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PROTECT WORLD  作者: 猫目石
プロローグ
1/3

第一話

 欲の数だけ進化がある。

 世界の数だけもしもがある。

 もしもの数だけ絶望がある。

 では、人の数だけ何がある?



 ーー西暦二〇四九年、並行世界、異世界を含めた全世界線の消滅が確定。

 現在確認できる消滅寸前世界は無数。

 その原因は、各世界線でみられる異変ーー龍脈の暴走にあるとみなされた。

 この事実を知った各国上層部は、事態を抑制させるため、極秘の世界存続プジェクトを遂行する機関ーーを発足。

 プロジェクトへ招かれた者を、他世界への影響が大きく、速やかな対処が必要とされる四つの世界へ送り込み、龍脈の暴走を鎮めることとなった。

 招かれた者たちをリポーターとし、現地にて調査を開始。各世界へ点在する消滅の芽ーー龍脈の暴走を止め、世界の消滅を阻止せよ。

 尚、これら全ての条件を満たし、あげた功績により、リポーターが指揮官に昇進、また、各世界線にて影響力をもった魂を拠点に迎え入れることが可能となる。

 本作戦から降りることは許されない、生の保証はできない。

 世界を救うか、世界を殺すか、その二択しかない。

 リポーターは直ちに最初の世界へ赴き、経験を積むことを強く推奨するーー……。



 プツン……目の前に映し出されていたホログラム映像が掻き消える。途端に、真っ暗な空間に青い光が灯った。壁に等間隔で設置されたライトである。


「はい、御視聴ありがとうございましたー」


 冷たい口調の男の声が室内に響いた。

 声の主は、中央にそびえる塔ーー円柱型のステージに立ち、()()()()()()()()を見下ろしていた。サイバーパンクを連想させるオーバーサイズのパーカーを着ており、くるくると癖があり、()()()()()()()()()()が、彼を人でない何かに思わせるだろう。ぐっと寄せられた眉間は、その切れ長の目を際立たせる。無機質な冷たさを纏う男だ。

 その異様さに、誰もが言葉を失った。。

 集められた一人の少年ーー飛鳥は、男の纏う異質な空気に冷や汗をかく。水で構成された髪の毛なんて、明らかに人ではないだろう。映像を投影しているわけでもなく、本物の水なのだと、ゆらゆらとした光の反射や、微かな水音で判断できる。


「どうなってるの、あれ……」

「マジモンの水?」


 ポツリ、ポツリ、と言葉が漏れ始める。


「私、職場に居たはずなのに……」

「カバンがない、携帯は!?」

「つーか、さっきのホログラム、リアルすぎだろ。いつの間に技術は進歩したんだ?」


 徐々に、ざわめきは喧騒となっていく。

 飛鳥は、そろりと周囲を見回した。

 自分を含め、集められた人たちは皆寝間着や仕事着など、バラバラな格好をしている。きっと、同じように突然連れてこられたのだろう。

 飛鳥は、ごく一般的な男子高校生である。春に入学したばかりの、初々しいイチ年生でもあった。高校にも慣れはじめ、部活動に取り組み、へとへとの体で帰宅したーーはずだったのだが……。

