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桐生  作者: 深月桂
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3.届かぬ思い

「いつもお疲れ様。軽食、ここに置いておくからね」

夜中の12時お母さんが部屋にはいってきて、ココアとクッキーをくれた。

勉強は嫌いじゃない。だけどそこに理由が、意味が伴わなかった。

何故友達と話すより勉強をしなくてはならない。

何故動物と触れ合うより勉強をしなくてはならない。

何故自分の行きたくない進路の為に勉強をしなくてはならない。

何故僕は……生きなければならない。


通学中。

「おはよう、寝不足?」

いつも通り慎太と会った。

「ちょっとね」

「勉強もいいけど、倒れるなよ?」

「うん」


僕は将来医者になる。何故なら医者の家系だから。

でも本当の夢は……。


「進路調査用紙を配る。来週までに……」

頭の痛い話だ。

「ね、どうしたの?」

慎太が声をかけてきた。僕はそんなに沈んだ顔をしていたのか……。

「後で話すよ」

幼馴染にはかなわない。


先生が教室を出て慎太がこっちを向く。

「獣医になりたいんだっけ……?」

「うん」

「ご両親は、なんて?」

「医学部がいいんじゃないかって」

「そっか……ここらへんで唯一の病院だから継いで欲しいっていうのはあるかもしれないけど……。宗の意思じゃないもんね」

「きっと無理だよ……僕の望む進路を獲得するのは」

「諦めるのは早いって!あと一年あるじゃん」

「大変そう……」

「宗ならできる!」

「だって両親の言うことも分からないわけじゃないから……」

「宗、大事なのは君の強い意思だよ」

「うん」

「僕もできることがあったら手伝うから」

「ありがとう」

「先生には?」

「もう相談した」

「じゃあ任せておこうよ」


家に帰ると母が玄関で待っていた。

「おかえりなさい。今日、進路調査の用紙もらったでしょ?それ、私の前で書いて欲しいのよ」

なんで知ってるんだよ。今日もらってきたのに……。

「あなた獣医学部がいいんでしょ?でもそれは考え直して欲しいのよ」

「ご、ごめん……。考える時間ほしいんだ……」

急いで階段を駆け上がる。

部屋に入り、パソコンを立ち上げた。

チャットルームに入室するとすでに御琴が入っていた。

個別チャットにメッセージが届いた。

「進路決めてる?」

「んー、微妙かな」

「医学部?」

「僕は」

「うん、僕は?」

「獣医学部がいいんだけどね……」

「ふーん、いろいろあるんだね」

「まあね」

「なんで獣医学部がいいの?」

「慎太と幼馴染だからさ、小さい頃から家畜とかに触れてたんだよね。そしたら人間よりも動物の方がいいなって思って」

「なるほどね」

「御琴は?」

「まだ決めてない」

「そっか」

進路が自由に決められるとはうらやましいことだなんて思ったが、他人を羨んだところで仕方が無い。

すぐに帰宅したクラスメイトが入室してきた。

慎太から個別チャットがきた。

「大丈夫?」

「ちょっと……」

帰ってきてからのことを慎太に話した。

「そっか……とりあえず待ってもらおうよ」

「うん」

チャットを見守りながら僕は最近つけ始めた日記を書いた。

これが誰かに届くわけでも、書いて気が晴れる訳でもないが古典の好きな台詞をなんとなく意味も無く使って書いていた。現実逃避だった。

ドアがノックされる。

「その紙、夕食の時に持ってきてね。それで明日出すのよ」

僕は返事ができなかった。


夕食。

僕は調査用紙を夕食に持ってきた。

「これを写してほしいの」

ここから一番近い公立大学と都心の大学の名前と医学部の名前があった。

両親が僕を見守る。

もう逃げられなかった。

白い紙に書かれていた文字を写す。

「ありがとう。明日しっかり持っていくのよ」

小学生かよ。そんなことを思ってしまったがなにも反論できず、空欄の無くなった紙を持って部屋へ下がった。


翌日、僕は用紙を提出しなかった。

慎太もそれがいいだろうといってくれた。

だが。

家に帰り、リビングでお茶をしていると母が言った。

「今日、せっかく昨日書いた用紙を出さなかったのね」

最初、何を言っているのか分からなかった。

「何で知ってるの?」

「先生から聞いたわよ」

何で先生が言ったのだ。

「明日こそ出してね」

そういって母はキッチンへ消えた。


僕は部屋に駆け込んだ。

パソコンを立ち上げ、チャットルームに入る。

既に慎太が入室していた。個別チャットを送る。

「お母さんと担任の先生が繋がっていたみたいなんだよ」

「どういうこと?」

「今日調査用紙を提出しなかったことがお母さんに発覚したんだ。もうだめだよ」

「そんな……」

「相談に乗ってくれてありがとう。申し訳ないけどもう諦めるよ」

「それでいいの?」

「うん」

「そっか……」

「今までありがとう」

「力になれなくてごめんね」

「そんなことないよ、ありがとう」


そういいきったけど僕は次の日も調査用紙を出すことができなかった。

反抗することも、従うこともできない、なんて弱い自分。

そう自覚してから日々の記憶がほとんどできなくなっていた。

ただ消費していく日々。意味の無い日々。

もうそんな日々はうんざりしていた。

気がつくとクラスメイトは教室から出ていた。

一人教室に残された。昼休みは半分が過ぎてしまっていた。

サボるのは性に合わないので急いで小屋に向かった。

小屋に近づいて顔をあげた。走るのを止めてあたりを見回してみる。焦っていたせいか、間違えて小屋の裏側に来てしまったようだ。

視界ににいかついナイフが入り込む。

すぐに腹部に焼けるような痛みがした。

真っ赤な血が地面にたれる。

「ふ…ふふ……」

僕は笑った。

「ふは……ははははっ……」

さようなら、みんな。

最近寝不足ぎみで誤字脱字があるかもしれません。あったらごめんなさい。この話は番外編で、本編のネタバレを含む場合があります。先に本編を読んでからこちらを読むことをオススメします。それではまた。

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