第4章 湯気越しの宇宙、光のタイムマシン
「星、めっちゃ見える……」
湊斗が湯船のふちに腕をかけて、夜空を見上げた。
草津の高台にある露天風呂。湯気がゆらゆらと立ちのぼり、空には無数の星が瞬いていた。
「光害が少ないからね。標高も高いし、空気も澄んでる」
陽翔が湯に浸かりながら、スマホの星座アプリを起動する。
「見える星の数、都市部の10倍以上だってさ」
「星って、どれくらい遠いの?」
大翔がぽつりと聞く。
「一番近い恒星でも、約4.3光年。つまり、今見えてる光は4年前に出たやつ」
「え、じゃあ今の星の姿って、過去ってこと?」
「そう。宇宙って、時間の博物館みたいなもん」
陽翔が言うと、結菜が湯気越しに笑った。
「なんか、ロマンあるね」
湊斗がスマホを取り出して、湯気に包まれた星空を撮る。
《#草津科学部 #露天風呂と星空 #光のタイムマシン #湯気越しの宇宙》
投稿後、反応がじわじわと広がる。
「うわ、“このタグ詩的すぎて泣いた”って来てる」
「星空補正、強すぎる……」
大翔が湯に沈みながらつぶやく。
「俺の“宇宙と地熱のコラボ”ってタグも入れてよ」
「それ、誰にも刺さらないと思う」
結菜が笑う。
「でも湯気があると赤外線は通りにくいんだよね」
陽翔が湯船のふちに手を置いて言う。
「赤外線カメラで見ると、湯気の部分がモヤモヤしてる。熱放射ってやつ」
「人間も赤外線出してるし、温泉もね」
結菜が湯気に手をかざす。
「じゃあ、星を見ながら温泉入ってるって、宇宙と地熱のコラボじゃん」
「それ、俺が言ったやつだから」
「いや、私だけど」
陽翔と結菜が同時に言って、湊斗が吹き出す。
しばらく沈黙が続いた。湯気の向こうで、星が瞬いている。
「ねえ、来年もまた、こうやって来れたらいいね」
結菜がぽつりと言う。湊斗は頷いた。
「うん。そのときは、もっと深いテーマで探究しよう」
「じゃあ次は、宇宙と温泉の関係とか?」
「それ、予算オーバー」
「てか、俺らがモテるテーマにしようぜ」
「それ、永遠に見つからないやつ」
4人の笑い声が、湯気に溶けていった。
星の光も、地熱の湯気も、過去と現在をつなぐ問いのかけらだった。




