空から
十三の刻に練兵場に着いた玉。
まだ誰も来ない。
半刻後に、宗主夫妻、宰相、ガイア将軍、レイア姫とメアリーがやって来た。
後ろに、召使いが一人、台車に大きな旅行鞄三個を積んで押して来た。
「玉殿、待たせたかな。 事の成り行きは、レイアとメアリーに説明した。 後の詳しい説明は任せる。」
宗主が玉に、二人だけでなく、全員が理解出来るような説明を願った。
「宗主殿、了解しました。 これから姫とメアリーには私と一緒に空を飛んでもらいます。」
「そ、空を飛ぶ!」
全員が、玉の突拍子も無い話に驚いた。
「そうです。 グリフォンの背に乗って、一っ飛びです。」
またもや、全員が。
「グ、グリフォン!」
「十六の刻には、ここに着く予定です。姫とメアリーの荷物は、これで全てですね。」
「はい、そうです。」
メアリーが応える。
すると、玉が直ぐに収納鞄へ納める。
入れ替わりに、防寒着・防寒ズボン・防寒靴・耳当ての着いた防寒帽子・内側に被る防寒目出し帽子・防寒手袋・防寒眼鏡を二組取り出し、姫とメアリーに渡す。
「上空は冷えるので、軍服の上にこれを着て下さい。 靴は履き替えて、髪の毛は束ねてから着帽して下さい。
宗主殿、キルレオ王国王城についてから、レイア姫の身分を証明出来る物を持たせて下さい。」
玉が宗主に、到着後掲示出来る身分証明物の準備を促す。
「封蝋したクレア女王陛下宛の手紙と、イルマ宗主国の家紋を誂ったペンダントを持たせた。」
宗主の返答後、レイア姫に向かった。
「飛行中落下させると困るので、レイア姫、手紙とペンダントを預かります。」
渡された手紙とペンダントを収納鞄に仕舞う。
十六の刻、北の空からグリフォンがやって来た。
初めて見る神獣に慄く宗室関係者を脇目に飛行準備を進める玉。
「急ぎで済まんな、グリ。」
「主、なんの、なんの。」
「今日は、俺以外に此方のお嬢さん方を乗せて、キルレオ王国首都ヘルスレに飛んで欲しい。
二人分の座椅子と固定用胴ベルトを取り付ける。」
「主、了解。」
玉が収納鞄から、椅子とベルトを取り出し、無詠唱の魔法でグリの胴部に取り付ける。
二人が脱いだ靴も忘れずに収納した玉が、最終確認をする。
「十五の刻には早いですが、そろそろ出発します。 今の内に交わす言葉は有りませんか。」
レイア姫の母、ライア妃が旅立つ娘に向かい言葉を掛ける。
「レイア、今度の旅の帰還はいつになるか分からないけれど、便りを寄越すのですよ。
メアリー共々元気で過ごすのですよ。 メアリー、頼みましたよ。」
「妃殿下、了解しました。」
メアリーが応える。
飛行前の二人の装備を最終確認し、浮遊魔法でグリに取り付けた座椅子に運び、座席ベルトの着用を促す。
「離陸前に座席ベルトの着用と飛行眼鏡と防寒手袋の着用を願います。」
玉自身もグリの背に跨り、レイア姫とメアリーと共に見送りの人々と敬礼を交わす。
「では、グリ、頼む。」
「主、了解。」
グリの羽ばたきで巻き起こる旋毛を見遣る事も無く、宗主達は瞬く間に小さくなる娘達の後ろ姿を見守るばかりだった。
※ ※
首都ヘルスレが視界に入ると、玉が羽ばたくグリと跨る自分達に隠形魔法を掛けた。
三十メテロの高さを誇る外壁南門の一キロメテロ手前で着陸し、隠形のまま、二人を降ろした。
「グリ、ご苦労。 里へ戻るか。」
「主、その予定です。」
「お袋様に宜しく伝えてくれ。」
「主、嫁を見つけた、と言えば良いのか?」
「グリ、人族のユーモアセンスを少しずつ身に付けてないかい?」
「主、最近、セフィーにユーリ、キリタンも遊びながら色々教えてくれるぞ。」
「うん、今度帰ったら、あいつら説教だな。 気を付けて戻ってくれ。」
「グリ殿、有難う御座います。 あっと言う間でした。 空の旅、楽しかったです。」
レイア姫とメアリーが、嬉し気に礼を述べる。
「主、お嬢様方、では、行く。」
帰る姿もあっという間に小さくなって、三人の視界から消えた。
隠形のまま、二人は防寒具を脱衣し、玉がグリの装着具、防寒具を仕舞、代わりに手紙とペンダントを取り出しレイア姫に渡す。
「玉殿、有難う。」
「うむ、隠形を解いて、南門から入りましょう。 メアリーもそれで宜しいかな。」
「異存無し。」




