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硫黄とサンダーボルト  作者: ジ・エモン


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(2)ウヨウの街(1)





 ヨハナが住むこととなったウヨウの街。

 正統には、イシガツカ=ウヨウと言い、湖丘こきゅうの街ともいいあらわされる。字のごとく、地元でナナキの湖とよばれる巨大なナキ湖のきわにたたずんでいる。



 ウヨウの街のそばにはヨハナがやってきた山々へつづく無人の野路のみちと、もうひとつクナウハ山へいたる道がある。クナウハの山は、焼け白の良質な産地で、これらはウヨウの街の盛んな鍛冶へとそそがれている。また、ウヨウの街を起点として砕かれた焼け白の乾いて白い石礫が輸送や出荷されている。街の主要な仕事のひとつでもある。

 政が変わって世がややみだれる昨今の風潮では、人も興奮した五歩インホーの鼻息のごとく、あらぶってはいたものの、ウヨウの街はその生業と興業によっていくらか、独立独歩。

 観光の人もひっきりなしにおとずれる。そのため出稼ぎの人のために用意された宿街は徐々に転用され、旅人用のもてなし宿として開店しているものもある。

 この観光のための案内人を、宿が用意する。

 街につうじた人間がやることだったが、よそものにもかかわらず、ヨハナはこの案内の小娘に仕事をいただいていた。ものおぼえがいいのと、街に出入りしてかわいがられたのが、起用の理由ではあろうが。あとヨハナの見目はそれなりいいし、華奢ということも観光客用向きだと思われたのであろう。この案内人の仕事をするときは、ヨハナは仕事用に動きやすい格好をする。髪をまとめて帽子にしまい、下は鉱山労働者の履くような足ごとに筒状にひきしまった穿きもの、下筒衣ツァーボなどというのだったが、それを穿き。上衣と半分一体になって、釣り筒のように胴体をつつんだ下には、ウヨウでは一般的に着用されている袖の二の腕で切られた短衣シヤツ……ウヨウというよりかはその大元であるアカヘビの国、蛇の大陸に覇を唱える大国の中部では一般的なもの、を、身につけている。もっとも、観光客向けということもあって、襟とボタン留めつきの、多少見た目をよくしたものだが。

 ヨハナは、師に内緒で街におりるときには、この街でいろいろやるための貨賃をかせぐ方法として、仕事をさがしてまわっていた。

 その縁で、この案内人の仕事もありついたものだった。

 ヨハナを宿に紹介する仲介もととして、たのまれた床屋のグー・タンには、今度山を下りることになったことは話してあった。

 そのうえで無理を言って頼みこみ、仕事をやっているのがいまのヨハナの身のうえだった。

 へたなことはできない。

 まあ、安心する材料としては、多少、ほかの仕事よりも経験があることか。また、無謀な旅程を経験したために、いくつか小話もできるところはあった。

 観光客がウヨウにやってくる道すじはふたつほどある。

 ひとつは輸送の荷駄にだみちを、歩車に乗って東下してくる道。

 もうひとつは、西からくるという方法もあったが、こちらはやや道が険しく、輸送路こそ開かれているが、一般には使わないだろう。ウヨウに仕事を探しにやってきたり、商談にやってくるよその人間がこちらを使うことが多い。

 もうひとつ、東下してくる道すじに、湖を渡る船を使う道があるが、観光、とわけられる人々はこちらを使いがちだった。風光明媚、とナキ湖の景色をそこまで絶賛して言うのは、地元の人間でもあまりなかったが、外の人間からしたら、人の手の入っていない山紫、明水を愛でるのに十分な価値があるほどだった。

 もちろん景色というのは建前であって、荷駄道は、歩車と荷車でとにかく混み合う。また、街道も整備は昔ながらを保っていて、土の道も多く、湖の岸を延々腰と脚尻きゃくじりを痛くしてグネグネやってくるよりは、と、湖の船を使う。

