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6 鉄柱の少年



 次の日になっても鉄柱の上に人はいた。気が散るので時々カーテンを閉めた。それでも時には目に入ってしまう。

 鉄柱の上に立っているのは、中学生くらいの少年だろうか。セピア色をしている少年は、いつもポケットに手を突っ込んでいる。


 また次の日もその少年は同じ場所にいた。でも今日は片膝を立てて座っている。

 数日間、座って足をぶらぶらさせてみたり、しゃがんでみたり、タイタニックポーズをしていたり、片足で立ってみては、落ちそうな素ぶりを見せたり。両手を空に広げて雨に打たれている姿を見ていて思わず『ショーシャンクの空』かよ、とツッコミを入れてしまった。

 少年の行動やポーズが段々と面白ろおかしくなってきた。


 そういえば最近夢に出てきた男の子にもなんだか雰囲気が似てるように思う。気のせいかもしれないが……。

 一度興味を惹かれてしまうと、見ることをやめられなくなってしまった。特に今のところ害も無さそうなので、少年を観察してみることにしよう。


 彼はトレンチコートを着ていて、穴の空いたボロボロのジーンズにスニーカーを履いている。

 髪の毛は金髪のような色(全体的にセピア色なので正確な色がわからない)

 幽霊ってセピア色にみえるんだっけ?と思い出そうとしたが、そんな経験はなかったはず。

 昔と違って、見え方が変わったのかもしれない。

 とにかく、この少年はなんでこんなところにいて、移動もしないのか。地縛霊でもなさそうだし、忌々しい雰囲気も感じない。


 そう思っていると、またビーンビーンと頭を劈くような音が響いてきた。頭がキーンとしてきた。


 ジジジ、ザザーと雑音が聞こえる。


 ザーーーーという砂嵐のような音。


 テレビのチャンネルを切り替えるような音、砂嵐、モニャモニャとする音の中から少しずつ音を拾えるようになってきた。


「ボ◯…@&..?#るbo.\こe◯……キ…/#"r」

 

「……僕の、こ…き、……き聞こえる?」


 ラジオの電波をカチっと合わせたような感覚が脳を走った。雑音が消えて、くぐもった音が急にクリアになる。


「聞こえてるよね?やっと繋がった!」


 冷や汗が出てきた。


 これって話しかけられてんのかなと、恐る恐る鉄柱を見ると、少年がこちらをじぃーっと見ていた。


 聞こえないふりをしなくては。

「いや、聞こえてるでしょ」

 いやいやいや、聞こえてない!全然!と思って思わず耳を塞いだ。

「僕の声、聞こえてるよね? ほら、話ができてる」


 んなわけない。話なんてしてない。無理!と思って少年の方を見ると、彼はガッツポーズをしていた。

 思ったことがそのまま会話になってしまうらしく、勝手にやり取りが始まってしまう。

 なんなのこの人!?やっぱり頭を打った後遺症なのかな?

「違うよ。頭を打ったのは、1つのきっかけに過ぎない」

「うわー待って。喋ってる」

「話せるようになれて、とても嬉しいよ」

「ぎゃー、ちょっと待って」

 会話が止まったので、チラリと外を見てみると、彼は手をヒラヒラ振っていた。

「おーい、こっちこっち」と言って両手を必死に振っている。


 言葉が直接脳内に響いてくるので、無視しようとしても勝手に返してしまう。

 どうやら観念するしかないみたいだ。


 ずっと話しかけていたのだと少年は話した。

「なかなか繋がらなくて、会話できないかもと思ってた」

「そうですか」

「僕のこと覚えている?」

「ん?」どこかで会ったことあるっけ?

「うん、あるよ」

「何処で?」

「遠い昔」

「遠い昔……」っていつだよ。

「小さい頃も会ってたし、そのずーと昔にも会っていたよ。僕らはいつも一緒だった。覚えてないかい?」

「??????」

「思い出して。僕らの音を。風に靡く音楽の旗がある。何重にも重なるあの鐘の音……」

「音?思い出すの?」

「そう、僕の音を思い出して」

「え?」

「約束したでしょう?」

「約束?」

「音の記憶を辿れば見つかる。必ず思い出せる。僕を見つけて」


 時々会話になっているのかわからないような、一方的な話が始まる事がある。

 会ったことは覚えてなかったし、音を思い出せってどうゆうこと?僕を見つけて??しつこいくらいに思い出してって言ってくる。思い出せないんだってばよ。


 バンっと目の前で手を叩かれた。大介と杏樹が目の前にいた。少年と話しているうちに、授業が終わっていたらしい。

「どーしたの?ぼっーとして」

「最近おかしくないか?」

「ほんとに大丈夫なの?」と覗き込む杏樹。目がクリクリして大きくて同性なのにドキッとしてしまう。

 熱はないかと杏樹がおでこに手を当てた。


「頭、うってからさ、やっぱおかしくね? あー、いや、頭打つ前から天然なとこはあったか」なんて大介が言う。

「ひっど、まあちょっと抜けてるけども」


 2人であれこれ言うもんだから私も話してみた。

「……うーん。あー、あの鉄柱の上に人が立ってるのが見える……」指を先して、なーんつって嘘嘘、冗談だよと話したが時すでに遅し。

 大介と杏樹は揃って病院に行ってこいと言った。なんならうちの家族に物申すとのことだった。


 病院で念のため精密検査を受けてみたが、異常は見られなかった。

 検査結果は問題なかったから、ひとまず安心なのだろうか。


 いやはや、鉄柱の男の子は問題だな。

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