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4 イジメ



 委員会が終わった後、体育館倉庫に連れて行かれた。

 理由は杉村君(女子に人気の男の子)と私が仲良くしている事が気に入らないという、一部の女子のせいだ。そんな女子達の話を間に受けた同じ学年の生徒達が、数人で私と杉村君を連れてきた。


 汗の染みた、黄ばんだマットの上に座らせられて、数人に囲まれた。いじめっ子の1人の男の子はカッターを持っている。

「服破けよ」と男の子が杉村君に言ってカッターを渡した。

「ドラマでやってたみたいに」とケラケラ笑う女の子達。


 今、小学5年生の間で流行りのドラマの真似をさせたいらしい。どうやら杉村君はドラマに出てくる教師に似ているらしく、私は襲われる女子高生に似ているんだとか。顔も似ているけど、髪型も似ているなんて言いがかりをつけてくる。胸まである髪を2つに縛ってるだけなんですけど。


 杉村君は俯いて、小刻みに震えていた。


「言いたいことがあるなら堂々と言えば?こんなとこに連れてきて、何人も人を呼ばないと1人では何もできないわけ?」

「はぁ?生意気なんだけど」


 派手目な服装をしたリーダー格の女の子が言う。腕を組んでふんぞり返っている女の子は、仲間を引き連れてきた超本人。私を目の敵にしている。

「ブスのくせに」とリーダーの女の子が言うと、他の子の悪口も始まった。自己中とか、カッコいい男の子にだけ媚び売ってるとか、ガキとか、馬鹿とか。

「馬鹿はどっちだよ、正論言われて返す言葉ないんじゃないの」

 ムカついたので、近くにあった雑巾をそいつめがけて投げつけてやった。汚い雑巾がリーダー格の女の顔にクリーンヒットした。

「なんとか言えよ!卑怯な奴!」

 ありったけの大声で叫ぶと、ワナワナと震えながらリーダー格の女の子が泣き出した。

「泣けばいいとでも思ってんのかよ!」

 周りは口々にかわいそうだの、酷いだのと言いたてる。

 この状況で可哀想なのってコイツなの?クラスメイト達の思考回路が全くわからない。


 今日は風が強く、これから嵐が来るそうで、長く伸びた木の枝がバシンバシンと体育館の窓ガラスを叩いている。


「やれって」とガタイのいいガキ大将風の男の子が杉村君をどついた。

「ほら、襲ってみろよ」

 私はその言葉の意味が分からなくて、でも何となくものすごく怖い事だと感じていた。お父さんみたいに殴るってことかな。もっと酷いことなのかな。

 流石に男2人女4人に囲まれてだと逃げようにも限界かも。


 なんとか逃げ方を捻り出さねばと考えていると、杉村君が突然叫び声を上げた。聞いたことのないような声で狂ったように叫び、カゴに入ったバスケットボールやバレーボールを投げつけ始めた。

 ガタイの良い男の子が投げ返して、あちこちにボールが飛び散った。私も何かされないように近くに来たボールを拾って構えた。


 バリバリ、ガシャーーーーン。


「キャーーーー‼︎」


 後ろから、けたたましい音が聞こえた。木が窓ガラスを割った音だった。騒ぎの中、女の子の悲鳴が響き渡り、どんどん人が集まってきた。

 先生も何人かやってきた。

 リーダー格の女は泣き崩れているし、他の女の子も泣き始めていた。

 先生はものすごく怒った顔をして私たちを怒鳴りつけた。先生は泣き崩れている女の子を真っ先に助けて、声をかけていた。ワンワンと泣く女の子……。


 たぶん、先生は勘違いしているんだろうなと思った。



 担任の先生に引き渡されて児童会室に行かされた。問題があるといつもこの教室を使う先生だった。何があったのか聞かれたが話したくなかった。


「大丈夫では、ないよな……。芹沢が悪くないことは、先生聞いてるよ」

「……」

「皆んなの話の整合性を取る為にね、事実の確認をしていてるんだ」


 私は何をどう話していいのかわからなかった。先生の言いたいことはよくわかるが、言葉が出てこない。


「杉村君は連れて行かれただけで悪くない」

「うん、そう聞いてる」

「私も言いがかりつけられて、連れて行かれただけ」

 ゴニョゴニョと歯切れの悪い私を見かねてなのか、場合によっては親に話さなければならないと先生は言った。


 それは非常に困る。

 お父さんの耳に入ったら怒られるだろう。お母さんはどんな顔をするだろう。



 どうやって家に帰ったか覚えてない。


 家に帰って手を洗う。自分の顔が鏡に映った。長い髪が似てるって事に腹が立ってきて、自分の部屋に戻ってから、髪の毛を千切るようにハサミで切った。髪の毛を切れはドラマの女の子に似ているなんて言われないだろう。


