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もうだめかもわからんね(主に尻が)

 尻が……尻が痛い……。

 

 馬車ってこんなに揺れる物なのだとは知らずに「これが馬車かあ。ヒャッホイ!」とか思ってたさっきの俺を殴りたい。

 

 ケツが四分割くらいになりかねないほどのダメージを受けてるんだけど。

 

 痛みもさることながらこの先の見えない緑も痛みを促進させてる気がする。

 

 我が愛車カムバーーーーック!

 

「どうかしたかね?顔色が優れないようだが……」

 

 尻が痛いのを我慢していると心配そうな顔をして伯爵が聞いてきてくれた。伯爵いい人過ぎだろ……やばい惚れ……いやいやねぇよ。

 

「いえ、最近はずっと徒歩での旅だったので久しぶりの馬車に少し酔ったみたいで……」

 

 馬車に乗るのが初めてで尻が痛いですとか言ったらまた不審者認定されかねないのでソレっぽい理由でごまかすことにする。

 

「ははは、そうかね。そういえばまだ名乗ってなかったね。私はアルヴィスという、君は?」

 

 笑うなよこの野郎。こっちは必死なんだよ。

 

 それにしても自己紹介か「すいません知ってます」なんて言えないよな。

 

「私はナナシと申します」

 

 俺がそう言うと、伯爵はなにやら不振そうに俺を見た。

 

「失礼だがソレは本名(ほんみょう)かね?」

 

「実は私、記憶が無いのです。自分で自身に名前を付けるというのもどうかと思いまして、名が無いということでナナシと名乗っております」

 

「そうなのか。いや、すまないね」

 

「いえ、お気になさらず。代わりといってはなんですが、この辺りの町と情勢などお聞かせ願えますか?」

 

 伯爵がすごい申し訳なさそうな顔してたから別の話しに切り替える。

 

 というか本当にこの人貴族なのか?

 

 イメージとしては一般人を虐げて自分らは悠々自適な生活をしてるクソ野郎の集まりだと思ってたんだけど。

 

 自分のイメージしてたモノが良い方向に崩れたのに少し驚きながら、話し始めた伯爵の方に意識を戻した。

 

「ここは[王国 クラウセル]そして我々が向かっているのはその中心に位置する[王都 クラナヴィア]治安も良く人々も活気がある良い街だ。そしてこの道を戻ったところにあるのが[港町 マーレ]魚などは大体ここから運ばれてくる。そして王都を抜けてさらに行くと、[宿町 セロビナ]がある。ここは国境が近いから人が多いし、物資の流通も盛んだね。他にも小さな町や村はたくさんあるが重要なのはこれくらいだろう。まだ聞くかね?」

 

 …………このおっさんNPCかよと思うほどのしっかりとした情報を教えてくれる伯爵に驚きながら、俺は他の国について聞くことにした。

 

「えぇ、ありがとうございます。他の国などはどのようになっているんですか?」

 

「国は5つ。[王国]、[商業国]、[皇国]、[神都]、[魔国]。商業国は山に囲まれていてその間を大きな河が流れていて物資が豊富なんだ。だから魔国以外が同盟を組んでいる。皇国はなんと言うか昔からあまり仲が良くないようでね。戦争は長い間起きていないが小さな小競り合いはまだまだある。神都は宗教の国だね、特に何も無いけど信者が多いから国と数えているよ。一番平和なのはここかもしれないね。最後に魔国だけど、この大陸の半分は森や平原なんだが、モンスターの良く出る森の奥の部分をそう呼んでるだけで何があるかは誰も知らないんだ。こんなところだけどいいかな?」

 

 やっぱあんた村の入り口とかにいる説明キャラだろ?

 

「はい、ありがとうございました」

 

「役に立てたなら嬉しいよ。一度休憩を取ろうか。おい、馬車を停めてくれ」

 

 伯爵が御者の人に声をかけると了承の声とともに馬車は停止した。

 

 すでに降車した伯爵を追って馬車から出ると道の向こうにおぼろげだが何かが見える。

 

 もしかしてあれが王都か?

 

「ナナシ君、ただの水だがどうだね?」

 

 いつの間にか後ろに来ていた伯爵に内心驚きながらも無骨な鉄のコップと小さめのサンドイッチのようなものを受け取る。

 

「塩漬けしたウサギの肉をパンに挟んだ簡単なものだけどね」

 

 やっぱ良い人だ。見ず知らずの他人、それも一般人の俺にご飯くれるなんて、NPCとか思ってごめんなさい。

 

「じゃあいただきま……あれ護衛の人たちは食べないんですか?」

 

「彼らの分は初めに渡したはずだが、どうしてだね?」

 

「水は残ってるみたいですが食べ物を持ってる人がいないので……」

 

「そうか、言っていなかったが彼らは全員新米の兵士たちで遠征は今回が初めてなんだ。まあいい薬になると思うから追加で食べ物は渡すことはしないがね」

 

 伯爵の言ったとおりステータスを見る限りみんな新米っぽいしペースミスったのか。

 

 ついでにこの不思議な力に慣れようとみんなのパラメータを見ていると実は御者の人がちゃんとした熟練の護衛らしくご飯もしっかり食べていた。

 

 新米兵士の人たちに悪いと思いながらサンドイッチを口に運ぼうとすると、その中の一人がチラチラこっちを見ているのに気付く。

 

 鎧があまりにも無骨すぎて男女の区別がつかないが、パラメータを見るとどうやら女性のようだ。

 

 何か俺に用でもあるのだろうか?

 

 

 

 Name: アリサ・コールディス

 

 Age: 21

 

 Sex: 女

 

 Class: 新米兵士

 

 Status: 飢餓

 

 HP: 8%

 

 

 

 ああ、お腹が空いたからこっちを見てたんだね……ってちょっと待て。

 

 空腹とかじゃなくて飢餓?

 

 残り体力8%って瀕死じゃねぇか!?

 

 あんたペース配分間違えたとかじゃないくて定期的に支給されると思ってさっさと食べちゃったとかだろ?

 

 俺は若干どころか普通に焦りながらアリサさんに近づいた。

 

「あ~護衛の人」

 

「……なにか御用でしょうか?」

 

 声に覇気がないんだけど、やっぱ結構限界なんだろうなこの人。

 

「よかったら食べますか?俺あんまり腹減ってないんで」

 

「よ、よろしいのですか?」

 

 すごい切羽詰った感じで聞いてくるアリサさん。

 

 多分冗談とか言ったら斬られるレベル。

 

「え、えぇどうぞ」

 

「ほ、本当によろしいんですね!?」

 

 …………この人めんどくさい。

 

「いらないなら伯爵にお返しするか俺が食べるけど」

 

「いえ、いただきます」

 

 そう彼女が言ったときにはすでにサンドイッチは俺の手には無く、彼女の手にも無くなっていた。

 

 速っ!?

 

 消失のレベルだぞ今の……。

 

「あの、ありがとうございました!」

 

「いえいえどういたしまして」

 

 そういいながら彼女から離れる。

 

 ステータスも飢餓は消えてたし、体力も30%くらいまで回復してたから大丈夫だろう。

 

「ナナシ君そろそろ出るから馬車に乗ってくれ」

 

 もうそんな時間かと水をさっさと飲むと馬車に乗り込み、また尻の痛みに耐える時間が来たかと思うと少し憂鬱になった。

 

 当然、馬車はそんなことなど知ることも無くさっきまでと同じように王都へと走り出した。

どうでしたかね?

次で王都に到着して、伯爵家に招かれます。

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