく聴いていたようで、帰る時間が遅くなっていた。
僕は図書館で時間を潰していた。
この日はなかなか悠子が帰ってこなかった。
日が傾いてきた。
僕は悠子を探しに校内をうろうろした。
階段のある廊下にたどり着き、彼を発見した。
そしてその先には……。
「悠子……?」
不自然に横たわる彼女。
もう動かない。
理解できない。
僕はこの現実を受け入れない。
彼女に触れてみる。
もう冷たかった。
「冷たい」
あの時の悠子もそう言った。今冷たいのは彼女で、もう僕があたためてやっても体温を持つことはない。
僕は叫んだ。
声が枯れるまで。
悠子、お前はまだ本当の僕を見ていない。
まだ一緒にいた時間が短すぎる。
頼むから……目を開けてくれよ……。
動かない彼女を抱きしめた。
この腕よ、最後の抱擁を楽しむが良い。
この瞳よ、最後の一瞥を楽しむが良い。
もうすぐ、日が沈む。
さて、僕もそろそろいくとしよう。
毎度面白くないお話を読んでいただきありがとうございます。この話を本編より先に見つけた貴方、よかったら本編も読んでください。もう少し続きます。これからもよろしくお願いします。桐生番外編は本編のネタバレを含みます。一度本編を読んでからこちらを読むことをお勧めします。それでは。




