王立学園体育祭~先触れリレー篇~
第四回なろうラジオ大賞参加作品第二十九弾!
「クラウス逹ー! 頑張ってー!」
お嬢様の声援が聞こえる。
本来ならそれでやる気を出すのが使用人なのかもしれないが、現在俺は困惑していた。
なぜなら今日はお嬢様が通う学園の体育祭の日で。
そして俺はその学園の運動場の発走路の上にいるのだから。
いや、正確に言えば俺だけではない。
他の家の使用人や騎士団の騎士もいる。
なぜならば今からやる競技が、先触れの役目を主に任せられる連中限定のリレーだからだ。
まさか体育祭でそんな競技が行われるとは。
少なくとも去年までそんな競技はなかったから、今年から採用されたと思うが、いったい誰が考えたんだか。いや面白いけど。でもお嬢様達が主役の大会で使用人風情が目立つのもどうかと思う。だけど親子二人三脚においてお嬢様と最近メタボ気味な旦那様も頑張っていたし、ここでやる気を出さないワケにもいくまい。
なので俺はお嬢様に手を振っておいた。
他の選手達も各々の雇い主に手を振る。
みんな苦笑していた。
俺と同じく、自分達が必要以上に目立つ機会に慣れないんだろう。
「位置について、よぉい!」
おっと、そんな中でついに競技は始まった。
指示通り位置につくと、スターターピストルが鳴る。
と同時に俺は走り出す。
くっ、先触れを任されるだけあってみんな速い。
だがここで負けるワケにはいかない。
お嬢様が見ているのだ。たとえ勝つ事はできなくとも……ビリになったとしても無様な結果だけは残せない。
俺の全力を……ここで発揮する!
明日から本気出す、なんて事だけは絶対にしない!
一人、二人、三人を抜く。
残り四人……だがその四人が信じられないほど速い!
まさか足の速さだけで、主に先触れ要員としての使用人や騎士に採用された存在ではないかと思うくらい速い!
それでも俺は頑張る。
雇い主に笑顔でいてもらいたいのは……俺だって同じなんだから!!
しかし第二走者まであと少しという所になっても、俺はその四人を抜く事ができなかった。
くっ、こうなったら!
悔しいがもうこれしかない!
「く、クラウス……た……のむ……」
「ああ、任せてくれたまえデリク!」
俺は使用人仲間にして、俺より足が速い先触れ要員ことクラウスに後を託す。
第二走者である彼は俺に対し良い笑顔をすると、すぐに俺が渡したバトンを掴み本気で走り出す。
他の選手を何人か抜いた、のまでは確認できた。
さて、俺も息を整え次第クラウスを応援しよう。
お嬢様の笑顔のために。今できるのはそれだけだから。
「えっ!? 来年もやるって!? …………今から走っておこう」
ご近所への先触れ担当か。
もしくはこの世界には馬がいないのか(ぇ