守護天使様
いや、そんなデスゲーム聞いたことがない。
「【残り99人 あなたの残高:10億1000万アペイロン】」
スマホ画面の表示は、そう更新されていた。
そうか。殺された奴の持っていた分が分配されたのか。
殺せば殺すほど、生き残りの保有する資産が増えていくというわけか。殺し合いを促進させるためのルールだ。
「確かにこれはヤバい。逃げないと!」
俺はすかさず京の手を掴み、駅に向かって走る。すかさずICカードをタッチして改札を抜けようとするが、警告音が鳴り響いた。
「な……残高が、表示されていない?」
単なるチャージ不足なら分かる。だが、改札機の画面表示は真っ黒で、何も表示されていなかった。
浮き上がるのは、【Paradiso Game】という白文字。
俺は鳥肌が立った。
逃げ場がない。
電子マネーまで使用禁止にされているのか?
俺は仕方なく、現金を引き出すためにATMに駆け込む。だが、そこでも結果は同じだった。
「春海、これって……」
京は不安そうにこちらを覗き込んでいる。
「なんかの間違いだろ。たぶんどうにかなる」
「本当に? 誰が味方で誰が敵かも分からないのに?」
「あぁ、根拠は言えないが大丈夫だという確証はある」
俺は背後を振り返る。
そこにはいつも通り、守護天使様が立っていた。
荊冠に似た漆黒の光輪が頭上に浮かんでいる、白い翼の生えた全身白ずくめの女性。
紛れもない、俺の守護天使様だ。
俺が今まで殺されず、殺人『未遂』で済んできたのも、この方のおかげだ。
だから俺は慌てないし、何も心配していない。全てこの守護天使様が、なんとかしてくれるからだ。
それにあの男は指名手配犯だったようだが、俺たちに犯罪歴はない。どう転んでも大丈夫だ。
「……分かった。今は春海を信じるよ」
京はなおも不安げだが、そう言ってくれた。
「とはいえ、警官が指名手配犯をいきなり撃ち殺したのには疑問が残る。何らかの誤情報が流されている可能性はあるな」
俺は冷静に分析する。なんせ、この手のゲームに参加するのは二回目だからな。嫌でも慣れる。
『あのとき』よりはだいぶやりやすいルールだ。イレギュラーな要素が少ない。
暗号資産をより多く手に入れるため、殺し合わせるという単純なゲーム。
だが、こんな街中でいきなり始まるなんて、ゲームの存在を隠す気が無いのか?
もしないのだとしたら、国家権力を後ろ盾に運営されている可能性もある。そうなると厄介だ。
「ねぇ、一人で考え込んでないで、なんか分かったなら教えてよ……」
京は消え入りそうな声で尋ねる。
京のメンタルの方も心配だな。