婚約者に明日明日と結婚を伸ばされ続けた私の嘆き
「愛するフルートよ、すまない今日はどうしても外せない急な用事が入ってしまった。明日こそだ。明日こそ、結婚式をあげて幸せな家庭を築こうではないか。」
結婚式場の前で1人の男が男が叫んでいます。綺麗な姿勢で立っている彼の名はアンディ。貴族の一人息子で、髪は赤色。青色の透き通った目で、唇は赤色。おまけに色白な肌。天性のものとしか思えない顔立ちです。
こんな美しい目で見つめられたら深いことなんて聞けません。私は夢中で返事をします。
「私はアンディ様をいつまででも待ち続けますわ。アンディ様といられるだけで幸せですの。結婚なんてご都合がよろしくなったらで構いませんわ。またお会いしとうございます。」
「かたじけない。ありがとう、愛しのフルートよ。お前がいるから俺は生きていけるんだ。明日。朝8時にまたこの場所であおう!その時はお前は今のようにウェディングドレス、私はタキシードだ。約束だぞ。では俺は急ぐから、また明日!ここで!」
アンディ様のタキシード。想像しただけで嬉しくなってきます。こんな顔も良くないしお金も持っていない貴族でもない普通の家に生まれた私を愛してくれたアンディ様。彼の方との結婚生活の約束があるからこそ。私は生きられます。あぁ!アンディ様!
私がそんなことを考えている間にアンディ様の背中は見えなくなっていきます。明日の朝8時にここ。本当に楽しみです。アンディ様との結婚式。取り返しのつかないことにならないためにも、事故に遭わないようにしないとな。
「あ…」
思い出した。昨日大丈夫だったか聞こうとしたんだった。たしか昨日は親戚の事故で一刻を争うから出かけないといけないって言われたんだっけ。
でも、アンディ様のあの様子を見ると大丈夫だったんでしょう。気を治して家に向かって歩き始ます。昨日も今日もたまたま間が合わなかっただけで明日は流石に大丈夫!なぜだかそう思えるのです。
アンディ様とは私が勤めていた呉服屋で出会いました。
私がレジ打ちの仕事をしていたところにアンディ様は話しかけて来てくれまし。
「君に私は一目惚れしてしまった。」
言われた時はそれはびっくりしました。だけどあの時のアンディ様の必死な顔を見てクスッと笑ってしまったのを覚えています。私が笑うとアンディ様も笑いました。もはや私とアンディ様は一心同体なのです。
おっと家に着いたみたい。明日を心待ちにして今日を生き延びてみようと思います。
空は見渡す限りの青色。結婚式日和です。
私はウェディングドレスに着替えて約束の場所に出掛けていきます。結婚式場へ!家族は後から来る予定です。
道ゆく色々な人たちが私を見て振り返ります。白昼堂々2日連続でウェディングドレスですからね。無理もないでしょう。恥ずかしさは感じません。今私の頭にあるのはアンディ様のそのお顔だけです。
女の人が1人私を見て考え込んでいます。どうしたのでしょう。私の顔に何かついているのでしょうか。
気になったから手鏡で確認したけど何もついていません。よかったよかった。
そんなこんなで約束の場所につきました。アンディ様がいます。私は嬉しくて駆け寄ります。しかし、かけられた言葉は驚きのものでした。
「本当に申し訳ないフルートよ、親戚が死んでしまってその通夜に行かねばならないんだ。頼む、この愚かな私を許してくれ。明日、絶対に明日結婚式を挙げるから。」
今日も…か…心の中で私は深く落胆しました。
「そう言うことなら仕方ありません。ですが明日!絶対ですよ!覚えておいてくださいね!」
「許してくれるか可愛いフルートよ。本当にありがとう。このアンディこの恩は決して忘れぬ。」
そう言い残し、アンディ様は走ってお行きになられました。
あぁーショック〜。今日こそ結婚式を挙げられると思ったのに。両親はなんと言うでしょうか。でも仕方がありません。お通夜なのですから親戚として行かねばならないですよね。偶然に偶然が重なっただけです。
「ねぇ!そこのウェディングドレスのお姉さん!」
私を呼ぶ声が聞こえました。見ると、先ほど私を見て考え込んでいたお姉さんです。
「失礼を承知でいいますけどね、あいつ、誰に対してもああいうことを言うんですよ。お姉さんも騙されちゃダメ!あんなやつとは関わんない方がいいですよ!」
「アンディ様はそんな人じゃない!」
突然のアンディ様への批判にびっくり。私もうっかり大声が出てしまいました。
「そう思うのなら後をつけていったらどうですか?私もついていきますから。きっと違う女と会っていますよ。真実がわかりますよ。」
そう言われると気になって来た。アンディ様はそんな人じゃないとわかっているけど…でも…
ちょっと気になるかも…ちょっとだけ。ちょっとだけ跡をつけてってみよう。
私は首を縦に振りました。
