第3章 残雪の軌道に、湯気が描くカーブ
「え、まだ雪あるんだけど」
大翔が自転車を止めて、指差した先には、木陰に残る白い塊。
「日陰+高標高+北斜面。条件そろえば、夏でも残るよ」
陽翔がスマホを構えながら言う。結菜はしゃがみ込んで、雪を手に取った。
「結晶、見えるかな……」
湊斗が温度計を雪面に近づける。表示は4.2℃。
「雪って、0℃じゃないの?」
「表面は溶けてても内部は氷点下。熱交換ってやつ」
陽翔が答える。
「じゃあ、雪って“冷たい”だけじゃなくて、“構造”があるんだね」
結菜がつぶやく。湊斗はその言葉を聞きながら、スマホに投稿文を打ち込む。
《#草津科学部 #残雪発見 #結晶観察中 #夏の雪ってロマン》
投稿後、コメントが次々に届く。
「え、草津って雪あるの?」「冷たそう!」「その雪、食べられる?」
「ちょ、最後の質問おかしくない?」
大翔が笑いながらスマホを覗き込む。
「ねえ、ちょっと広いとこ行こうよ。ボール蹴りたい」
大翔がリュックからサッカーボールを取り出す。
「また始まった……」
湊斗が苦笑する。
近くの空き地で、即席のサッカー実験が始まった。
「今日は“湯気カーブ”やるから」
「それ、マグヌス効果じゃない?」
陽翔が解説モードに入る。
「回転する球体が空気を巻き込んで、圧力差で曲がる。野球のカーブも同じ原理」
「でも湯気があると、空気の密度が変わるから、軌道がさらにズレるんだよ」
大翔がボールを蹴る。ふわりと浮いたボールは、湯気の向こうで急に左へ曲がった。
「うわ、マジで曲がった!」
結菜が笑いながら動画を撮る。湊斗がすかさず投稿。
《#草津科学部 #湯気カーブ #マグヌス効果 #物理って楽しい》
投稿後、「これ、バズる予感」「湯気カーブって名前が天才」などのコメントが続々。
「うわ、陽翔のフォロワー数、今ちょっと増えた」
「え、マジで?!」
陽翔がスマホを二度見する。
「俺、科学でモテる時代来たかも」
「それ、結菜に言ってみたら?」
「やめとく。現実は見えてる」
「じゃあ次は“雪面ドリブル”やる?」
「それ、滑るだけじゃん!」
4人の笑い声が、草津の空に溶けていった。
雪の軌道も、湯気の乱れも、科学の問いに変わっていく。
遊びの中に、答えのかけらが転がっていた。




