【Turn 悪鬼】34.
「……冥王っ。」
むぅなは、正直言って膝から崩れ落ちそうになった。
心のどこかで彼女たちを執着していたのかもしれない。
なぜなら、むぅなたちはさっきまで殺し合いを行っていた敵同士だったのだから。
それが、彼の登場によってあっけなく終わってしまった。
このゲームに綺麗も不格好も何もないはずなのに、納得がいかないのだ。
殺されたくはない。でも、自分ですべて達成したかった。彼女はそう考えている。
それに、今は横でぐったりとしている彼女のためにも、達成しなければいけない。
だから、彼女は決心した。
「私は――。」
今から話すのは、戦宮司堕蜘斗の過去である。
彼の本名は「東牛 勝機」と言う。
彼は母親と二人の妹と暮らしている。その家は結構貧しく、食生活にも困るほどだ。
小学五年生の勝機はいつも考えていた。
「ぼくが何かお母さんのために小銭稼ぎをできないか。」と。
そこで始めたのが、クラスの友達から聞いた「ぶいちゅーばー」をやってみることだった。
二人の妹にも協力してもらうように頼んだ。三人で「ぶいちゅーばー」を始めた。
でもとてつもなく貧しかったから、お金をかけることができない。
世間一般の言う「ぶいちゅーばー」には遠くかけ離れていた。
一枚絵を張り付けて、三人で頑張ってためて買った古いパソコンとゲーム機を手に、動画投稿を続けていた。登録者はずっと一桁で、小遣い稼ぎには一切なっていなかった。
あれから三年。中学生になった勝機とその妹たちは、今でもお金と再生数に悩んでいる。
そのときに見たのが、あるサイトだ。
『Vtuberとしての人生を始めてみたけど上手くいっていない諸君、いい儲け話があるのだがいかがかね?』
彼らは大きく目を開いた。自分たちのことを言われているような気がしたからだ。
『賞金は驚異の3000万円!! 配信するのはもちろんオーケー! 望みが薄いと諦めている君たちに、LAST CHANCEを与えよう!』
彼らはついに、希望の光が差し込んで来た気がした。
これで、母さんに恩返しができる。彼らは期待で胸を膨らませ、すぐに三人分応募した。
そして今だ。彼はとてつもない才能を見つけた。
だから、その才能で守らなければいけないのだ。
全員倒して、妹たちを救い出す。
だから、彼の答えは決まっていた。
「俺は――。」
「「―――お前を殺す。」」