 案内の小娘などは、ウヨウにやってくるひとつ手前くらいの船着場まで出て、観光客を探すものだ。

 ぜんぶがぜんぶ、そうではないが、懐に余裕のある客などは先に伝書を通じて、案内人を用意していたりする。当然、金持ちと呼べる人で、この金をお役所から出してもらっていたり、また本当に富んだ一部の金持ちな人だったりする……ウヨウに商談にやってきた商人の友達や、取引先の縁だったり……というかんじだ。

 後者の縁を使ってやってくるお役人相手の商売が、はじまりなんてことも言われてはいるが。

 とまれ。船着場近くの待機場に、ヨハナは小書き片手にやってきていた。粗末なウスに書かれた文字には目もやらず、じっと混雑した客台つきを次々追っていく。

 春先の温かい空気が、荷を引く市歩スイホーや五歩の体臭と体温で、道ばたのジィホウ花に鼻息をかけている。待機場は、足の踏み場もことによるとない。ちょっとでもふらふらすれば、市歩の毛むくじゃらの長い足が、あっというまに蹴りつけて、骨でも砕きそうだ。だれもかれもが、市歩の後ろには立たないおかげで、ちょうどよい空間は、なんとか保たれてはいるが。

 そのなかを一台の歩車が、こらからとすべりこんで止まった。いらだった五歩の、鼻の長いいななきとともに、腰や尻を痛くした客たちが、おりてくる。

 ちょうど、そちらに目をむけて、さっとすばやく手元の紙に目を落とし、ヨハナは右左を確認した。待機場の往来を縫って、歩車に走りよる。

 あらかじめ話を通している客は、なになにの目印をかかげてやってくる、とまで言っていることがちらほらある。ボウラドゥ・フォドレーの名を名乗るヨハナの待ち客は、乗りこむ歩車の車台で、赤い布きれをはためかせた長い棒を持っている。屋根つきですらない粗末な車台では、それは身体が疲れるだろう、というヨハナの予想したのとは裏腹に、目星をつけた人物は(しっかりした足どりで)降りてくる。

 なんとも見目のいい妙齢にも若くも見える、背の高い女性である。

 ほこりや人いきれのなかでもみくちゃにされているような金髪は、ひらひらと輝いている。歩車の主と何事か話している横顔は、瞳が鮮やかに青く、まるで萌えるようである。

 それでいて華奢ではなかった。旅装と見られる長袖の服は、ウヨウからはだいぶ東にいった都からくる人間じみていて、折り目がよかった。

 下筒衣を、さらに馬にでも乗るようにぴったりとさせたような下衣と、役人が切るような腰裾が長い上衣。

 あまりうまくいかなかったらしい歩車の主との交渉を終えて、その顔が左右に配られる。油断のない、立ち会う相手を探すような、それでいて力んだところのない目つきだった。

 ヨハナは人の流れをぬってようやくたどり着くと、ちょっと見えないように衣服を直した。


「こんにちは。失礼します、旦那さん」


 ヨハナは言った。ああ、と、都じみた女性が言った。「フォドレーさん」と、確認すると、青い瞳がきりかわるようにヨハナを見た。


「まちがいない。君が案内の子か。よろしく。ボウラドゥ・フォドレーという」

「ようこそ、旦那さん。イシガツカ・ウヨウへ。好手柄ジァー・ホウ。荷物をお持ちします」

「ああ。頼む」


 フォドレーは余裕をもった動作で、入念にしばられた荷のひとつを渡してきた。ヨハナは荷物をはこぶ用の小さな車輪つきに、その荷をしっかりと縛った。


「ウヨウははじめてですよね?」

「ああ。わかるかね」

「ええ。一度来た方だと、荷を渡す前に、仲介人と宿の名前を確認します。ここウヨウは、治安はしっかりしていますが、それでも生活に困った貧しい人たちはいるものですから」

「どのような理由で、生活に困るのかね?」

「街の名産といったら、焼け白と鍛冶なんですけど……おもにその鉱山や、あとはたんに仕事の事故、喧嘩、病気、いろいろな理由で肉親が死んでしまったりとかで、その日暮らしになる子どもがけっこう」

「そうか。気をつけよう」


 案内をたのむ、と、フォドレーは言った。微笑んでいるような、そうでないようなひきしまったほほが白く待機場のほこりのなかを歩きだした。





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