第2章 火山の懐で、地球が息をする
「この坂、マジで心臓にくるんだけど」
大翔がハンドルにしがみつきながら、白根山方面の登り坂を見上げた。
「それ、地球の心臓に向かってるって思えばロマンあるでしょ」
陽翔が笑う。湊斗はスマホで現在地を確認しながら、結菜の背中を見ていた。
彼女は黙々とペダルを漕いでいる。
標高が上がるにつれて、空気が薄くなり、風が冷たくなる。
木々の種類が変わり、足元の土の色も少しずつ赤みを帯びてきた。
「標高が100メートル上がると、気温は約0.6℃下がるって言われてるよ」
湊斗がつぶやくと、結菜が振り返る。
「じゃあ、今の気温と標高を記録しとこ。あとでグラフにできるし」
スマートセンサー付き温度計がピッと鳴る。
陽翔がその数値をスマホに打ち込みながら、投稿文を整える。
《#草津科学部 #白根山登坂中 #気温15度 #標高1350m #地球の鼓動》
投稿して数秒後、「いいね」がじわじわと増え始めた。
「お、反応きた。あ、顧問の先生も見てる!」
「マジか、プレゼンのとき見られるやつじゃん……」
大翔が苦笑する。
「てか、俺の“地球の心臓”ってフレーズ、タグに入れてよ」
「それ、結菜が言ったやつじゃない?」
湊斗が冷静に突っ込む。
火山岩が転がる斜面に差しかかる。
黒く焦げたような岩肌、白く沈殿した硫黄。
「火山岩。たぶん安山岩系。マグマが冷えて固まったやつ」
陽翔が即答する。
「あと、あの白いのは硫黄の沈殿。火山ガスに含まれる成分が冷えて固まったんだよ」
「火山ガスって、何が入ってるの?」
「主に水蒸気、二酸化炭素、硫化水素。H₂Sってやつ。あれが温泉の匂いの正体」
「へぇー、じゃあ温泉って、地球のゲップみたいなもん?」
「それ、言い方!」
結菜が笑いながらツッコむ。湊斗も吹き出した。
展望台に着くと、眼下には草津町が広がっていた。
湯畑の湯気が、遠くでふわりと立ちのぼっている。
「ここから見ると、町が火山の懐に抱かれてるみたいだね」
湊斗がつぶやく。陽翔がスマホを構えて、また投稿。
《#草津科学部 #火山の懐 #安山岩と硫黄 #地球の鼓動 #湯畑見えた》
投稿後、「地球のゲップ」に反応したスタンプが大量に届く。
「いや、そこ拾う?!」
湊斗が頭を抱える。
「でも、印象には残ったよね」
結菜が笑う。
「俺のタグ、バズってるってことにしていい?」
「それ、結菜のタグだから」
陽翔がぼそっと言う。
風が吹き抜ける。
火山の懐で、地球が静かに息をしていた。
その息づかいは、僕らの問いに、少しだけ答えてくれた気がした。




