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第2話 これが不老長寿の法?なわけない!

 入学式が行われる数日前。


「ルーナ……これはなんじゃ?」


 宿屋のベッドに腰掛けているコヨリは、床に正座しているルーナを見下ろす。


「ユニコーンの血でございます」


 ルーナの手にあるのは小瓶に入った赤い液体。ユニコーンの血は不老長寿、ひいては不老不死になれるとも噂される伝説の品だ。もし本物なのであれば、大いに期待できる。


 コヨリは不老長寿になりたいのだ。のじゃロリのままでいるために。

 コヨリの前世は日本人の男で、彼はのじゃロリが大好きだった。そして気付けばゲーム『スペルギア』に登場するのじゃロリ狐っ娘であるコヨリに転生していた。


 コヨリというキャラは彼の最推しだ。だが一つだけ解釈違いな点がある。

 それはこのままでは妖艶な美女に成長してしまうということ。


 のじゃはロリこそ至高。のじゃ少女でものじゃお姉さんでもダメなのだ。


 だからこれが本当にユニコーンの血であるならば、不老長寿になれるのなら、コヨリは歓喜の声を上げているだろう。


「…………本当に?」


 だがそうはならなかった。


(最初はエルフの処女の生き血、2回目はドラゴンの心臓。ルーナの持ってくる品は正直眉唾じゃ)


 正直に言おう。コヨリはルーナを、こと不老長寿の法の探索という点においては全く信頼していなかった。

 ルーナは少々思い込みが激しい部分がある。そうと信じたらあんまり疑ったりしないのだ。だからこれが本物のユニコーンの血であるとは、コヨリは欠片も思ってなかった。


「王都のアンダーグラウンドにて手に入れた品です。金額から見ても本物かと」


 ぴくぴく。

 コヨリのふさふさな狐耳が僅かに動いた。


「……とりあえず見せてみい」


 色々と言いたいことはあったが、一先ず我慢して小瓶を受け取る。

 軽く振ると、ちゃぷちゃぷさらさら、と中の液体が波打った。


 ユニコーンの血など見たことないが、血にしては随分とさらさらだなぁ、玉ねぎたくさん食べたのかなぁとコヨリは思った。その時点でもう期待ゼロだった。


 蓋を開けて、コヨリは顔を近付ける。

 すんすんと鼻を鳴らすと、めちゃくちゃシンナー臭かった。この世界にそんなものがあるのかは知らないがそれに近い匂いがした。


「……ルーナ。これを幾らで買ったか聞いてもよいか?」


 ルーナは澄ました顔で、


「金貨3枚です」


 そんなふざけたことを抜かした。


「この阿呆! どっからどう見ても塗料を混ぜただけのただの水じゃ! それに金貨3枚って……もう本当にお主は……もう!」


 あまりにあんまりなので、コヨリは口調が年相応のものに戻ってしまう。呆れて物も言えないとはこういうことか。


「に、偽物!? そんな……確かにユニコーンの血だと……」

「はぁ……。ルーナ、少しは他人を疑うのじゃ。お主はただカモられただけじゃ」


(きっと疑いもせず信じたんじゃろうな……純粋すぎるってぇ……)


 純粋というより、一度そうだと思ったら修正が効かないというか……コヨリのことになると冷静さを失うのがルーナの悪い癖だ。


「ふふふ、ルーナはまだまだだな。そんな安い手に引っかかるなんて」


 がっくりと項垂れるルーナに、壁際であぐらをかいて酒を嗜んでいたミズキが得意げな笑みを浮かべた。


「むっ、なによ。そういうミズキは不老長寿の品を見つけられたわけ?」

「あぁ、当然だ。抜かりはない。」


 ミズキはルーナの隣に並ぶと同じように正座をして、懐から紙に包まれた長方形の物体を取り出した。


「これは……」


 なんか見たことある。あれだ、お肉を買った時に包んでくれる竹皮で作った紙。確かミートペーパーとか言ったか。


 つまりこれの中身は、コヨリの予想が正しければ肉ということになる。

 以前食べたドラゴンの心臓は不老長寿にはなれなかったが、大変に美味だった。ミズキはまた、似たような品を持ってきたのだろうか。


(こやつの場合、単に酒のアテになりそうなものを選んだだけの可能性もあるがのう)


