探求の旅 後編
あれからどれぐらい調査をしただろうか。持ってきたパンと水が底を突いてしまい、その疲労に耐えられず、塔と王国を後にした。愛車のハンドルを握り、帰路に着く。門番曰く、どうやら二日ここにいたようだ。全然そんな実感はわかない。
あの後、少し調査の方針を転換した。それまではひたすら埋まっている宝物を掘り当てようとするが如く、掘り進めるような調査だったものを、彷徨う御霊が亡者の軍団であるアンデッド、即ちモンスターになる仕組みについてより詳しく書かれた本がないかを深掘りして探し回った。
余談だが、ここよりも遥か遠くの幻獣が治める大国に対し、かつて世界を征服すべく地中より現れた悪魔グラト・ヴェルゼバルの仕掛けた八年戦争について書かれた本にもざっと目を通した。八年というのは文字通りその八年間、幻獣とそのチカラをもらった人間達と悪魔軍の間でずっと戦争が起きていたことに由来する。
何せ今から三十年前の出来事だ。体験したわけでもなく物心つき始めた幼い頃に習った程度の知識しかない。今は当時の戦争について書き記された書物でしか確認出来ない。それに関する書物もこの書庫にはいくつか眠っていた。
侵略で近隣の多くの村や街が悪魔軍の襲撃で火の海となり、更に殺された住民の御霊からアンデッドが自然発生して大惨事だったという。戦時中ゆえに御霊を成仏させる儀式も行えず、誰も止められないまま第三勢力とも言える縦横無尽に暴れ回るアンデッド軍団の出現を許してしまった。
死者の魂がアンデッドではないモンスターに変貌したことで起こった過去の事件の記録も探ってみた。
求婚を迫ったある貴族が花嫁に逆に殺され、その貴族の御霊が山のように巨大な怪物に変貌して花嫁とその家を滅ぼしてハンターに討伐されたり、志半ばで力尽きた有名な探検家が成仏出来ず蜘蛛のモンスターとなって国を襲ったりと、事件が起こる前にキーとなる人物の死亡が明確となっていて認定されたものが殆どだ。
八年戦争中も殺された人間や悪魔の御霊が変貌したモンスターによって被害を受けた記録がある。それはまるで、戦争という行為を忌まわしく思った神の怒りのように災いを拡大させている。
これまで、何気なく依頼で狩ってきたアンデッド。死が具現化した存在程度の認識しかなかったが、こうして調査を重ねるうちに、積み重なった死が原因となって引き起こす、ある種の自然災害のようにも見えてきた。
この大地に生命がある以上、死は必然だ。生きるために狩る者、狩られる者。狩るか、狩られるか。これらが一度でも発生する度に必ず最後は死が待っている。そうして溢れかえる膨大な命の無念の残滓が時として引き起こす自然現象とも言うべきだろう。
──ブチッ……!
今、運転中と愛車のタイヤが何かを下敷きにして破裂させたような音がした。たぶん、道の真ん中にいた小動物を踏みつけたのだろう。タイヤは今頃赤く染まっている。よくあることだ。
このように、意図せずとも理不尽に踏み潰してしまう命もある。そうして奪われた命も成仏するとは限らない。暫く経てば、また別の災いを引き起こす引き金となるやもしれない。
ハンターが仕事のために狩ったモンスターの命も同じだ。金と報酬のためにモンスターを狩る。途方も無い無限連鎖反応。生まれ、そして死した肉体が大地の糧となり同時に、生と死の連鎖と繰り返しでこの世界は成立している。
考えはまとまった。さあ、アレットと名乗っている彼女が知りたがっている真実をありのままに教えてあげよう。これが現実であることを教えてスッキリさせてやろう。預けてきた愛剣も返してもらわなければならない。自然と車の運転にも力が入った。
──と、そうだ。一つ用事があった。一度、家に寄り道してから彼女のもとに車を飛ばそう。
そういえばあの紙切れ──従魔の血判状についても調べて分かった事がある。なぜあの紙切れの買い取りが法で禁じられているのか。その理由はなんなのか。法を考えた人間は思い込みが激しく、考えが飛躍しすぎかもしれないと思っていたが、頷けるものがあった。