「では行きましょう!走って!あいつはあっちに行きました。」
ウェディングドレスなので走りづらいですが力の限り走ります。5分ほど走るとアンディ様の背中が見えました。歩いています心臓がすごい勢いでバクバクしています。息もこんなに苦しくなるんですね。
「あいつ、いましたよ。」
女の人が小声で言います。苦しくないのでしょうか。
「少し歩きましょう」
優しい言葉をかけてくれました。相槌を返して歩き始めます。
アンディ様の向かう方向には教会が見えます。よかった。アンディ様はそんな人じゃない。
こそこそ跡をつけていきます。アンディ様が右に行ったら右へ。左に行ったら左へ。ちょっと楽しいかも。
そのうち教会に着きました。あれ?アンディ様は教会の横を通り抜けていきます。そんな…でも他のところでお通夜があるかもしれないからね。まだアンディ様は嘘つきだって決まったわけじゃないのです。
そのうち走り出しました。向かう先には、え…
ウェディングドレスを着た、お、女がいます。
「愛するパールよ。すまない、遅れてしまった。今日は親戚の通夜があるため、結婚式は明日にしよう。」
「わかりました…」
その女は力無い言葉を発します。
私は地面に座り込んでしまいました。こんなのあんまりではないでしょうか。あの、アンディ様が…私の中のヒーローのアンディ様が…こんな浮気者だなんて…
私について来てくれた女の人は私にマフラーをかけてくれました。
「実は私もあいつの被害者なんです。私は気づくのが遅かったから。だからあなたの幸せそうな顔を見てほっとけなくて。」
なぜか申し訳なさそうな顔をしています。その顔を見るとなぜだか目から水が流れて来ました。
なんで…
思えば私はアンディ様…いや、アンディを信じすぎていたかもしれません。口を開けばアンディアンディ。もはや中毒なのかもしれません。思えば出会いもおかしかった。常人はレジうちに話しかけませんものね。世間ではそれをナンパというのですもの。
さっきの女の人はアンディとさっきまで一緒にいた女の人の方へ走っていきました。
私は悲しみのどん底に立っています。アンディの、アンディのせいで…いや、私のせいかもしれない。昨日の地点で見抜くべきだったのです。彼の性格を。
いつの間にか私はそのままの姿勢で寝てしまいました。
「どうしたんだいレディ。そんな顔をして。美人が台無しだよ。」
そんな声で起こされました。
顔を上げると、え!王子様です!
「可愛いね。何かあったの?」
さっきのこともあって私は用心深くなっていますがこの人は、この人は絶対に大丈夫です。アンディのような行いをするとスキャンダルとして流されてしまいますからね。
私はさっきまでのことを洗いざらい話しました。
「そうか、そんなひどい男がこの国にいるのか。僕だったら君を捨てたりしないのに。」
どういうことでしょう。
「あったばかりで悪いが、僕と結構してくれ!君の全てに惚れたんだ!」
夢なのではないでしょうか。
「喜んで!」
翌日私は結婚式場にいかず、代わりに王宮に行きました。
王子様のお名前はオーネスといいます。オーネス様は優しいしかっこいいし。私は精一杯彼を支えるつもりです。
王様も明るく迎えてくださいました。美味しいものもたくさん食べられました。結婚式は明日ここで盛大に開くことになりました。私はウェディングドレス、オーネス様はタキシードです。
家族にも全てを伝えました。喜んだり怒ったり泣いたり、まるで漫才みたいでした。そうして独身最後の夜は過ぎていきました。
結婚式はそれはそれは愉快でした。大勢の人が歌い、踊り、たくさんの人々から温かい拍手をもらえました。嬉しい限りです。
あ、そうだ結婚式にはあのアンディも来たのですよ。みんながどんちゃん騒ぎしている時に大声で、
「ちょっと待った。」
会場は水を打ったように静まりました
「フルートよ、お前は私との婚約者ではなかったのか?この薄情者!」
「私はもうあなたのものではなくオーネス様のものです。そもそも先に裏切ったのはあなたの方ではないですか。お互い様ですよ。」
言い返してやりました。彼は顔を真っ赤にしています。
1人の女の人がワインの瓶を投げつけました。彼女は、そう、私を助けてくれたあの人です。私がオーネスに頼んで侍女にしてもらいました。
すると色々な女の人が彼に瓶を投げつけ始めました。後で聞いたところみんな彼の被害者だったそうです。しかし、貴族の息子であるため訴えても訴えても全く聞き入れられない。そんな現状だったそうなのです。
アンディは逃げていきました。その後、家族に捨てられて国を追われてどこか遠くの国で儲からない靴屋をやっていると風の噂で聞きました。
私は今オーネス様と戴冠式に出席しています。先代の王様と王妃様が歳でお辞めになられたので代わりに私たちが。
オーネス様も私、フローラも今ではとても幸せです。