 というかその可能性しかなさそうだ。この酒のことをお酒様と崇め奉る酒カスのミズキであれば、それが自然な流れ。


「ルーナ。残念だが、コヨリ様の一番の配下の座は私がもらうぞ?」

「なっ!?」


 自信たっぷりに言い放つミズキに、悔し気に唇を噛むルーナ。

 そしてそんな二人を全く期待せずに眺めるコヨリ。


「さぁ、コヨリ様。ご賞味ください。これが不老長寿になれると噂の幻の食材――人魚の肉です!」


 包み紙を剥がし、そこから姿を現したのは――



「…………ベーコン?」


 どっからどう見てもただのベーコンだった。

 カリカリに焼かれていてとても美味しそうだ。


「ベーコンじゃないですよ! これは正真正銘! 人魚の肉です!」


 どや顔で胸を張るミズキに、コヨリの堪忍袋の緒がぷちんと切れた。


「これの! どこが! 人魚の肉なんじゃ! どっからどう見てもただのベーコンじゃろ!」

「いやいや、本当に人魚の肉なんですって。酒場の連中がそう言ってましたから。一気飲み勝負で貰ったんですよ」

「お主酔っとるな? 酔っとるよな? 絶対酔っとるよな?」


 コヨリは尻尾で軽くぺしぺしとミズキの頬を叩いた。


「わっぷ。今は酔ってないですよ。これを貰った時の記憶は…………ちょっとだけ曖昧ですが」

「やっぱり酔っているではないかぁぁ!」


 ぺしぺしぺしぺし。コヨリのソフトタッチな尻尾ビンタが炸裂する。


「わっ、コヨリ様。ちょ、やめてください……口に毛が……」

「いいなぁ……」


 ミズキはそう言いながらも全然嫌そうではなく、ルーナは羨ましそうに口元に手を当てていた。


(くっ……やはりルーナもミズキも全くあてにならん!)


 テオがネメシスに操られていた時、あの戦いではあんなに頼もしかったのに戦闘以外ではポンコツ度がマシマシだ。


「そうじゃ、ところでテオはどうした? あやつも今日来る予定じゃろ?」


(二人が使えない以上、ここはテオにかけるしかない)


 テオもまた、コヨリの仲間として不老長寿に関する情報を探ってくれている。テオは二人に比べれば比較的まともなので期待は大きい。


「遅刻、ですね。全く、コヨリ様の配下としての自覚が足りてないです。後でおしおきですね」

「いやルーナ。テオは仲間じゃ。配下ではない」


 コヨリは間髪入れずにルーナの発言を否定した。ここは譲れない所なのだ。これ以上、自分のことを崇め奉る配下が増えてはたまらない。


 だがルーナはそんなコヨリの心中など知りもしないので、


「コヨリ様……どうしてそこまでテオを仲間として対等に扱いたがるのですか? ……ま、まさかテオのことが……!?」


 わなわなと肩を震わせ、全く見当違いな勘違いをしていた。


「違う! 断じて違うぞ! それは天地がひっくり返ってもありえん! そんな、そんなの想像するだけで……おえっ」


 コヨリは思わず込み上げてきた吐き気を抑えるために口を手で抑える。


 テオはいずれこのゲームのヒロイン達全員とハーレムエンドを迎える存在。このゲームの絶対的な主人公。当然そのヒロインにはコヨリも含まれるが――


(テオと恋仲になるなんて絶対! ぜぇぇったいありえない!)


 前世が男なコヨリはそれだけは無理だった。本当に無理だった。

 このゲームのラスボスであるネメシス=ブルームが復活した以上、テオを仲間にすることには意味があるが……だからといってヒロインとしてのフラグを立てる気なんて更々ない。


 そうなるくらいなら死んだ方がマシだ。コヨリは本気でそう思っていた。


「むっ……どうやらテオが来たみたいですよ」


 その時、ミズキがそのエルフ特有の長い耳をぴくぴくと震わせた。

 耳を澄ますと、階下から何やら言い争っている声が聞こえてきた。


 一人はテオ。もう一人は、この宿屋の店主だ。


「何やら揉めておるようじゃの……どれ、ちょっと迎えに行ってやるか」


 コヨリ達が様子を見に行くと、


「だから、僕はただ部屋に行きたいだけで、コヨリちゃん達と一緒の部屋に泊まるわけではなくてですね……」


 そこには何かを弁明しているテオ。とても困惑した様子だ。

 反対に少々強面の店主はその凶悪な面を更に顰めて、


「……一泊、金貨1万枚だ」


 めちゃくちゃ法外な金額を吹っかけていた。


「百合に挟まろうとする男は、死罪だ」

「なんの話ですか!? 僕全然挟まるつもりなんてないですよ!?」

「ぶわーはっはっは! 何をしてるんじゃお主! ぶははははは!」


 テオの絶叫とコヨリの笑い声が辺りに響いたのだった。

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