表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PROTECT WORLD  作者: 猫目石
プロローグ
2/3

第二話


 ぞろぞろと退出していく人々をじっと見つめる。誰も彼も顔色が良いとは言えない。時折、悪態をついたり、悲嘆に暮れたり、呆然とする人もいるあたり、現実を受け入れられないのだろう。

 飛鳥は、そんな人たちを眺めている老夫婦に気がついた。年の功というのだろうか、二人は異様なほど落ち着いているように見える。先ほどの質問から察するに、飛鳥と同じように,知らないことばかりであるはずだが、二人に暗い影はない。ただ冷静に、状況を見極めているのだろう。

飛鳥は、眠っている壱を抱え直し、二人に近づいて声をかけた。


「あの、すみません」

「ん? おや、どうしたのかね」


 紳士的に答えてくれた老父にほっと安堵の息をこぼす。無意識に緊張していたのか、強張っていた自分の表情筋が、少しだけ緩んだ気がした。


「いえ……特に用があるわけではなくて……とても落ち着いてるな、と思いまして」


 飛鳥の言葉に、老夫婦は顔を見合わせ、笑った。


「いやいや。すっかり参ってしまってるよ」

「うふふ、落ち着いて見えるのは、きっと一人じゃなかったからじゃないかしら」

「お互いが居たからこそ、少しだけ余裕が持てたのだろう」


 そう言った二人は、飛鳥と壱に視線を向け、穏やかな表情をする。


「坊やこそ、とっても落ち着いているように見えるよ」

「そう、ですかね?」


 思いも寄らない言葉に、詰まりながら返した。

 老父は、飛鳥の腕の中でぐっすり眠る壱を見て、「撫でても大丈夫かい?」と聞いてきた。この二人なら大丈夫だろうと信じ、「すこしだけなら、大丈夫かと」と飛鳥が頷けば、彼は優しく撫でながら続ける。その手つきは、どこかぎこちないように思える。子供と接する機会がないのかもしれない。


「……先程まで騒いでいた彼らは、混乱する感情のままに行動していた。現状を理解しようとせずに、ね。気持ちはわからなくないさ。私も混乱したし、急な展開に置いてけぼりにされた」


老父は「情けないばかりだが」と苦笑しながら続ける。


「それでも、子どもがこの場にいる以上、少なからず大人として節度のある行動をするべきだと思うよ。その点、坊やは大人だ」

「そうねぇ。呆然としてた私達が言っても、説得力なんてないけれど……こんな小さな男の子を気にかけていたでしょう? それを見て、大人として恥ずかしくなっちゃたわ」


 老夫婦は、飛鳥とその腕の中で眠っている壱に優しい眼差しを向けた。まるで、孫を慈しんでいるかのような表情だ。


「お二人とも、名前はなんていうのかしら」


老婦人の問いかけに「自己紹介してませんでしたね」と苦笑し、壱の名前と自分の名前を答えた。


「この子は、はじめっていいます。漢数字……ええと、難しい方の壱と書いて、『はじめ』だそうです。ぼくは、飛ぶ鳥と書いて『あすか』といいます」


「二人共いい名前だね。私は草之助くさのすけ。しがない絵本作家さ。こちらは家内のーー」

みのりといいます。よろしくね、飛鳥くん。はじめくんも」


 そう言って、老父ーー草之助は飛鳥にくしゃりとした笑みを向け、老婦人ーー穂は壱の髪の毛をそっと梳いた。



 人が居なくなり、四人で扉の外へ出れば、白い壁と群青色の床の通路へ出た。幅は広く、高さも四、五メートルほどあり、広々としている。

 

「おや、どこに行けば良いのだろう」

「あの人達、どうやって向かったんだ……?」

「広い通路ねぇ」


 案内表記など目ぼしいものはなく、辺りを見回す。


「……ん?」


 飛鳥は、怪訝な表情で意識を聴覚に集中させた。

 それを疑問に感じた草之助が問いかける。


「どうしたんだい? 飛鳥くん」

「なにか、硬いものが床に擦れる音? みたいなものが近づいてきてます」

「音?」


 飛鳥は「引きずってる感じかな?」と聞いてきた草之助に「いや」と首を振る。カシュー、カシューと擦れた小さな音が、徐々に飛鳥たちの元へ迫っているのだ。

 なんだろう、この音。

 飛鳥はぐっと眉間にシワを寄せ、音の正体を探る。おそろく、金属のような重みのあるものではない。プラスチックやそれに似た物だろうか。


「あら、私にも聞こえてきたわ。なんだか、軽い感じの音ね」

「それに、引きずるというより、動いてる感じですよね」


 そう言って、音がする方向をじっと見つめる。


「……うさぎ?」


 飛鳥はポツリと呟いた。

 姿を表したのは、ウサギをモチーフにしたロボットのようなものだった。カシュ、カシュと軽やかに跳ねながらやって来る。黒褐色のボディをしており、アンバーの瞳が美しい。動物そのものを模しているのではなく、キャラクターじみた外見は子どもが好みそうだ。


[生体認証完了。登録情報ト一致を確認。プライベートゾーンマデ御案内イタシマス]


 しかし、親しみを湧きそうな外見とは裏腹に、その声は無機質なものだった。外見だけに力を入れたようにも見える。草之助と穂は、精巧なロボットに目を丸くしており、そのギャップに関心を寄せていないらしい。

 どうやら、このロボットが案内役のようだ。

 他の人たちも、このロボットが迎えに来たのだろうか。

 [出発イタシマス]と促され、飛鳥たちは顔を見合わせる。カシュ、カシュと跳ねて先を進むロボットに、大人しく着いていくことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