 お母さんに見つかって慌ててハサミを取り上げられた。


「どうしたの!?何?何があったの!?」とハサミを握りしめながら捲し立てた。

 私は髪の毛を短くしたかっただけだと言った。お母さんは暫く動揺していたが、それ以上は触れずにバラバラになった髪を整えてくれることになった。 ベリーショートになって、ちょっと不恰好だけど悪くない。


 夜、先生から電話があったと母が言った。私は何も話したくなかったので、はぐらかした。「お父さんにも言うよ」と、お決まりの言葉が添えられる。

 お父さんに話しても何の解決にもならない。私が正しくても正しくなくても、間違ってなくても、まず真っ先に何故こうなったのかと怒られる。

 また嫌な時間が来る。誰か助けて欲しい。




 教室に入る時はドキドキしたけど、クラスメイトのどよめきと注目が、むしろ気を引き締めてくれた。

 リーダー格の女もいじめっ子も、息を呑んでこちらを凝視している。

「これで文句ないだろが!」と教室に響き渡るくらいの声で言ってやった。

 教室が異様な空気に包まれて、ザワザワとしている中、席についた。大介が机に飛びかかってきた。


「その髪!どうしたの?」

「切った、スッキリしててカッコいいでしょ」

「僕より短いよ!坊主みたいだ」

「坊主じゃないよ。ベリーショートっていうんだよ」

 味方でいてくれるクラスメイトも駆け寄ってきてくれて、髪の毛について話をした。



 帰りの会のホームルームで1人の女の子が皆んなに話があると言った。

 私の行動に問題があるので、皆んなで話し合いましょうと言う。


「昨日のことも芹沢さんは謝ってません」

 昨日の事件がクラスでも噂になっているらしい。もちろん私が悪いって事になってるみたいだ。

先生が慌てて

「昨日のことは解決した事だから蒸し返さないように」と言ったが、正義感溢れる女の子は見当違いの熱弁を続けた。


「マイちゃんは泣いてしまったそうじゃないですか。他の子だって嫌な思いしてますー」

「何も知らない癖に口出してくんなよ、偽善者」

 イライラして自分の机を蹴っ飛ばした。机が倒れると、中に入っていた筆箱や教科書が散らばった。


「芹沢、やめなさい」先生が制する。

 事情を知っていてもダンマリなクラスメイト、言い出せない人、終わるのを気だるそうに待ってる人。

 隣の席の子が机を直して落ちた物を拾ってくれた。後でお礼言わなきゃ。


 今回はさくっと終わった偽善者大会、いやホームルームの後、私だけ児童会室に呼ばれた。

 先生はとても心配してくれていた。嬉しいけど親には言ってほしくなかった。昨日の夜は予想通りお父さんにこっぴどく怒られたのだ。



 おじいちゃんの家へ行く。桔梗が綺麗に膨らんできていて綺麗だった。どうしても割ってみたくて一度怒られたことがある。せっかく綺麗に花咲こうとしているのに、このコは咲けなくなってしまって可哀想じゃないかと。おじいちゃんが言うことはもっともで、本当に馬鹿なことをしたと思った。


 おじいちゃんは花の手入れをしていた。私を見るなり驚いて目を見開いていた。

「明里ちゃんかい」

 おじいちゃんは最近目が悪くなってきたと言うが、多分目が悪いからじゃなくて、私だと認識するのに時間がかかっただけだと思う。

 短くなった髪の毛に手を伸ばし、頭を撫でてくれた。


 私は黙って草むしりを始めた。

「スギナってほんとにしつこく生えてくるよね」

 除草剤でも撒きたいところだが、他の植物までダメにしてしまうので根気良く抜くしかないようだ。

 夢中で雑草を抜く。無心でやれることなので余計な事を考えずに済む。庭も綺麗になるから一石二鳥だ。

 おじいちゃんは鎌を持って雑草の処理をしている。

「最近、あの男の子と一緒にいないねぇ」

「男の子?」

「いつも一緒にいた男の子だよ。木登りしたり畑を走り回っていた、あの子だよ」

「誰だろ」

「そこのブランコで、よく2人で遊んでいたろう。子猫も連れて」と指差した。

「ん〜と……大介の事?」

「いや、いいんだ。きっとどこかへ行ってしまったのかな」


 おじいちゃんは不思議な事を言う。ボケてきたからだと両親は言ってたけど……。大丈夫かな。

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