表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第三話

 最初に目覚めたのは、聴覚だった。朝なんだろうか、すぐ近くで鳥の声が聞こえる。それより少し小さく、葉の触れ合う音。まぶたが温かい。入ってくる光の強さにすぐ慣れることができず、目を薄く開けたり閉じたりして、やっと目の前の景色を見ることができた。学校のによく似た蛍光灯。でも、天井はきれいだ。

 首を左に向ける。薄いピンク色のカーテンが見えた。自分の寝ているベッドのものではなく、隣のもののようだった。そこまで見て、久人はここは病院なんだと気付いた。

 右側が明るい。窓があるんだ。そう思って、今度は右に首を向けた。大きな窓が視界に入った瞬間、その下で何かが動いた。すぐ視線を下に落とす。久人の目が小さな驚きで丸くなった。

「…………ひろ」

 寝起きのせいか、声がうまく出ない。小さく咳払いしてから、もう一度声をかけた。

「雅浩?」

 身じろぎしてから、雅浩がゆっくりと目を開けた。久人の声は小さかったので、そのおかげとは言いがたい。

「ねえ、雅浩。なんでここで寝てるの?」

「ん…………ああ!?」

 飛び起きた勢いが強すぎたらしく、雅浩は座っていた丸椅子と一緒に背中から大きく倒れた。ところどころぶつけたらしく、カタツムリ並みの遅さで、窓を支えに立ち上がった。

「ってえ~……。な、なんで俺お前んとこで寝てたんだ? 京子のほうに行ったはずじゃ……」

「ばっかじゃない? あんた。大体あたしんとこに来た時点ですっごく眠そうだったし、こっちに来ようと思って結局寝ちゃったんじゃない。あんたのその記憶は夢ん中よ!」

「げっ、起きてたのかよ!」

 見計らったようにカーテンを開けて、京子が姿を現した。この様子だと、京子はしばらく前に目を覚ましていたらしい。自分と同じようにベッドにいる京子を見て、久人は目を丸くした。

「京子さん……。え、どうして京子さんが」

「あ、そっか、久人君わかんないんだよね」

 京子は一人で、久人が倒れた後の事を事細かに話した。その間、雅浩は椅子を二つのベッドの間の、足元近くまで持って行き、そこに座りながら時折肩やら背中やらをさすっていた。

「あの彼女が……。結局、どうなっちゃったんでしょうね、彼女。見つかったんでしょうか」

「見つかった」

 突然割って入った低い声に、三人とも肩を震わせた。ほとんど音を立てない部屋のドアが閉められる。そのドアの前には、久人たちの学校の制服を着た、長身の男がいた。

「あ、あなたは……」

「もしかして、三年生の有名な」

「例の不思議三年生か?」

 京子にそう聞いた雅浩は、逆に叱られてしまった。

「ちょっ、雅浩! そういうこと本人の前で言うもんじゃないでしょ!」

「構わん。俺の名前を知らないやつはそう呼んでるらしいしな」

 二人のやり取りが面白かったのか、その三年生は小さく笑い、三人の輪の中に入ってきた。

「テレビはつくか?」

「えーっと……、あ、これカード式だぜ。カード買わないと」

「大丈夫だ。買う暇などなかっただろうからな」

 立ち上がろうとする雅浩を制して、三年生は棚の上のテレビにカードを差し込んだ。

「え、あ、ご、ごめんなさい! カードなんて買っていただいて」

「このくらいなんともないさ。それより……あった」

 手動でチャンネルを操作していた三年生の手が止まった。事件のニュースのようだ。女性キャスターが、黙々と事件内容を読み上げている。

『逮捕されたのは、この高校に通っていた女子学生です。彼女は同級生の女子生徒を、カッターで何度も刺し、殺害したのち……』

「これが彼女だ」

 顔写真こそ公開されてはいないものの、その逮捕された女子生徒の行動は、昨日京子を刺した高屋絵那、その人のものだった。

「捕まった……んですか」

 ぽつりとこぼした久人に、三年生は答えた。

「ああ。駆けつけた救急隊員と学校の警備員が、カッターを持って歩いてる高屋を見つけてな。隊員の一人に刺しかかろうとしたのを止めて、警備員が警察を呼んだんだ」

「な、なんでそんなこと知ってるんですか」

「見てたからさ」

 雅浩の質問に、三年生はさらりと答えた。

『刺されたのは生徒三人です。最初に刺された入村澄子さんは、失血によるショックで死亡。その後に刺された高野京子さんと木村久人さんは重傷でしたが、現在は病院で意識を回復したようです』

「うわ、あたしの名前出てる。変な感じ~……」

「それじゃ、俺は失礼しよう。手土産も何も持ってないしな」

「あの!」

 三人に背を向けた男子を止めたのは、久人の声だった。顔だけ久人に向けた彼に、久人は疑問だったことを聞いた。

「あなたは……わかってたんですか? 僕がやることを」

「あんなに思いつめた顔をしていればわかる。鬼気迫るものがあったからな」

「……なら、どうして止めなかったんですか?」

「人が決めたことには干渉しない。それが俺のルールだからだ。そいつがどんなことをしようとな」

 初めて久人がこの三年生に会ったときの、あの笑みを見せて、彼は部屋を出て行った。

「なーんか雰囲気が違うよなー、あの人……。あ、そうそう、救急の人来たときにさ、あの人たち『君が雅浩君だね』って言ってきたんだぜ。俺名前教えてねえのに」

「え、あんた通報してないんでしょ?」

「でも隊員の人は、通報して来た人は雅浩だって名乗ったって言ってたんだ」

「ドッペルゲンガーね」

「ちげーよ」

 二人の会話に、久人は小さく笑い声を漏らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