後篇
2日後
上谷 奈央が死ぬまであと3時間
僕は彼女の弟を病院に来るようにして準備は完璧だ
「こんにちわ、上谷さん」
「あ、死神さん」
「話す内容はまとまりましたか?」
「全然です・・・話したいことがたくさんあって・・・」
「・・・すみません、僕にもう少し力があれば時間を伸ばせたのに・・・」
「私は最後に毅と話せるだけで嬉しいですよ」
彼女はまた乾いたような笑顔で僕の方に笑いかけてきた
「・・・弟さんが来るまであと2時間少しあります」
「はい。それまでには頑張って話す内容をまとめたいと思います」
僕はそれ以上、彼女の顔が見れなくなり背中を向けた
あれ以上、彼女のあの乾いた笑顔を見ていると泣きそうになってくる
自分が死んだと聞かされた時はあんな笑顔ができなかった。たぶんそれは自分が死んだことをまだ自覚できていなかったからだと思う
でも、彼女はもう自分が死ぬことを自覚して、残りの時間を精一杯生きようとしている
そんな彼女に僕がかける言葉なんて見つからなかった
「そろそろ準備に入ります」
もう少しで彼女の息子が来る時間だ
僕は一旦彼女の空想世界から抜けて現世に戻る
そして、彼女の額に手を乗せて力を使う
「上谷さん、大丈夫ですか?」
僕が彼女に問い掛けるとさっきまで目を開けなかった彼女は目を開けた
「…本当に神様だったんですね」
「まぁ…はい。それよりこれから約5分間しか意識を繋げないので」
「大丈夫です」
彼女は起き上がろうとしたとき、病室に息子が入ってきた
「お母さん」
「毅…」
お互いの顔を確認するようにじっくり見ている
そして、最初に泣き出したのは母である奈央だった
僕は静かに2人の最後の話を邪魔しないように外に出た
残り1分になった所で僕は再び病室の中に入る
すると、2人は何も話さずにじーっとくっついていた
「あ…そろそろ時間ですか?」
「あと1分ぐらいです。…いいんですか?話さないで」
「はい。こんなに気持ち良さそうに寝ている毅は起こしたくないから…」
「そうですか…」
毅は姉の腕の中で気持ち良さそうに寝ていて、奈央はその頭を撫でていた
本当に仲の良い親子だ
その仲の良い親子の仲をこれから引き剥がさないといけないと思うと辛い
でも、これが死神の仕事
「…時間です」
「…はい。ぁ、最後に…」
奈央は毅の耳元で囁いたあと、息子と会う前の体勢に戻る
僕はそれを確認し、彼女は額に手を乗せる
すると、彼女は目を瞑り、再びあの空想の世界へ入っていった
「ありがとうございました。死神さん」
「いえ…これぐらいしか僕はできないから…」
「それでも嬉しかった…」
彼女の死が近づいてくる
残り30分
20分
10分と…
「そろそろ時間ですか?」
「はい。…あの、本当に良かったんですか?最後の言葉が“頑張って生きなさい”で…」
「ええ。言えるのはそれだけ」
「・・・分かりました」
「・・・・・」
「・・・時間です」
僕は時計を見て時間を確認する
そして、彼女の頭に手を置いた
「あ、最後に・・・ありがとうございました。優しい死神さん」
最後の最後で彼女は僕に向かって乾いた笑顔ではなく、満足そうな笑顔で笑いかけながら静かに消えていった