城……行かなきゃ駄目ですか?
竜の涙がおそらく本物だとわかったアルヴィスだがそんな代物を何も言わず持つことなどできず、王に献上したのだが……。
当然あんな古代の至宝を簡単に鑑定できてしまうような人物を放っておくわけがなく。
あの後、通行人が喋ったのか野次馬が増えてきたため、一度アルヴィスさんの家にお邪魔することに。
馬車に乗り街を抜け、更に走ると大きな家が立ち並ぶ区画にたどり着いた。
馬車はまだ走りその区画、富裕層の家が立ち並ぶ「貴族街」とでも言えばいいか、その隅に建つあまり大きくない家の前で停止した。
大きくないといってもそれは貴族間の話であり、先ほど街で見た建物に比べると十二分に豪邸といえる程度には大きな家であるのだが。
そして中に通されると、アルヴィスさんの性格が表に出てきた造りになっていた。
装飾品などが貴族らしいといえる程度で、豪華絢爛といえるほどではなく、貴族というよりは裕福な一般人といった感じだ。
その装飾品も宝石や貴金属を散りばめた物ではなく、センスの良さから高いと思えるようなものばかりであり実用性もそれなりにありそうなものも多かった。
倹約家なんだろうと考えていると、広めのエントランスの中央にある階段から一人の女性が降りてきた。
「あら~、あなた~お帰りなさい」
なんとも間延びした声の主はニコニコと温かい笑顔でアルヴィスさんを迎える。
あなたと呼ぶからには十中八九奥さんだろう。それにしても綺麗な人だな。
糸目に近い細目でニコニコと微笑む彼女は、童顔とは言わないが少し幼めの顔をしており笑顔と少しウェーブのかかった腰まであるピンクブロンドの髪が印象的だ。
「あら~、こちらはどなた?」
ぽけぽけした人だと思いながら見ているといつの間にかこちらに興味を移したらしく、俺のことをアルヴィスさんに聞いているところだった。
「挨拶が遅れました。私はナナシと申しますしがない旅人でございます。此度はアルヴィスさんに草原でボーッと歩いていたところを拾ってもらいまして」
「あらあらお客様?それなら早く上がってくださいな!」
そう言うといきなり腕をつかまれて食堂のような場所に案内された。
後ろを歩くアルヴィスさんを見ても、苦笑いを浮かべるだけでどうやら助けてはくれないようだ。
「リーナ、リーナ」
俺は結局わけの分からぬままイスに座らされ、奥さんが誰かの名前を呼んでいるのをただボーっと見ているだけだった。
「エクレール、ナナシ君が困っているぞ。その辺にしておきなさい」
「だってあなたの数少ない友人が増えるかもしれないと思ったらつい」
「うっ……ぐぅ……」
アルヴィスさんが奥さん(どうやらエクレールさんというらしい)を宥めるように言うが、対するエクレールさんはおそらく素なんだろうが返す言葉でアルヴィスさんの心を抉った。
というかアルヴィスさん、友達少ないんだ……。
「お帰りなさい!パパ!」
話相手ぐらいにならいつでもなろうとか思っていると、パタパタと何かが走ってきてアルヴィスさんに飛びついた。
「こらリーナ、今はお客様が来ているんだ。あまり騒ぐな」
アルヴィスさんは、飛びついてきた10歳位の女の子をたしなめると俺に向き直った。
「すまないねナナシ君。さっきのが妻のエクレールで、これが娘のリーナだ」
「いえいえ優しそうな奥さんに可愛らしい娘さんじゃないですか」
そう言うとアルヴィスさんはまんざらでもなさそうに照れたような表情をした。
というかエクレールさんはさっきリーナちゃんを呼んでどうするつもりだったんだ?
「あなた~ご飯の用意ができたわよ」
……いないと思ったらちゃっかり色々進めていたらしい。
「ナナシ君、今日はここで食べていってくれたまえ」
「いいんですか?」
「かまわないよ、今日は良い物を見せてくれたしな」
「では、遠慮なくご馳走になります」
アルヴィスさんの誘いを無碍に断るわけにいかないし、何より腹減ったし。
その後は特に何も無く、まぁ途中から食事会が俺の歓迎会みたいになってたが……。
結局ズルズルと今日は泊まっていきなさいとエクレールさんに押し切られ、何故かリーナちゃんには懐かれ、唯一のアルヴィスさんはなにやら城に行くらしい。
「ではナナシ君、頼んだよ?」
何を!?
何も頼まれた覚えがございませんが!?
頭の中でなんか色々パニックになっていると、アルヴィスさんが玄関の扉を開けながらとどめの一言を投下していった。
「ナナシ君には悪いが、おそらく城に呼ばれるだろう。恨むのなら竜の涙を見つけてしまった自分を恨んでくれ」
………………とりあえず神などいないということが良く理解できた。
あぁカムバック俺の平穏な生活。
あいも変わらず駄文ですね。
結構なピッチでアルヴィス伯爵家に入りました。
次はナナシが城に呼ばれて……なんか色々あります。多分。