 自宅の扉を開いた途端、視界は暗転し、気づけば見知らぬ部屋でホログラム映像を視聴していたのである。

 まったく意味のわからない状況だった。白昼夢といえば納得できるほど、突拍子もない展開である。映像も、男の言葉も上滑りして、うまく咀嚼できない。

 そして、それは集められた他の人たちも同様だった。


「どうなってんの……」

「なにこれ、ドッキリ?」

「というか、ここどこだ?」


 ざわざわと声が飛び交っていく。誰も彼もが、状況を理解できないでいた。

 男は、「あのさー……」とうんざりした声をあげた。飛鳥たちは、ステージ上の男へ視線を向ける。


「……キミたち、さっき説明みたよね? 飲み込み遅くない?」


 ジロリ、と見下すターコイズ色の目は、どこまでも冷え切っている。


「改めて説明するなんて手間だから、簡潔に言うけどーーつまり、キミたちは死ぬこと前提で全世界を救う作戦に投入された存在ってワケ」


 そう言うと、男の真上に、惑星が次々と浮き出した。ホログラムである。地球と似たものから、全く異なるものまで、多くの惑星があった。

 途端、沈黙する。

 そして、一人が叫んだ。


「たったあれだけ動画で理解できるか! 全世界線の消滅? 龍脈の暴走? 生の保証はない? 意味わかんねえよ!」


 その言葉を皮切りに、続々と声をあげる。


「世界を救うとか……あんた、頭大丈夫? 今どき夢見がちな子どもですら信じないわよ」

「だいたい、これは立派な犯罪だろう! つーかそもそも、ここはどこで、お前は誰だ? どうやって俺をここに連れてきた?」

「こんな茶番に付き合ってられるか! 家に帰してくれ!」


 ぎゃあぎゃあ、わーわーと多種多様な声が飛び交っていく。

 飛鳥はたまらず、耳を塞ぎながらそっと後方に移動した。

 しばらくして、再び「あのさ!」と男が声を上げる。


「キミたちの言う『信じられないこと』が起こってるから、こうして集められた。薄々察してるんじゃないの?」


 呆れた表情で、男はそう言った。



 メカニカルな空間に、男女十数人の怒号が飛び交っていく様子を、飛鳥あすかはぼんやりと眺めていた。

 ひどく、現実味のない内容だ。あくびが出そうになるほど、実感のわかない話。ここに連れてこられる直前まで触っていたゲーム機の感触が、じんわりと残っている。現実味のない、現実だった。

 男の言葉に嘘がない、というのは覆しようのない事実であると、飛鳥は確信していた。

 五感だけは正直である。夢のような出来事でも、夢じゃない。飛鳥がもつ、ときには苦痛を感じるほど鋭敏な五感が、これは現実なのだ、本当の話なのだと突きつけてくるのだ。しかし、現実であると確信したところで、突然の出来事は人を混乱させる。現に、飛鳥は感情も思考も置き去りにされていた。

 故に、飛鳥はぼんやりと眺めるに留めている。

 集められた十数人の男女は男の立つステージの周りに詰め寄っている。ぽつんと取り残されているのは飛鳥と幼い子ども、老夫婦の四人であった。

 飛鳥は、ぎょっとして取り残された子どもを見る。

 ……こんな小さい子も集められたのか。

 木を隠すなら森の中とはよく言ったもので、大人の体に隠れていたためか、今まで気づきもしなかった。こうして取り残された今、子どもの存在がひどく目立つ。

 あの喧騒の中に親がいるのだろうか。だとすれば、危機感のない親だことで。

 子どもは途方に暮れた表情で、じっと前方の喧騒を見つめている。流行りのアニメキャラクターがプリントされた寝間着を着ており、四、五歳ほどの男の子だ。

 

「なあ、君。お父さんとお母さんはあの中にいるの?」

「う?」


 男の子は、そっと近寄り、しゃがみ込んで声をかけた飛鳥を見上げ、首をかしげる。


「おお……思った以上に幼いな……」


 飛鳥は見た目より幼い様子を見せる男の子に、思わず呟いた。


「こんちゃ!」

「こんちゃ……あぁ、なるほど。こんにちは、挨拶できてえらいな」

「ん! はーくんえらい?」


 どうやら、男の子ははーくんというらしい。

 なんだか微笑ましくなって、そっと頭を撫でる。くふくふと笑いながら、その手にじゃれつく男の子は、とても可愛らしい。


「偉い偉い。はーくんっていうのか」

「はーくんは、イチってかく」

「イチ?」


 男の子ーーはーくんは、抱えている猫のぬいぐるみの首元のリボンを触り、裏面を見せてきた。そこには、少し歪ではあるが、文字が刺繍されている。

 「壱」であった。どうやら、これが名前らしい。はーくん、と自分を呼んでいることから、おそらく「はじめ」だろう。

 なるほど、「壱」と書いて「はじめ」か。確かにイチ、だな。

 年に見合わぬ頭の良さに飛鳥は感心した。


「はじめ、っていうんだな。かっこいい名前だ」

「ありやと、ござーます」


 ぺこりと頭を下げた壱に、親の教育が行き届いているな、と感じる。再び頭を撫でれば、嬉しそうにふにゃふにゃと笑った。


「にーちゃ、おなまえなあに?」

「あ、名乗ってなかった……ぼくは、飛鳥っていうんだ」

「あしゅ……あーくん?」

「ふふ、あーくんでいいぞ」

「あい! あーくん!」


 幼いゆえに滑舌が甘く、さ行が言いづらいのだ。すぐに妥協案を出す壱に、飛鳥は笑った。幼さのせいか、警戒心がかなり薄く感じる。初対面の男子高校生に怯えもしない壱は、かなり人懐っこい子なのだろう。

