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四度目の遭遇 前編

 あれから更に十四日が過ぎた。この森にまた車を走らせてきた。

 キノコ狩りの仕事を定期的に始めるようになってからもう一ヶ月が経とうとしている。思えば、この森に来る度に、毎回あの女騎士と出くわすというパターンがお決まりになってきたような気がする。ここでの大きな出来事と言えば、毎度ハンドルを握って長時間車を飛ばしてきたこと以外にあの女騎士との出会いしか浮かばないからだ。


 この事から、あの毎回現れる女騎士はキノコの狩り場である群生地近辺に住んでいるに違いない。どこかに住処があるのだろう。人型モンスターも一般的な他のモンスターと同じく、人気のない洞窟を巣にしている。そして彼女たちレディガードナーはグループで穴を掘ったり元々あった洞窟を占拠して自分達だけの巣を確保する。集団行動するモンスターだけに。あのアレットと名乗るレディガードナーもこの近くに隠れ住んでいるのだろう。


 さて、いつもの狩り場へ着いた。ここのキノコ──マナタケは毎回来る度に充分生えていて足りなくなったことはない。十四日も経っているためか、前回やその前に来た時よりも収穫量は多い。数が多ければ多いほど報酬も弾んでもらえる。こちらにとってはありがたい話だ。目の前にはカネが転がっているも同じ。その一つ一つが金貨となる。思わず顔がニヤける。


「むっ、お前! 来なくなったと思ったら、またしてもやってきたか!」

 キノコを採取していると木の影から美しい金の長髪を揺らしながら現れた、警戒の目を向けてくるいつもの女騎士。

「来ちゃ悪いのかよ」

「うむ、今日こそ仕留めてくれる!」

 剣と盾を構え、臨戦態勢に入ってきた。


 いつも通りキノコの入った布袋を置き、背中にある愛刀を抜こうとした────


 その時。頬から首へ一滴の雫が走る感触がした。するとそれを合図に大量の水の矢が天から降ってくる。それは森林と大地に恵みをもたらす一方で。互いに剣を構える二人には不利益をもたらす。


「うわああああああああああ!!!」

 両手で頭を覆うアレット。持っていた剣と盾はそのまま地面に落下し、雨に打たれまくる。


「くそっ、こんな時に本降りの雨かよ!!」

 空を見ると灰色に満ちていた。不覚だった。車を運転している時もいつ降ってもおかしくなかった雲行きの怪しい空に意識が行っていなかった。ま、大丈夫だろと無意識に楽観視して意識が回らなかったのかもしれない。全くこのようなことは想定していない。範囲外だ。

 今日の所は引き上げた方が良さそうだ。と、愛刀を収めて車を止めてきた方向に目を向けた──。


「うっ……あああああああああああ!!」

 雨に全身を打たれて動けないで悲鳴をあげている彼女。美しい金髪もびしょ濡れでまるで色が落ちているかのように光を失っている。長い髪の先端から雫が落ちている。いくらモンスターとはいえ、その姿は年頃の少女そのもの。どうも放っておけなかった。


 雨に打たれながらも彼女のそばに近づく。

「触るな! ニンゲンに助けてもらうつもりは!」

 近づいたこちらを手を振って遠ざける。

「うるさい! このままだと風邪引くだろ。いいからこっち来い!」


 とは言ったもののどこへ連れて行けばいいか。ひとまず防具に覆われた彼女の手を引き、雨水をいくらか凌げる森の中へと入ったが、車に乗せて帰るわけにもいかない。


「な、なあ」

 迷っているとアレットが口を開く。

「どうした?」

「この近くに私の隠れ家がある。そこへ連れて行ってはくれないか?」

「それはどこにある? 俺は知らんぞ」

「この近くに洞窟がある。私が示す方向に進んでくれ」

 ──地図もないのに大丈夫か?


 勘ぐりながらもその方向へ進むとモンスターゆえか、それともこの森で暮らしている野生の勘なのか、アレットが指差した方向へ行くとそこには確かに洞窟があった。

 キノコ狩りに何度か来てはいるが、この大森林の岩場にぽっかり穴の空いた洞窟があることは新発見だった。全く通ったこともない場所だ。


 洞窟の中に当然明かりもない。アレットは入ってすぐの暗い壁に背中を預けて座り込む。

「礼を言うぞ」

「ここで暮らしていたのか」

 中を見渡すと洞窟の中はデコボコしている以外は何もない。しかし外に出てすぐの所には焚き火をした跡ととれる薪が積まれていた。さしずめこの前手に入れた炎のチカラで火をつけたのだろうか。


 この雨、なかなかやみそうにない。せっかくだ、気になっていたことがある。ヒースはそっと口を開いた。

「なあ、一つ訊いていいか?」

「なんだ?」

 アレットは背中を預けたまま俯いている。


「アレットって名前は、お前が勝手に名乗っているのか?」

「違うぞ。アレットは私の名前だ」

 しかし一介のモンスターに名前があるのはおかしい。


「誰かにつけられたのか? 家族とか」

「家族? なんだそれは。私はずっと一人だ。この名前も目覚めた時からあったものだ。だがなぜ、この名前があるのか、私にもよく分からないのだ……」

 またしても不可解だ。その言葉を鵜呑みにするなら、生まれた時からアレットという名前があることになる。物心ついた時のことを言っているのかもしれないが、ずっと一人という言葉が引っ掛かる。



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