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第24話 配下は人形にあらず

「こっちよ、ミズキ」


 テオと別れた後、ルーナとミズキはテスタを追うべく施設内を進んでいた。


「分かるのか?」

「えぇ。魔力の波長は捕らえたわ。上手く隠してるみたいだけど、バレバレね」

「ほぅ……私にはさっぱりだ」


 ミズキはむむむっと眉間にしわを寄せて魔力を探ろうとするも、すぐに息をついて肩を竦めた。


「ミズキはまだ魔力感知に慣れてないものね。それでなくてもあいつ、魔力を隠してるみたいだし」

「先程の透明になってたやつか。あれは注意しないとだな」

「まぁ、もう私には効かないけどね」


 恐らくあの光学迷彩とやらは姿だけでなく魔力すらも隠してしまう代物なのだろう。魔力でも探知できないとなると不意打ちされるリスクが高まり危険なのは確かだ。


 だがルーナはテスタの魔力反応を捉えていた。正確にはテスタ自体の魔力反応ではなく、その残り香とも言うべき魔力の残滓をだ。

 テスタ自身の魔力は探知できずとも、テスタが残した魔力の残滓であれば正確に捉えることができる。


 それは夢喰い族(ドリームイーター)としての特性。他人の魔力に対して干渉できるからこそ、その人個人の魔力の色を見分け追跡することができる。


「なら奇襲される心配はなさそうだな」

「えぇ、テスタはどんどんと地下へ移動してるわ。私達も同じルートを辿りましょう」


 そう言ってテスタを追うルーナだが、一瞬別のものに気を取られたかのように背後を見た。

 それは今通ってきた道。コヨリとイヴが戦っている大広間の方向だ。


「心配なんだな、コヨリ様のこと」


 ミズキはそんなルーナの考えていることなんてお見通しとでも言うように、優しく微笑んだ。


「わ、私如きがコヨリ様の身を案じるなんて不敬だわ。そんな資格、私にはないから……」


 ルーナは数刻前の失態を思い返していた。主の前であんなみっともなくわんわん泣いて、甘えて、あれでは配下失格だ。

 コヨリの一番の配下として、もっと毅然とした態度を取らなければならない。

 主の勝利を確信し、信頼し、与えられた命令を実行する。


 それが『出来る配下』というものだ。

 ルーナは心の中でそう自分に言い聞かせた。


「そんなことはないだろ。主の身を案じるのも、配下の重要な務めだ」

「で、でもそれじゃあ……コヨリ様の勝利を疑うことに……」

「いいや、違うさ」


 ぴしゃりと言い放つミズキに、ルーナは怪訝そうに顔を伺う。


「コヨリ様の勝利を信じているが、何か怪我をしたりしないか心配……これは両立する感情だ」

「それは……そうだけど……でも『出来る配下』が、コヨリ様が負けた時のことを考えるなんてそんな――」

「『出来る配下』なら、万が一コヨリ様が負けた場合にサポートできるように備えておくものじゃないのか?」

「――ッ!!」


 それは、確かにそうだ。

 優秀な配下とはどんな状況下でも柔軟に対応できる即応力が求められる。


 なぜ気付かなかったのだろう。


「それに、ただ与えられた命令だけを愚直にこなすのは……人形と同じだ。どっかの誰かさんとな」

「…………」


 イヴ。作られた存在。

 命令だけを忠実に守り、命令であれば相手を殺すことも躊躇わない人形兵器。


 ふとルーナは思った。イヴに意志はあるのだろうか。

 短い間だったけど、学院で過ごした日々――あの時のイヴも命令されたから自分達に付き合っていただけなのだろうか。


 みんなでお昼を食べた時、コヨリの尻尾に抱きつくイヴは幸せそうだった。少なくとも、ルーナからはそう見えたのだ。


「……そうね、私が間違ってたわ」


 配下とは人形にあらず。主のことを考え、主のために行動できる者。

 イヴは言っていた。マスターの命令は絶対、と。


 あの目には、主に対する信頼も尊敬も愛情も、何もなかった。


(かわいそうな子……)


 もしイヴに意志があるなら、どれだけ辛いことだろうか。好きでもない主に無理矢理に従わされているというのは。


 コヨリは、イヴを助けようとしている。だからコヨリの願いを叶えるために行動してきた。


 だが今は違う。


 今は、ルーナ自身もイヴを助けたいと強く思っていた。


「考えはまとまったみたいだな」

「えぇ、お陰様でね」


 普段はただの飲んだくれなのに、ここぞという時は頼りになるのがミズキだ。

 そういう所は、素直にかっこいいなぁと思う。


「まぁ、コヨリ様のことは存分に心配したらいいさ。なんならまた泣きついてもいいんだぞ?」


 にやにやと笑うミズキに、ルーナの顔がかーっと赤くなった。


「ちょ、ちょっと! せっかくミズキのこと見直してたのに台無しじゃない!」

「なんだ、何を考えてたんだ? ちょっとお姉さんに教えてみな。ほれほれ」

「あーもうひっつかないで! やっぱりただの飲んだくれね!」

「はははは! 飲んだくれで結構!」


 ミズキはそう言うとあっさりとルーナから離れて声を上げて笑った。

 かと思えば、昼行燈ひるあんどんな様子はぴたりと鳴りを潜め――


「さて、おふざけもこれくらいにして。そろそろ行こうか。私達は人形ではないが……コヨリ様の命令はきちんと果たさなければならない」

「……そうね」


 そのギャップに少し驚きながらも、ルーナは頷いた。

 ちらりと後ろを振り返る。


「コヨリ様……無事でいてください……」


 主の無事と勝利を願って、再び駆け出したのだった。

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