伯爵にお礼をするとしよう③
彼はとんでもないものを買ってしまいました。
-アルヴィスside-
「ふむ、これは?」
店から出てきた彼が渡してきたのは道端に落ちていそうな拳大の大きさをした土の塊だった。
「それは竜の涙という宝石です。ご存知ありませんか?」
だが彼はこの土塊をあの竜の涙だという、残念だが私は信じることができない。
「まさかこれが?ただの土塊に見えるが……」
「おそらく何千年という時を過ごした果ての姿なのでしょう。騙されたと思ってそれを純度の高い水に浸してみてください。きっと気に入っていただけると思いますよ?」
いや、まさか本当に本物なのか?
一片の揺らぎも無い彼の自信に満ちた瞳を見ていると嘘だとは思えない。
まあこんな性格のせいで大きな家になれないのだと自嘲しながら、護衛の一人に蒸留水を買いに行かせた。
「アルヴィス様、これを」
護衛が息を切らせながら走ってきた。おそらく大急ぎで買ってきたのだろう。
しかしその気持ちも分からなくは無い。
いままで伝承や絵本などでしかその存在が知られていなかった至高の宝石を見ることができるかもしれないのだ。
私は子供の頃よく感じていたわくわくとした高揚感に身をさらしながら、手に乗せた土塊に水をかけた。
するとどうだろうか、ごつごつとした土塊に水をかけたとは思えないような動きで水滴が踊った。
まるで窓に付いた雨露のようにゆっくりと、しかし時に早く落ち、周りの仲間と手を繋ぎながら大きくなった。彼らは窪みに集まり、鏡のように静かに止まる。
そしてそこに現れたのは、まさに至高。
その石は水の反射によって色を変える。
赤から青へ。黄から緑へ。紫から橙へ。
時には交わり、時にはその色だけに染まり、水面が揺れれば万華鏡のように模様が変わる。
きっとこれは土塊などではなく、殻なのだろう。
中の幼子を守る堅固な卵の殻。
そしてこの世にしっかりと生まれ出てきてくれたことに安堵する母が流した涙が窓になって、母だけに中の幼子を見せるのだろう。
「……おぉ」
誰が漏らしたかも分からない感嘆の声。
私だったか、隣の護衛か、いつの間にか足を止めて見入っている通行人かもしれない。
だがそれほどにこの宝石は美しかった。
-side out-
おいおいただの高価な宝石かと思ったら本当に国宝認定されてもいいくらいの品物だろこれ。
とんでもないものを渡してしまったと思いながらも、お返しとしては上等だったなと気楽なことを考えていた。
この後どうなるか分かっていればあんなもの渡さなかったはずなのに。
というか国宝レベルって分かってたのに簡単に決めたあのときの俺死んでしまえと思うほど後悔するとは思わなかった。
宝石の表現はどうでしたかね?
へたくそでぜんぜん伝わってなさそうで怖いです。
次もよろしくお願いします。