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序章 後編

 茜色の空。柔らかな風に揺れる木々に囲まれた、二階建ての赤い屋根と白いコンクリートで出来た家。その後ろの高台から眺めると大海原が顔を出し、森と緑に囲まれたこの空間に建つその家の前に、夕闇によって協調された人影が姿を現した。


 十日にも及ぶ長い旅から帰ってきたその体をふらつかせ、「ふざけんじゃねえぞ」と独り言の悪態をつきながらも帰宅したその男は身に着けている重装の鎧を脱ぎ、旅立つ十日前より入念に整えておいたフカフカなベッドの上にうつ伏せとなって身を預ける。


「俺の十日間を返せ……」


 目を閉じ、睡魔の川の果てに流れゆく中で今の気持ちを端的に思わず吐露した。もしも時を巻き戻せるならば十日前に戻りたい。それか旅立とうとしてる自分に「行くな」と伝えたい——


 本島から船旅三日、着いた島の船着き場から見える、遠くにそびえ立つ火山を登って二日、計五日。当然、帰りも来た道をそのまま歩いて戻って船に乗る。計十日間の長い長い旅だが、当然ただの物見遊山でこんな旅をしたのではない。


『火山の火口にあるフレアエールドラゴンの巣穴から、奴の竜骨を採ってきてくれ』


 依頼主の雪国の商人のため、十日間の旅に出た。常に炎を纏った翼で大空を飛び、空から翼を広げて火の雨を降らせてくるフレアエールドラゴンは非常に凶暴で普通に戦えば戦場となった場所はたちまち火の海となる。降ってくる炎により森は枯れ、焼け野原となる。


 赤い鱗に覆われたその強靭な肉体を形作る竜骨には特殊な炎の魔力が宿っている。実はこれが灯れば二か月は消えない暖かな炎を作り出す原料となる。極寒の北の国では暖をとれる道具は生活必需品と言っても過言ではない。これはその中でも最高の代物だ。

 そのドラゴン自体が手強く、討伐にも苦労することからその竜骨から生成出来る炎は非常に高級な一品となっている。フレアエールドラゴンのランタンは一つ買うだけでも二万はする。

 

 そんな炎の怪物が住む火山の火口にある巣穴。下手すれば鍋のようにグツグツ煮えるマグマに真っ逆さまになりかねない。

 ハンターに狙われ、巣穴に何とか逃げ帰ったが力尽きたのだろう個体の竜骨を採取するのだ、報酬はそこらの仕事クエストよりもある──そう思っていたのだが。


 船旅と登山で長い旅、それも現場は失敗すれば命はない火山の火口付近。報酬金は高くつくと思うだろう。それが帰ってきて提示されたのはたったの五千である。戦闘に長けていない者でも扱えるごく一般的な剣が買えるだけの金額だ。割に合わない。


 そして一緒についてきた報酬が一枚の珍妙な紙だった。従魔の血判状というらしい。互いに血で印をして、従魔と契約を結ぶのに使う紙なのだそうだ。舐められたものだ、ソロハンターの自分がそんなものもらって何になるというのか。装備を整える素材にもならなければ売って金にする他ない。

 

  ──従魔を持つなど、ペットを飼うことと同じなのだから。餌代もばかにならない。



 従魔。それは人間の言う事を聞くように手懐けられたモンスターの事だ。敵地の偵察係や伝書を届けるの役割をこなせる鳥類や、番犬としての役割をこなせる狼系、人を乗せて移動も出来る大きな翼と体を持った飛竜などが一般的。

 扱えれば便利かもしれない。そう、上手く扱えればの話だ。多少、餌代などを犠牲にしてでも。


 と、自分の従魔に対する見解を並べ立てながら、この紙切れをよくお世話になっている店に持って行った。こんなものは必要ない。そう決め込んで入店して要件を伝えた矢先、ブカブカな髭を生やした店主から衝撃の答えが返ってきた。なんと買い取れないのだという。すぐに反論したが、何でも、この紙切れを買い取ること自体が国の法で禁止されているのだという。


 以上、この十日間の旅の果ての報酬はたったこれだけである。命削ってるハンターの身にもなれと。なぜあの紙切れが法で禁止されているのか。

 疲れた体を引きずってそのまま真っすぐ行った、同じ街にあったギルド窓口の対応も適当だ。この紙の買い取りは法により対応出来ないと門前払いされた。珍しくどっと重くのしかかった旅の疲れで質問する気も、法についても調べる気も起きなかった。

 掲載出来ない曰くつきのクエストと紹介を受けて、興味本位で受けてしまったが、こんなにも期待を裏切られ、虚無なクエストは初めてかもしれない。


 そうして帰ってきた我が家のフカフカなベッドの上はまるで天国である。疲れがとれてくる。


 その後再び目覚めるとクエスト報酬の従魔の血判状は倉庫の奥に放り込んだ。珍しい品なので処分せずにとっておくが、二度と使わないだろう。この時はそう思っていた。


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