伯爵にお礼をするとしよう②
「いらっしゃい」
店に入ると口では形容しがたい匂いと共に、お年寄り独特のしゃがれた声が歓迎してくれた。
何というかお婆ちゃんの家とか、駄菓子やとか、そんな類の匂いなので不快ではない。
匂いはさておき周りを見渡すと思った通り、俺の眼には店内に所狭しと並べられた品物のパラメータがはっきりと見えていた。
とりあえずそのままだといろいろ乱立して見づらいので、近くのディスプレイの上に置いてあった宝石をあしらったブローチを手に取り他のは消えろと念じてみる。
するとどうやら俺の目的がこのブローチだと認識したらしく、その他のは視界から消えた。
物は試しだと近くにあった壷に意識を向けると、その壷のパラメータがきっちりと表示された。
どうやらこの眼は見たいと俺が認識したものに対してON、OFFが可能らしい。
正直コレはとても助かる。
この骨董品店に来るまでに人や店のものなどあらゆるもののパラメータが見えっぱなしだったため少し気分が悪くなったからな。
いまさらだが自分の能力を更に知ることができたことに喜びつつ、先ほど手に取って持ったままだったブローチに再度意識を向けた。
Name:女神の瞳
Class: レプリカ(Sランク)
Author: ミザリー・クロムウェル
Value: 5000G
どうやらこのブローチはミザリーという人の作ったレプリカらしい。
それにしてもSランクの贋作かぁ、多分一番上のランクなんだろう。
5000Gがどれほどか分からないが高価な物だとは分かる。
まあ本物が高価だからレプリカもそれなりに高価なんだろうけどね。
でもどうしようか、この数の品物から本物見つけるのは一苦労だぞ。
そんなことを思っていると、いつの間にか何個かのパラメータが現れていることに気付く。
勝手に出てきたのかと思ったがパラメータを見て分かった。
俺のこの眼は思っていたより万能らしい。
サッと見た限りだが現れているパラメータは全部レプリカとは表示されてないし、価値の欄にある0の数がすごいことになってるから本物らしいし。
どうやら頭で考えればある程度整理してくれるらしい。
なんか微妙に頭が痛い気がするのは多分しっかりと俺の脳みそが働いて整理したということだろう。
そして俺は本物の一つに向けて歩を進めた。
-???side-
今日初めての客は特に何もなさそうな普通の青年だった。
彼は店内をぐるりと見回した後、近くの商品台にあったレプリカのブローチを手に取り、それを見ながら一人頷く。
きっと本物だと思い頷いているのだろうとそう思った。
だがどうだろうか、また少し店内を見回すと手に持ったブローチを商品台に置きなおし、とある方向へと足を進めた。
そして彼は一つの商品の前で足を止める。
その商品は[竜の涙]という見た目はただの土の塊だが、実はこの店で一番高い品物だ。
おそらく興味本位で手に取ったのだと思っていると、彼は竜の涙を持ったままこちらに向かって歩いてきた。
-side out-
これだな。
俺が手に取ったのは竜の涙というらしい土の塊だ。
Name: 竜の涙
Class: トレジャーランク SS
Author: ―――――(不明)
Value: 100000000G
Info: 数千年前からあると言われる至高の宝石。堅い殻のような土に覆われているが、純度の高い水に漬けると土が透け本体である竜の涙が姿を現すらしい。値段など到底つけられないが、付けるとすれば国宝と同等かそれ以上の値が付くだろう。
もう一度読み返して気付いたけどこれはまずいと思う。
でも、まあいっか。
俺はそんな軽い気持ちでお婆さんのいるカウンターらしき所へ向かった。
「すいません。これください」
…………反応なし。もしかして死んでないよなと思いつつ、こんなお宝を持つお婆さんのパラメータを見てみる。
Name: ミザリー・クロムウェル
Age: 27
Sex: 女
Class: トレジャーハンター
Ability: 変装・彫金・鍛冶・模写・模造etc.
へぇ~この人がミザリー・クロムウェルさんかぁ……って多機能すぎるだろ!?
何このスーパーマン!?いや女性だからスーパーウーマンか?
いやどうでもいいけど凄いなこの人。
っとそれより今は会計が先だな。
「すいません!」
未だに硬直するミザリーさんに大きめの声で呼びかける。
「……あ、ああお会計かい?3000Gだよ」
変装技術も凄いな、声まで完璧にお婆さんだ。
「少し待ってくださいね?」
伯爵から借りたお金で3000G払い、店を出ようとするとミザリーさんに呼び止められた。
「お客さん、何でそれを選んだのかね?」
当然本当のことなど言えないので、少しかっこよく決めたいと思いこう言った。
「こいつが教えてくれたんですよ。ではお姉さん、また会う機会があれば」
なんか気障っぽいね。まぁいいや。
-ミザリーside-
彼は最後になんと言った!?
お姉さん?まさか私の変装がバレた!?
いやそんな筈はない。
いや……でも、まさか…………。
「一体あの男何者だい?」
私の呟きが、骨董品に溢れた店内に悲しく響いた。
-side out-
グダグダだな…………。