書状
隊長を始めとする護衛に携わった十七名と玉が近衛兵舎内敷地に入ると、既に他の近衛兵が集まっていた。 逞しい体格の女性兵士が前に出て、任務を終えた兵達を労った。
「皆、お疲れ様でした。 良い仕事が出来ましたね。 帰ったばかりではあるが、今から命を落とした三名、ジョン、レノン、ポールの御霊へ哀悼の意を表したい。」
女性兵士が玉に向き直った。
「玉殿ですね。 此度は、王女ばかりか兵士達の命を救って頂き、誠に有難く、感謝致します。 申し遅れました、近衛兵団長のマーガレットと申します。」
「薬草採りの玉と申します。 ご挨拶頂戴致します。 少々、お待ち下さい。」
鞄から三人の亡骸を取り出し、皆の前に横たえた。
「亡き三名の家族も既に見えている。 どうぞ前へいらして下さい。」
涙を湛える家族と共に、兵士、玉も哀悼の意を表す。
※ ※
帰還報告同行の指示の一刻半後、玉の姿は王城内の謁見用待合室に有った。
マーガレット近衛兵団長、グレイブ副団長が正装して控えている。 玉が入室の際、初見の貴族が謁見の為に入って来たと思い込んだ二人は、軽く会釈をして互いの会話に戻った。
「団長、玉殿が見えていません。 迷っているのでしょうか。」
「案内役が居るので、大丈夫だと思うが、・・・・。」
(ん、俺の事だよね。 分からないのかな。)
「マーガレット団長、グレイブ副団長、からかわないで下さい。 玉ですよ。 “ぎょく“、薬草採りの玉ですよ。」
「えっ!」
二人とも、眼を見開き、顎が外れんばかりに開いた。
団長の転意が速かった。 真顔に戻るや否や、柄に手を掛け言い放った。
「玉殿を語る曲者、何者だっ。 我等の知る玉殿は、三十路のボサボサ頭の無精髭面の冴えないオッサンだぞ。 貴族然とした、こんなイケオジでは、絶対無いぞ!」
鞄をポンポン叩く様子を見た副団長が団長を止める。
「団長、お待ち下さい。 玉殿ですよ・・・・。 恐らく。」
「三十路のボサボサの頭で無精髭面の冴えないオッサンで悪う御座いましたね。 人間を外見で判断するのですね・・・。 これからの接し方を考えさせて頂きます。」
柄から手を離しながら団長が詫びる。
「済まん、冗談だ、・・、う~ん、馬子にも衣装、何処かの国の諺にあったような、・・・、この短時間によく調達できたな?」
「本気で切り付けそうな感じでしたが? 一張羅ですよ。 お袋様が持たせてくれた余所行きの一張羅。 恥ずかしいのですが、宗主に謁見するのに、まさか普段の恰好では、不敬過ぎて、首と胴が離されそうな感じがしたので着替えました。 浄化魔法と収納魔法のお陰です。」
「分かった。 そろそろお呼びが掛かる頃だ。 気を締めて臨むとするか。」
「マーガレット団長だけだと思いますけど、緩んでいるのは。」
副団長と玉が口を揃えた。
※ ※
謁見の間には、既に主だった人物が揃って居た。
最上段中央には、宗主夫妻、右側には第一王女と婚約者、左側には宰相ジェローム、後方に一段下がって若手官僚筆頭、次期宰相候補の副宰相セルジオと、賢者ソクラケロが並んで居た。
宗主正面には、レイア第二王女が、士官用礼装、左後方に控えるメアリーも士官用礼装で跪いていた。
第二王女殿下とメアリーの後ろに、マーガレット団長、左後方にブレイズ副団長、最後方に玉が控えた。
宰相が口を切る。
「只今より、帝国ミラドに於ける親善会議と帰路トレド近郊に於ける襲撃事件に付いての報告を受ける。 宗主殿、どうぞ」
「コールマ帝国ミラドにて開催された親善会議への参加、ご苦労であった。 感謝する。 後日、議事録が届いたら確認してくれ。 詳細は、宰相とやってくれ。 帰りは大変だったな。 命を落とした三名の兵士に今から1ミナルの間、黙祷を捧げたい。 良いな。」
全員、その場にて黙祷。
「負傷者も居たようだが、戻って来れて何よりじゃ。 粗方の報告は受けているが、レイアよ、詳細を報告致せ。」
レイア第二王女が立ち上がり、事の顛末を報告する。
「後ろに控えている方が、通り掛かりに命を救って下さった、薬草採りの玉殿です。」
宗主ギリオルが玉に礼を述べる。
「玉殿、此度はレイアばかりか兵士達の命を救って頂き感謝する。 落命した三名の亡骸まで丁重に運んで頂いた事も重ねて感謝する。 事前の報告で貴殿は帝国大賢者カエサメデス殿の知己との事、ソクラケロ宛の書状を携えているとも聞き及んでいる。 後刻渡すと良い。 直答を許す。」
跪き、顔を伏せたまま、玉が述べると同時に宗主に念を飛ばす。
「薬草採りの玉が申します。 宗主の感謝の意、確かに受けました。 お役に立てた事を光栄に思います。 ソクラケロ様宛の書状ですが、疑わしき内容でない事をこの場で読む事で証明して頂きたく願います。 鞄から書状を取り出しても宜しいでしょうか。」
