エピローグ 帰路の余白
帰りのバスの窓から、草津の町が遠ざかっていく。
湯畑の湯気も、白根山の稜線も、星空も、全部が少しずつ小さくなっていく。
それでも、車内にはまだ、湯気の匂いが残っている気がした。
「結局、科学って何だったんだろうね」
大翔がぼそっと言う。
「地球のしくみをちょっとだけ覗いた感じ?」
陽翔がスマホをいじりながら答える。
「でもさ、湯気の匂いとか、星の光とか、全部“今”じゃないんだよね」
湊斗が窓の外を見ながら言う。
「過去の光と、地下の熱と、私たちの記録が混ざってる」
結菜がスマホを見せる。最後の投稿には、こんなタグが添えられていた。
《#草津科学部 #帰路の余白 #また来年も #科学は続く》
投稿後、通知がひとつ鳴った。
「“このタグ、静かに沁みる”って来てる」
「うわ、それ、保存しよ」
陽翔がスクリーンショットを撮る。
「来年も、また来れるかな」
結菜がぽつりと言う。
「次はどこ行く?」
「火星とか?」
「それ、予算オーバー」
「てか、俺らがモテるテーマにしようぜ」
「それ、永遠に見つからないやつ」
「でも、科学でモテたいって思うの、悪くないでしょ」
湊斗が笑う。
バスの窓に映る空は、少しずつ色を変えていた。
科学と青春の旅は、まだ終わらない。
問いは、いつだって余白の中にある。




