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今語られし真実 後編

「お前……何を言っているんだよ」

「言ったそのままだ。この剣で私をひと思いに終わらせて欲しい」


 そう言ってアレットは預かっていた、愛刀【雷光(ライトニング)疾風丸(・ゲイルソード)】を手渡してくる。そして、剣と盾を持たず、無防備状態で両手を広げた。一瞬、その豊満な体がたるむ。


「何を考えているんだ?」

「私はニンゲンだったが、今はモンスターだ。ずっと知りたかったことを教えてくれたオマエには感謝している──だが、それを知れた今、もう私が生きている意味はない」


 これまでアレットがこの世界を彷徨い続けたのはどれほどかは知らない。あの三十年前の八年戦争で人間だったアレットが死んで、今のアレットに生まれ変わるまでの時間とその彷徨い続けた日々を足し算すれば、それはどれだけ長い孤独だったか。十年、十五年、いや二十年はいくかもしれない。下手すれば二十六とかそこらを生きた自分よりアレットの方が長く生きていることになるのかもしれない。


「もう、満たされた。今ならば、死んでも何も後悔はない。逝くことが出来る。さあ、やってくれ」

 再度懇願するアレット。そんな彼女の両肩に手を置いて、広げていた手を下ろさせると、


「な、何を……早く──」

「ざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ああっ!! ……っ!」

 ヒースの鉄拳がアレットの右頬に炸裂し、軽く吹っ飛んだアレットは膝をついた。


「何をする! 早くその剣で私を終わらせてくれ! 私を殴り殺すつもりならそれでも──」

「お前は何を言っているのか分かっているのか!!!!」


 そのヒースの怒号にアレットは泣きそうな顔になって怯む。


「一度死んでこうなったとか関係ない。せっかくこうして生きてるんだ。お前がどれだけ孤独で一人ぼっちだったかは俺は知らん。けどな、ここまで一人でも生きてきた分、無駄にするなよな」

「はっ……!」

 何かに気づいたのか、アレットは目を丸くした。

「死んだらそれまでだ。それまでの分、全部が無駄になるぞ。俺は実家を出た時、自由を求めて飛び出して、時には強大な敵を前に死にたいと思う苦難にブチ当たったこともあったさ。人生終わってもいいって。けどよ、それを越えた時に一緒に戦った奴らと飲む酒や食った料理がサイコーに美味かったんだ」


 ふと、澄んだ青空を見上げると思い出が蘇る。

「その時思った。それまで苦しくても自由を求めて歩いてきたからこそ成し遂げられたんだと。その積み上げてきたものがあるからこんなに美味い飯と楽しいひと時を過ごせたんだって」


「アレット、お前が俺に遇えたのも彷徨いに彷徨い続けて、自分から死なずに懸命に生き続けてきたからだろ。それがなければ俺はわざわざ話を聞いてアンテレック王国まで行って調べることもなかっただろう」


「この瞬間も私が積み上げてきた結果だと、そう言いたいのだな?」

「一見、一日の中で何も糧はなくても、ボケっとしないで常に孤独な自分と向き合い続けてる奴ほど鮮明にその足跡は覚えているものだ」


「その足跡を糧に、また新しい方向へと歩を進めることが出来る。連続の積み重ねを否定するな。お前が死ねば、俺がお前のためにしたこともお前がそれまで積み上げて生きてきたものも無駄になっちまうだろうが」


「ぐっ……」

 アレットの両目から溢れ始める、輝かしい雫。モンスターが泣く姿というのは痛がる時とかぐらいで、こんなに言葉責めされて泣く姿はとても珍しく見えた。


「だが、私はこれからどう生きればいいのか、分からない……貴様、いやガース……名前はなんといったっけ……」

 思わず苦笑してズッコけてしまった。

「そっちかよ。ガースじゃねえ、俺はヒース! ヒース・トレヴァー」


「そうだ、ヒースだ、ヒース。忘れてしまっていたぞ」

「誰だよガースって……」

「もう、いいだろ!! 記憶が曖昧になっていたからとっさに出た名前だ、ヒース」

 そうやってムキになる姿は怒っているのにどこか滑稽で可愛らしく見えた。


「ヒース、私はこれからどうすれば良いのだ? オマエはハンターとしての道があるだろう?」

「俺と一緒に来い」

 すると次の瞬間、アレットは少し飛びあがって、

「に、ニンゲンと一緒に暮らせだとー!? 私は元はニンゲンでも今はモンスター。相容れられない!」


「けどこうして言葉で語り合ってるじゃねえか。お前は俺のことをどう思ってる? 俺をここで斬るか?」

「!? オマエはニンゲンだが……斬りたくは……ない……な……」

 目が右往左往するアレット。


「だが、私はモンスターだ。私とともにいる事が、他のニンゲンに知れたらオマエも敵を作ることになってしまうぞ」

「そんなの、お前がその鎧姿をやめれば良い話だ」

「ひっ、私に脱げというのか!?」


「違う。着替えればいいんだ。お前は水浴びをする時はその服のまま入るのか?」

「い、いや……これは武器も含めて種族の体の一部でもあり、私が念じればいつでも呼び出せるし消せるものだ」

「やはりか」


 この手のモンスターは体を洗う際、噂によると誰にも見られない場所で自ら身につけてるものを脱いで洗っているという。モンスターでも、人間の女と変わりはない。本当だったようだ。前にその水浴びの様を写真に収めたという勇者を見たことがあるが、本当なのか疑わしかった所だ。


 種族の特徴である鎧や武具から着替えてしまえば、彼女もモンスターとはまず気づかれないだろう。足まで届きそうな美しい金髪にスタイル抜群な体は見る人を惹き付けること間違いないが。


 鎧を脱がされ、慣れない格好に強制的にさせられるのはいい気がしないだろう。だが一つだけある。たとえモンスターでも、合法でともに生きる道が。それもしっかり見つけてきたのだから。ちょっと悪戯っぽく言ってみる。


「とは言ったものの、実は人間とモンスターが共存する方法は一つあるにはあるんだなー、これが」

「あるのか!? あるんだったら先にそれを言え!」

 ある。お前と出会うよりも前に、あの十日間の長い旅の末に手に入れた()()が。


「聞きたいなら俺に着いてきたら教えてやる。どうするんだ? アレット。一人であてもなく生きるか、それとも俺と来るか?」

「そ、それは……」

 アレットの瞳が左右に動く。どうしようか思い悩む目。その答えは──

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