 ずっと立っているのも辛かろうと、飛鳥は腕を広げて「だっこする?」と聞いた。


「だっこ?」

「そう、だっこ。ずっと立ってるの疲れるだろ?」


 こくん、と頷き、壱は飛鳥の腕の中に収まる。お尻と背中をしっかりと支えて立ち上がれば、「わぁ!」と歓喜の声をあげた。視界がぐんと高くなり、興奮したようだ。


「あーくん、おっきいねぇ!」

「はーくんも、将来大きくなるよ」

「おおきくなる!?」

「ぼくよりも、うんと大きくなるさ」


 きらきらと期待の眼差しを向ける壱に、飛鳥はそう言って微笑んだ。

 そのまま、きょろきょろと辺りを見回し、壱に問いかける。


「それで、はーくんのお父さんとお母さんはどこにいるか分かるか?」

「おと……?」


 言葉の意味がわからなかったのか、壱は疑問の声を漏らした。


「パパとママ、だよ。もしかして、ここに居ない?」

「はーくんは、はーくんだけよ」

「……まじ、か」


 つまり、ここに親は居ない、ということだろう。これは立派な誘拐である。この場にいる人たちも同様だが、幼い子どもが居ると、深刻さが増してくる。

 これからどういった生活を送るのか不透明な中、壱を見る大人が居ないというのは大きな不安である。それに、今頃は大騒ぎになっているだろう。高校生の自分はともかく、壱は可愛い盛りの子どもなのだ。

 騒動が落ち着いた頃にでも、あの男に話したほうが良いだろう。もしかしたら、壱を帰えしてくれるかもしれない。

 そこまで考えて、飛鳥は首を横に振る。

 よく考えてみれば、壱を親元から離し一人でこの場につれてきたのだ。帰すつもりがないのは明白であった。


「のう、質問よろしいか?」

 

 カツン、とした音が喧騒の中に不思議なほど響いた。

 声をあげたのは、取り残された老夫婦の片割れである、紳士然とした老父であった。ステッキを床につけており、先程の音の正体を悟る。

 老父の声に、場の空気は一気に緩んだ。

 それまでうんざりとした態度であった男は目を丸め、「どうぞ……?」と何処か困惑気味に発言を促す。

 詰め寄っていた人たちは、興が削がれたのか勢いを無くし、二人に注目した。

 飛鳥も、礼儀正しく発言の許可を願った老父に驚愕し、視線を向ける。腕の中の壱は、変わった空気にきょとんとしていた。


「うむ。私たち年寄りには難しい話で、あまり要領を得なかったのだが」


 そう前置きして、老父は続ける。


「……龍脈が暴走している世界に送り込む、と言っていただろう? どうやって送り込むのだろうかと、ふと疑問に思ったのだよ」

「お恥ずかしながら浅学の身でしてねぇ……そもそも、龍脈とはどういったものなのか、わからないことだらけでして……」


 頬に手を添えて、老婦人は恥ずかしそうに微笑んだ。「しかたないさ」と宥める老父の瞳は慈愛に満ちており、仲の良さが伺える。

 もっともな疑問だった。二人の言葉は、熱くなり、喚いていた人たちの頭に、冷水を浴びせた。

 「言われてみれば……」と二人の疑問に同意する人たち。そこに、先程までの騒々しさはない。飛鳥は感心するように二人を見つめた。

 問われた男は、目を見開いて呆然としていた。どうやら、想定外の質問だったらしい。完全に盲点だったと言わんばかりの表情だ。

 すぐに無機質な冷たい表情になったが、先程の反応は人間味があったな、と飛鳥は思う。


「ああ、そっか……前提知識がないってこと、すっかり忘れてたな……」


 そう言って、老父の疑問に答えるように口を開いた時……。


ビービーッ!

[ーー指定時刻ニナリマシタ。各ルームニ移動ヲ開始シテクダサイ。システム管理官ハ解散ノ後、観測室へ御越シクダサイ]

 突然の音とアナウンスに肩を揺らせば、壱がむずがった。そっと背中をさすり、男を見る。


「……はあ、喚かれたせいで無駄に時間使っちゃったな……」


 男はため息をこぼし、ガシガシと頭を掻いた。


「質問の答えは、個人部屋にある端末にウィキ……説明が乗ってるから。使い方は、部屋に簡易マニュアルが置いてある。それを見て」


 老父は「ふむ」と頷き、一礼する。質問にはこの場で答えられなかったが、調べられるなら安心だ。それに、個人部屋も与えられるという。もしかしたら、想像しているより待遇は良いのかも知れない。動画内では政府が発足した機関であると言うし。

 飛鳥は、個人部屋で疑問点の消化を最優先しようと決めた。

 

「じゃ、解散ということで。お疲れ様でしたー……」


 気だるそうにそう言った男は、青い光を帯びた陣を背中に展開させ、瞬きのうちにその場から消えたのであった。

 ファンタジックな出来事に、再び場は騒然となる。実際に目の前で科学で証明できないことが起これば、そうなるのも必然だろう。ホログラムか? と思ったものの、男が消える原理がわからない。すなわち、魔法や超能力と言ったなにか特殊なものである、と飛鳥は判断した。

 ざわざわとした空気が広がる。

 気持ちはわかるが、この騒ぎが落ち着くのはいつになるのだろうか。

 兎にも角にも、はやく落ち着く場所に移動したいものである。



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