(宗主殿、玉です。 勝手に念を飛ばす無礼をお許し下さい。 ソクラケロ殿に対するあらぬ疑いをモリス殿下に抱いて欲しくないので、この場にて読んで頂きたく、述べました。)
宗主が首を縦に振る。鞄から取り出した書状を副団長、団長経由で、宰相に渡し、ソクラケロ殿の手に収まる。
「確かに、カエサの家紋。 間違い無い。」
持参のナイフで蝋を削り取り、書状を拡げる。
「読み上げます。 ・・・ソクラよ、久し振りじゃの。 二つ願いがある。 知っての通り、帝国とガルマン共和国の紛争が長引いての、錬金術の基礎研究に使用するガルマニウム鉱石の輸入を抑えられ、入って来ないのじゃ。 後日、礼はするのでバルキシュ王国産のガルマニウム鉱石とセルニウム鉱石を2タント(2,000ケロガラム)廻ししてくれんかの。 相場の五倍の値段で買い取らせて欲しい。 二つ目じゃが、この書状を携えて向かわせた青年、薬草採りの玉と申す。 我が人生で出会った人物の中でも、我も含めて、これ程出来る者に出会う事は無かった。 仁・義・礼・智・信・武・勇に秀でておる。 そう聞くと、何故お前の所に留めて置かぬのじゃと疑うのは、当然の事。 何度も、儂と共に道を究めぬか、帝国に仕えないか、と誘ったのだが、糠に釘の有様でな。 軍に頼み込み力技に訴えれば、コロッと負けるのは、目に見えて居る。 イケメンなので女性への免疫が出来ているらしく、イケジョ、素人から玄人まで宛がったが、女性を楽しませるだけで終わり。 最後の策と思い、不治の病を抱えた年寄りを演じ、しみじみ一晩飲み語り合った。 ・・・、残念な事に、二人共、笊であった。 ・・・、酒がいくらあっても足りぬ。 飲み屋の酒を飲み尽くすだけだった。 最後に彼が語ってくれた。 「この旅は、実は、嫁捜しの旅なのです。 お袋殿が、「死ぬ前に孫の顔を見せておくれ、嫁を見つけるまで帰って来るな」、と追い出された次第で、薬草を採って生計を立てながら旅しているのです。 明日、旅立ちます。 カエサ殿は、酒と色をまだまだ嗜まれる若さを保って居られますね。 私なんぞに構う時間を御新造様にお使い下さい。 又、ふらっと立ち寄ります。 今度来る時には、孫みたいなお子さんが出来ていると良いですね。 元気にお過ごし下さい。」、逆に心配される始末。 残念ながら、帝国には彼の眼鏡に適う女性は、居らなんだ。 ソクラの国で嫁が見付かれば、宗主国が未来永劫安泰になる日も近い、かも、・・・知らんけど。 と言う訳で取り急ぎこの書状を認めた次第である。
永遠の友 カエサメデスより」
(玉よ、この内容では、貴様がモリスの的に成りそうだぞ。 もう読み終わったから、仕方無いが。 少し牽制だけはしておくか)
宗主が念を飛ばして来た。
(此方に注意が向けば、レイア王女様達は暫くの間、安全・安心でしょう。 一先ずは、成功と言う事で宜しいでしょうか。 良ければ、念を閉じます。 ご無礼の段、お許しを。)
(玉殿が良ければ構わぬが、・・・、迷惑では無いが、この意思疎通手段も宜しいな、後日、詳しく説明してくれ。 (切断後の)プー、プー、・・・、?。)
※ ※
(あ~っ、モリス殿の視線がグサグサ刺さるな。 知らん振り、知らん振り。)
「玉殿、カエサからの書状確かに受け取りました。 疾しき事も無い旨、明白にも成りました。 内容に付いて、突っ込みたい所は多々在りますが、それらは、後日伺います。 届けて下さり、感謝します。」
賢者が謝意を述べ終わると、宗主が思い出した様に一同に伝えた。
「取敢えず一同に伝え置く。 今朝、在キルレオ王国大使から鷲便が届いた。 王国のジョバンニ辺境伯が心臓発作で亡くなったそうだ。 我が国、特にタッカー辺境伯周辺で起きた揉め事、争い事の影に必ず彼の名前がちらほら浮かぶ。 亡くなってしまっては冥福を祈るばかりだが、自国内に手引き等の助力をした輩が居なければ良いと、併せて祈りたいものだ。 皆もそう思うだろう。 以上、隣国からの速報だ。」
少しの間を置き、宰相からの言があった。
「玉殿に伝えます。 貴殿に命を救われた近衛兵団が感謝の宴を開きたいので、今夜は、近衛兵舎に泊まって頂けないかとの打診を預かっています。 如何なさいますか。」
「薬草採りの玉が申します。 有難き申し出お受け致します。」
「では、この後、マーガレット団長及びグレイズ副団長と共に宿舎へ向かって下さい。 次に、レイア王女様、親善会議議事録(仮版)が届き次第、確認・添削を頂くので後日連絡致します。 これにて、此度の謁見を終えます。」
一同を見渡し、終わりを告げると、宗主始め、宗室一同が退席した。 宰相達と、賢者も、後刻の宴にて再会と言う事で一時お別れ。 第二王女殿下と護衛、団長・副団長と玉が神妙な面差しで控えの間に戻る。




