【Turn 悪鬼】38.
一人の男は部屋にずっと籠っていた。
――横山孝。名前から取って「山太」として活動しているただの底辺Vtuberだ。
その正体は実年齢46歳の自宅警備員である。
それと同時に、金に目がくらんで応募したらデスゲームだったという、なんとも皮肉な男であった。
だけど、彼は気づいてしまったのだ。
「引きこもってれば、見つからないから殺されないんじゃないかい?」
……ということに。
実際そんなことはないのだが、運よく生き残った山太はデスゲーム中ながら引きこもり生活を続けていた。
時間軸的に、今はまだ二日目。いいや、三日目に突入するところだろうか?
今、参加者はどれくらい残っているのだろう? と山太は深夜、部屋の冷蔵庫にあったビールを飲みながら考えている。
「もしかしてだけど。」
これを言うと、とあるミュージックが山太の脳内では流れてしまう。しかし、これを直すことは彼自身も手遅れであるとわかっているので無視をする。
「……殺さないと死ぬやつ?」
山太は一気に酔いがさめた。
これはマズい。死ぬ。ポイントが多いのは誰だ?
山太の顔は徐々に青くなる。
……絶対に漁夫の利で生き残れると思って何にも聞いてなかった。
この二日間で山太が行ったことといえば、酒を飲んで、ちょっと配信をして、また飲みながらぐぅたらしただけ。
放送は流れていた気がする。けど何を言っていたのか、何にもわかんない。
「だれでもいい、早く殺さないと……!」
山太は部屋の中を走り、ドアの前に行く。
脚が震えていた。
「ハハッ。怖いのか。怖いよな、そうだよな。」
山太は自分の脚をさする。
「でも、殺さなけりゃ死ぬのはオレだ。そう考えたらどうだい?」
彼は、心の中で自分自身に問う。
「……そっか。そうなのか。人を殺すのは怖くないのか。怖いのは、外に出てオレが死ぬことなんだな。」
自分の中での納得できる答えが出たところで、彼は自分に言い聞かせる。
「やらなかったら確実に死ぬ。やればワンチャン生き残るかも。そう考えてみたらどうだい? オレ。」
一応、山太はほんの少しだけ合理的に考えることができる男であった。
「そうだよな、必ず死ぬのはごめんだよな。」
彼は意を決して初めて部屋のドアを開く。
「……あら、可愛いお嬢さん。」




